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2005年12月22日

新聞の凋落とブログの奮闘

マンション耐震強度偽装事件と「報道」に関連して興味深いのは、マスメディア、とくに新聞の凋落とブログの奮闘ではないだろうか。

この事件は1年も前から一部で話題になっていたにも関わらず、マスメディアはいっさい報道しなかった。ほんの十数年前であれば、どこかの社会部あたりがスクープしていい問題であり、かつそれができる状況でもあったように思われる。その後の、なかなか核心に入らず、事件の周辺をただ彷徨しているような報道姿勢も含めて、既存マスメディアの足腰の衰えを感じざるを得ない。

これに対して、「きっこの日記」というブログは、事件発覚当初から背景に総合経営研究所が存在すると指摘するなど、その情報収集力、素朴な「驚き」と「怒り」、事件の全体構造をとらえようとする「気迫」などでマスメディアを数歩も先んじていた。ブログ主宰者は「ヘアーメイクを職とする女性」とのみ表明されているが、社会全体の「ジャーナリズム」機能が、「マスメディア」から「パーソナルメディア」へと移動したような感じさえする。

最近では、姉歯一級建築士が行った構造計算書の不正を見落とした民間検査機関、イーホームズの藤田東吾社長が、この日記にメールを送って内実を暴露している。また、衆議院国交委の証人喚問で活躍した民主党の馬淵澄夫議員事務所と連絡を取り合い、さらなる証人喚問をすべきか否かについて全国会議員を対象にアンケートするよう民放テレビ番組に働きかけるキャンペーンを張るなど、新聞顔向けの活躍ぶりである。

呼びかけに応じたと報告するメールが一日で8000通以上あったらしいが、それが事実なら、このブログの「視聴率」はきわめて高い(読者の投票行動をもとにブログのランキングをしている「ブログランキング」の総合ランキングで、ついに姉妹ブログ「きっこのブログ」が1位となった。他のブログが芸能ネタ中心なのをみると、きわめて異例でもある。ちなみに「がんばれ、生協の白石さん!」も6位に入っている。12月22日現在)。

藤田社長は、「きっこの日記」へのメールで、姉歯建築士とイーホームズだけがスケープゴートにされそうになったと書いているが、彼がマスメディアに「内部告発」せず、一民間人がやっているブログにメールを送った理由は、自分も知らない事実が書かれたこのブログに信頼感を持ったからのようだ(イーホームズのウエブでは、このブログが「全容解明に資する重要な情報が存在」するとして紹介されている)。

来年4月から施行される公益通報者保護法は、結局は内部告発を業界内、あるいはせいぜい監督官庁どまりに封じ込める恐れが強いと私は思っているが、マスメディアは同法施行を待たずに、すでに内部告発の受け皿足りえなくなっているようにすら思われる。

犯罪被害者等基本法をめぐる匿名論議にしても、すでにマスメディアだけの問題ではないが(「犯罪被害者等基本法と現代ジャーナリズムの危機」)、たとえマスメディアvs国家権力という図式内だけで考えても、かつてなら警察が仮に匿名発表しても、ジャーナリストは簡単に実名を割り出してしまい、かえって逆効果だから、あらかじめ報道機関の協力を得ようと考えた面があったと思われるが、いまのマスメディアには「警察が匿名にしたら、ボク困るじゃない」というやわな感じをぬぐえず、警察の方でも、そういう足腰の弱さを見透かしたところがある(キャスターたちが反対声明を出すこと自体はともかく、彼らにも「総メディア社会」の本質が見えていないように思われる)。

投稿者: Naoaki Yano | 2005年12月22日 23:03

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