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2005年08月18日

放送と通信の融合が提起しているもの

テレビのデジタル化で録画が自由に行われるようになると、それを自宅で見るばかりでなく、インターネットで遠隔地に送って、そこで同じように楽しむこともできる。係争中の「録画ネット」をめぐる訴訟は、たとえばハワイに長期滞在中に日本の自宅から録画テレビを受信するのは合法で、同じ録画テレビの番組を多くの日系ハワイ人に提供するのはなぜ違法なのかを争点にしている。

そこには、著作権法上の例外措置である「私的使用のための複製」の範囲をめぐる論議も反映されているが、「録画ネット」を訴えたNHKや民放在京5社は、この種のビジネスそのものを禁じようとしているようで、「録画ネット」側は「自前で機器を整備できない海外在住日本人に、技術がもたらす恩恵を享受する手段を提供するのがなぜいけないのか」と、それ自体きわめてまっとうな主張をしている。

ところで、ここにきてテレビ会社そのものが直接、自社番組をネットで配信する動きが急になってきた。

すでに日本テレビ放送網は10月からインターネットで自社番組を有料配信することを決めているし、アメリカでも三大ネットワークのABCとニュース専門局CNNが9月からネットで番組を無料配信する。有料、無料とやり方は違うが、ともに頼りはネットの広告収入だ。テレビのデジタル録音でコマーシャル部分を飛ばされて視聴されるなど、テレビ広告が頭打ちになっている事情も影響しているが、インターネット回線の大容量化が進めば、通信と放送の境界がなくなるのはもはや自明の理である。

番組制作時の著作権問題など、新しいビジネスモデル構築にあたって解決しなければならない課題は多いとしても、すでに「録画ネット」のようなビジネス自体を拒否する理由はないともいえよう。

訴状によれば、テレビ会社側は国内視聴に限定している番組を国外に出すことに異議を唱えているし、近い将来地上波デジタル放送を光通信で送信する方針を決めた総務省(情報通信審議会)も、既存システムとの整合性を考え、地方局の放送に関しては現放送対象地域以外では視聴できなくする、などの条件をつけている。

しかし、視聴者を県単位や国内に限定するのは、たんに従来の技術的制約のためでしかなく、他の地方局の番組や国外のさまざまな番組も自由に受信できるメリットをあえて殺すようなやり方はとても現実的とはいえない。従来の技術的制約のもとに成立している現システムを(既得権保護のために)温存するのではなく、新しい技術の可能性を大胆に取り込んだ上で、何よりも視聴者にとって有意義なシステムを再構築することこそが大切である。

その際真剣に考えるべきことは、「電波の希少性」や「影響の大きさ」を根拠に放送に課せられている「公共性」のあり方や、どちらかといと出版と同じように何の制約もなかった通信内容に関する「表現の自由」のあり方をどう考えるのかといった、より根本的な問題だと思われる。

投稿者: Naoaki Yano | 2005年08月18日 23:29

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