開校2年目を迎えるサイバー大学(2008/1)
2007年4月に開校したサイバー大学(吉村作治学長)は、初めての株式会社立大学であると同時に、本格的にeラーニングを取り入れた「キャンパスのない大学」である。実は、私もその教授陣の一人として、新しい教育実践に取り組んでいる。年の初めのくつろいだ話題として、新しい「学びのスタイル」の実態を報告しよう。
生徒の半数以上が社会人
サイバー大学は、だれもが(高校卒業資格は必要)インターネットを通じて学べ、卒業すれば、ふつうの大学と同じ学士の資格を得られるが、興味のある講座だけを履修する制度もある。春秋の2学期制で、秋からでも参加できる。
初年度の正科生600人強のうち半数以上が社会人で、後は高校卒業者、定年退職者、主婦といった構成になっている。年齢的には20代~30代で4分の3近くを占めるが、10代も、60代以上の人もいる。首都圏の人が3分の1強だが、事務局を福岡に置いている関係で、九州の人が4分の1いる(それぞれの構成比グラフは、サイバー大学ホームページから)。
世界遺産学部とIT総合学部
世界遺産学部とIT総合学部の2部があり、私の所属するのはIT総合学部(石田晴久学部長)で、「サイバーリテラシーと情報倫理」という通しテーマの講義をもっている。「朋あり、遠方より来る、サイバー大学でサイバーリテラシーを学ぶ、また楽しからずや」というのがキャッチコピーである(笑)。ここでは、IT総合学部から見たサイバー大学の姿を報告しよう。
授業は、あらかじめ作られた教材を、インターネットを通じて見る形で進められる。この点は放送大学と似ているけれど、パソコンとブロードバンドの環境さえあれば、どこからでも、いつでも(深夜でも)、授業に参加でき、重要なテキストは主としてパワーポイントファイルで提示される。対面的なコミュニケーションが不足しがちなのを補うために、教師が質問に答えるQ&Aコーナー、受講生同士が議論するディベート・ルームなどインタラクティブ(双方向的)な工夫がいろいろ試みられている。コミュニケーション広場のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)では、学生同士が講義や趣味などで楽しく話し合っている。暮れは忘年会のお誘いなどでにぎやかだった。
高い学習意欲に驚く
IT総合学部の講義科目は、「パソコンの歴史」、「ソフトウエア概論」、「楽しい数学」、「プロジェクトマネジメント」、「情報セキュリティ」、「ITビジネス経営論」、「起業」など、「最先端の情報技術を総合的にとらえ、技術の研究教育と、それをビジネスに活かせる人材の育成を目的」としたカリキュラムが組まれている。
ふつうの(リアルな)大学と違って、いったん社会に出た後に、プログラムやセキュリティなどの実務知識を得てスキルアップをはかりたい人や、自分が生きているIT社会について広い視野をもちたいと思う人が入ってきており、その学習意欲の高さは驚くほどである。仕事が忙しくなると、どうしても土、日の休暇を割いて授業を聞いたり、レポートを書いたりしなくてはならないけれど、目を真っ赤にして(?)取り組んでいる(ようだ)。
たとえば私の「IT社会の生き方と情報倫理」という講義の場合、20分ほど「情報を盗むこと」、「なぜケータイではドタキャンしやすいか」、「個人情報の『過』保護について」、「企業モラルの崩壊」などの具体的テーマについて、若干の事例や考え方のヒントを講義したあと、レポートを書いてもらっているが、この提出率が、秋学期の場合で、毎回80パーセントある。ふつうの大学ではちょっと考えられないほどの高率ではないだろうか。他の人の授業でも、おしなべて出席率が高く、中には100パーセント出席という講義もあるとか。
春学期の演習の最後に授業の感想を書いてもらったら、多くの人が、「社会に出てから、こんなに考える経験をしたことがなかった」、「自分の頭で考え、それを文章にすることの大切さを知った」、「最初はついていくのが大変だったが、だんだんレポートを書くのが楽しくなった」という、これも、教師冥利につきる感想を送ってくれた。
年齢や職業が違う人たちがともに学ぶ、というのも、いい効果を上げているようだ。eラーニングは、一般の大学でも効果的な教育手段として使われているが、サイバー大学では、講座を大学外に公開したり、今年暮からはケータイでもアクセスできる「ケータイ・キャンパス」をオープンしたり、さらに新しい試みに挑戦している。
インターネットの普及で、学びのスタイルもこれからだいぶ変わりそうである。
投稿者: Naoaki Yano | 2008年03月09日 16:05