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2006年06月06日

大鹿靖明『ヒルズ黙示録 検証・ライブドア』(朝日新聞社)

ヒルズ黙示録―検証・ライブドア
朝日新聞社の週刊誌『アエラ』記者による、いま一番ホットな話題の「実録」。主人公は堀江貴文をはじめとするライブドア幹部、村上ファンドの村上世彰代表、楽天の三木谷浩史社長など、東京・六本木ヒルズを根城とするIT起業家群である。

具体的なエピソードで綴られており、取材源への食い込み、全体を見通す目、ヒューマンなタッチなど、かっこうの取材対象を得た記者の手腕が光る。日本IT最前線では日夜このような人間模様が繰り広げられているのか、と興味尽きない思いがする。

著者は村上世彰逮捕が報じられた6月5日に発売された『アエラ』(6月12日号)誌上で「村上ファンドの崩壊」という記事を「東京地検特捜部が、昨年2月8日にあったライブドアのニッポン放送株大量取得に関連して、元通産官僚の村上世彰代表が率いる村上ファンドの証券取引法違反(インサイダー取引)を疑ったのは、拙著『ヒルズ黙示録』が今年4月7日に発売されてからである」と書き出しているが、朝日新聞社からこういうホットな本が出版されたことを、同社出版局OBとしてまず喜びたい。

本書には以下のようなことが書かれている。

村上世彰は、ライブドアがニッポン放送株を電撃的に取得した2月8日、「俺とお前の玉(株)を合わせれば、ニッポン放送の株の50%は取れる。一緒にやろう。がんばろうな」と堀江を励ましたが、その翌日か翌々日、ニッポン放送株が高騰したのを見て豹変、「堀江、すまんな、持っているニッポン放送株を売るよ」と電話した。ほぼ同じころ、複数のライフドア幹部に「まさか、こんなに相場が上がるとは思わなかったよ。俺はファンドマネージャーなんだ。ひと様のお金を預かっているんだから、高いほうに売らないといけないんだよ。分かるだろ、な、な、な」と言った、と。

「な」を三回繰り返したのを、目撃者は記憶している。村上は、大きな瞳をまん丸に見開いて、両手を広げ、口を尖らして「な、な、な」と言った。その光景を目撃者は「あの顔とあの目とあのしぐさは、一生忘れないだろう」と振り返る(本書127ページ)。

最後に逮捕されたライブドア幹部の熊谷史人氏は、逮捕直前の2月21日、著者への最後の電話で、「こういう形でボクたちがつぶされていくのは本当に残念。でも面白かったでしょう?こんな奴ら、めったにいなかったでしょ」と語ったという。ちょっと、ほろりとさせられるエピソードである。

村上世彰氏に関してはやや辛く、「村上には、あざとく立ち回り、巧みに利益を追求する、したたかなファンドマネージャーの顔がある反面、株主への還元やコーポレート・ガバナンスなどを訴えるオピニオン・リーダーとしての『正義』の顔ももっている。その二面性は、前と後ろに二つの顔を有し、光と闇、善と悪などあらゆる対立物を象徴する古代ローマの神・ヤヌスを思わせる」と書いている。

著者は「ライブドア事件は、この国の長期不況が収まり、オールドエコノミーが息を吹き返すタイミングでおきている。ヒルズ族を象徴したライブドアは、そんな時代の転換点の徒花だった。楽天の三木谷も、村上世彰も、オールドエコノミーの疲弊期に主役に躍り出て、カネ余りという武器を持った」と書いているが、ライブドア事件、村上逮捕と続く検察主導の一連の事件が、これからのIT社会にどのような影響を与えるのか、これはこれできわめて興味深い。

時代はまさに激動期にあるが、この本を読んでいると、さらに大きな混沌への予兆も感じさせられる。

投稿者: Naoaki Yano | 2006年06月06日 12:00

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