藤沢久美『なぜ、御用聞きビジネスが伸びているのか』(ダイヤモンド社)
グローバルな時代だからこそ、地域が見直され、個人一人ひとりのユーザーを視野においた中小企業のきめ細かな商売が脚光をあびるのだろう。まさに「逆転の発想」がここにある。
メーカーへのクレームを受けつける部門がじつは別会社だったり、いろんな会社のクレームだけを聞く専門会社があったりすることを、私は以前から不思議に思い、また情報技術の使い方を誤っているのではないかとも思っていた。
消費者からのクレームこそ新たな商品開発のきっかけなのに、それを他社に請け負わせていたのでは、まさに宝の持ち腐れである。消費者からすれば、紙に書かれた「月例クレーム報告」が当該企業に回されるだけでは、果たして改善されるかどうかも心もとない。商品を作っている現場の作業員がクレームを聞いてはじめてその意味するところもわかるし、よき改善策も生まれよう。クレーム報告書を事務部門がチェックしているだけでは、けっして新しい商品は生まれないはずだからである。
インターネットの世界は「WEB2.0」などと、データおよびその操作技術が脚光をあびているが、だからこそ一方で、生身の個人と直接接することの重要性が増してくる。昔なつかしい「御用聞きビジネス」の復活は、理由のあることだと思われる。
いまは万人に「編集」の技術が必要だという私の見解が裏付けられる事実もたくさんあった。
戦後まもなく雑誌『理論』を創刊し、その後、創作児童文学の世界で大きな業績を残した出版人、小宮山量平は、編集者の資質として大略、以下の3点をあげている。
第一は、つねに総合的認識者という立場を持続できること。森羅万象にすなおに驚き感動する心をもち、しかも一つの専門にかたよらない、むしろ専門自体になることを拒否することで総合的認識の持続をつらぬく気概をもつこと。
第二は、知的創造の立会人という役割に徹すること。それはアシスタントであり、ときにアドバイザーでもある。そのためには、あらゆるものの存在理由について無限の寛容性をもつ「惚れやすさ」、著者の創造過程に同化しつつ、著者を励ます「聞き上手」、そして相対的批判者の立場から誉め批評ができる「ほめ上手」の三つの役割を、うまく果たさなければならない。
第三は、自分が制作する出版物を広く普及するため、特有の見識をそなえ、力倆を発揮しうること。
本書では、マーケティング技術としての「雑談リサーチ」の重要性を上げているが、雑談上手=優秀な編集者、ということでもあろう。
その際の編集技術とは、ものを書いたり編集したりすることより広い、人間の生き方そのものでもある。「この詫び状も、形式的なものではありません。すべて手書きです」、「驚きと感動を呼ぶ情報発信」、商品にまつわる「物語」が大切、という話など、なかなか興味深かった(私の編集観については『情報編集の技術』を参照してほしい)。
投稿者: Naoaki Yano | 2005年11月14日 11:32