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2006年04月28日

佐々木俊尚『グーグル Google』(文春新書)

グーグル―Google 既存のビジネスを破壊する  文春新書 (501)
IT社会を根底から揺り動かしているアメリカの新興企業、いやすでに巨大企業ともなった「グーグル」に関する時宜を得た好著である。

グーグルはサイバー空間のあり方を革命的に変え、同時に私たちが住む現実世界を激変させているが、その本質的な意味を理解している人はまだ少ない。グーグルが推進する社会変革を、海の向こうの出来事をただ紹介するのではなく、日本の都心や地方で実際に起こっている具体例を取材しながら追求する姿勢に、ジャーナリストの本領が発揮されている。このグローバルな、同時多発的な展開こそIT社会の姿である。

<情報収集>→<ナビゲーション>→<広告>

検索とはもともと、インターネット上にどのような情報があるかを調べる<情報収集> の道具だったが、性能の向上であらゆる情報が検索できるようになって、何らかの行動を起こすためのガイドや<ナビゲーション>として利用されるようになった。

たとえば若者がデートの準備に、グーグルで「東京湾 屋形船」というキーワード検索をしたとしよう。「屋形船 東京湾遊覧コース」を筆頭に(なんと)10万件以上の検索結果が得られる。たいていの人が最初に掲示される十数件のどれかをクリックするだろう。そうであれば、東京湾で屋形船を営業している業者は、自分のウエブがなるべく検索の上位に掲示されることを望むわけで、ここに検索は<広告>としての効果を持つようになった。

この検索に関しては、ウエブの相互リンクの実態を反映させながら、妥当で公平な検索順位(ページランク)を保とうとするグーグルと、なるべく自分のウエブを上位に持っていきたいウエブ製作者(業者、研究機関、あるいは個人)の間で、ランク付けのアルゴリズム(組み立ての手順)をめぐって虚々実々の駆け引きが展開されてきた。たまたまグーグル検索で上位にランクされた地方の店に全国から注文が殺到したり、グーグルがちょっとアルゴリズムをいじったために、上位からすべり落ちた町の工場が破産しそうになったり、という話はすでによく知られている。

これがつい最近までの検索サイトの状況だった。

ところが数年前から、検索ランクの右側に「スポンサー」という欄ができ、そこに広告が載るようになった。「東京湾 屋形船」の場合は、6つの屋形船会社の広告が出ている(4月28日現在)。これが検索連動型広告、あるいはキーワード広告と言われる<新しい広告>である。

東京湾の屋形船会社6社が、「東京湾 屋形船」というキーワードの組み合わせをグーグルから買い、オークションで高い値をつけた会社ほど上位にランクされているわけである(「東京湾 屋形船」より「東京湾 夜景」の組み合わせの方が効果的ではないかと、屋形船会社が知恵を絞る話が本書に出ている。試みに「キャッシング」で検索すると、右側にずらりと広告が並んでいる。この場合、上位に掲載されるための広告料金は高くなるが、きわめて個別なキーワードで他に希望者がいない場合は逆に安くなる)。

<キーワード広告は社会を変える>

この意味するところは、個人一人ひとりの検索行為そのものがグーグルによって<オークションにかけられている>ということである。みんながウエブ上に書きつけたデジタル文字(キーワード)が、グーグルによって勝手に<売りに出されている>ということでもあろう。

検索連動型広告は、マスメディア広告と違って、ねらうユーザーに的を絞り込める上に、費用は格段に安く、逆に効果は高い。マスメディアには高くて広告を出せない地方の商店主もポケットマネーで全国に向かって広告を打てる(本書には、そうして成功した羽田空港近くの駐車場の話や福井のメッキ工場の実例が紹介されている)。グーグルは「薄利多売」方式で巨額の広告費を(まさに「ロングテール」から)稼ぎ、いまや超優良企業になり、その検索システムは<世界を変える道具>になった。それは当然、広告ビジネス地図にも大きな影響を与えつつある(ヤフーやアマゾンなどのIT企業もすでに同種のサービスを始めている)。

だからグーグルは検索のための強力なツールを全世界のユーザーに向かってどんどん無料で提供している。それは私たちにとってたいへん便利な道具なのだが、それを活用する行為は、背景で繰り広げられる新しいビジネスの誕生、一方における古い企業の駆逐といった、現実世界の激変とそのままリンクしている。それほどまでに一人ひとりの小さな行為の意味は大きく、インターネットを利用する人は、もはやグーグル(をはじめとするIT企業)の網から逃れることは難しい。

グーグル登場によってサイバー空間のあり方は革命的に変わったし、そのことでグーグルはあっという間に巨大企業へと成長した。これを「グーグル革命」と呼んでもいいと思うが、このグーグルに牽引されることで多くのIT企業もまた、世に「Web2.0」と呼ばれる技術潮流へと大きく舵を切り始めている。たった8年前に成立した企業が世界を支配しつつある。このようなことは歴史上かつてない出来事であろう。

グーグルのとてつもない戦略や仕組み、「グーグルニュース」、「グーグルマップ」、「アドセンス」など驚異のサービス、若い会社の歴史などは、本書に要領よく紹介されている(グーグルはGメールというフリーメールサービスを開始したが、個人間のメールにも、コンピュータで自動的に広告を入れることを考えているという)。

私としては、サイバー空間が現実世界を激しく変えており、現代IT社会に生きる私たちは、サイバー空間の網に完全に捉えられ、もはや逃げ場はほとんどないことを強調したい。そうであれば、この現実世界をしっかりと見つめて、一人ひとりの生き方をあらためて考えていくべきであろう。それが「サイバー空間の挑戦に応戦しなくてはならない」と私が言う「重い荷物」の意味である。

その点に関しては、第六章「ネット社会に出現した『巨大な権力』」が興味深く、「グーグル八分」といった大いに考えさせられる実例などが紹介されている。この本を読んで思うのは、IT社会を正面から捉えようとするジャーナリズムの活動がようやく実りつつあるということである。それが、大手新聞社を中途退社したフリージャーナリストによって成し遂げられつつあるのも、「総メディア社会」の現象としてたいへん興味深い。

投稿者: Naoaki Yano | 2006年04月28日 21:04

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