任天堂の新型ゲーム機「Wii」(2008/2)
正月休みに帰省した息子家族が、いま人気の任天堂の新型ゲーム機「Wii(ウイー)」を持ってきた。平たいバランスボードに乗ってゲームする「WiiFit(ウイーフィット)」も発売されたばかりで、「ついでにフィットも買おう」と、30日夜にアマゾンで注文したら、大晦日の31日夜に、予定通り配達されてきた。今年の年末年始はウイーモードの家族団欒となり、年越しそばも食べずに終わった。
テレビ画面に向かってテニス
ウィーは任天堂が2006年暮れに売り出したゲーム機で、本体をテレビと接続し、テレビ画面の上にセンサーを取り付ける。手に持ったコントローラ(リモコン)を前後左右に振ったり、ねじったりすると(要は、振りまわすと)、体の動きが無線を通じて画面(コンピュータ)に伝えられる(コントローラにはボタンもついており、場合によってはそれも操作する)。
テニスゲームを例にとって説明しよう。ソフトを起動させると、画面上のテニスコートにダブルスのプレイヤー4人が現れる。その中の1人を自分のアバター(あらかじめ名前や顔などを入力しておく)に変え、コントローラをラケットの柄に見立てて、上から振り下ろしてサービス、ゲーム開始である。
コントローラに与えるひねりやスピード、ボールとの接触タイミングなどがコンピュータに伝えられ、ボールはそれに応じた軌跡を描くので、実際のテニスをやっている気分になる。スライスもスピンもかけられるし、ロブも上げられる。どういう仕掛けかよくわからないが、うまいタイミングでサービスすると、弾丸サーブが飛んでいき、サービスエースもとれる。
プレイヤーを2人にすれば、恋人や家族といっしょにダブルスを楽しめる。あくまで擬似体験ではあるが、思わず前に駆け込んだり、しゃがんだりするから、けっこう運動になる。ゲームといえば、小さな部屋に閉じこもり、1人でただひたすら打ち込むというイメージが強かったが、こちらは大きなジェスチャーでボールを追っかけたり、「ヤッター」と叫んだりして、なかなか「健康的」である。回りで見ていてもけっこう楽しく、「今度は自分の番」だと乗り出してくるから、たしかに立派な家族団欒になる。
「肉体の動き」取り込みがカギ
ウイーフィットの方は、タレントを使った派手な宣伝が展開中だからご存知の方も多いだろうが、体重計のような平たいボード(コントローラ)にいろんな圧力センサーがついており、その上に乗ると体重移動などの情報が画面に伝えられる。最初に体のバランスをとるテストがあり、日々の体重なども計測して記録してくれるから、これは簡易健康機器でもある(実際、「健康管理ソフト」が用意されている)。ボード上で体重操作しながらヨガやエアロビクスのこれまた疑似体験を楽しめる。
コンピュータ・ゲームも、1人でやるものから複数で楽しむものに変って来ている。これまでのゲーム機は主として手による入力だったが、ウイーは体全体を使う。だから、女性や年長者などもゲームを楽しむようになり、ゲーム機人口は拡大した。
ゲームという概念そのものが変ってきたと言っていい。ゲーム機は、いよいよ「サイバー空間」のプラットホームになりつつある。この点について、いくつか思いつくことを書いておこう。
①ウイーを使えば、テレビ画面でメールのやりとりもできるし、オンラインショッピングもできる。いろんなニュースも見られる。言い方を変えると、ウイーによって、テレビはパソコンになった。しかも、操作はパソコンよりはるかに楽である。
②コンピュータとのコミュニケーションは、これまでほとんど文字だった。パソコンやケータイを使ったメールや掲示板の書き込みがそうであり、文字だけのコミュニケーションからくる制約が、誹謗中傷やフレーム合戦などの弊害も生んできた。「なりすまし」なども容易だった。デジタルカメラなどの普及で写真が使われるようになり、ユーチューブなどの動画配信サイトの登場で、コミュニケーションの道具はどんどん多彩になっている。ウイーは体の動きそのものを、新たに取り入れたわけである。
③ウイーをネットワークで結べは、画面を通して、遠く離れた友人とテニスを楽しむこともできるだろう。日米に別れて住む仲のよい夫婦同士が、週末にテニス試合を楽しむこともできる。我が家でゲーム中に、テニスに熱中した妻が、「壁かけふうの大型テレビを買おうよ」と叫んだが、テレビ画面は完全にゲームのディスプレイ化するかもしれない。
④連載第4回で説明したサイバーリテラシー3原則は、①サイバー空間には制約がない、②サイバー空間は忘れない、③サイバー空間は「個」をあぶりだす、だった。これは現在のサイバー空間の特質だが、ウイーの登場は、サイバー空間のあり方を大きく変える可能性がある。体の動きを取り入れことは、肉体のもつ具体的な制約がサイバー空間のコミュニケーションに反映されざるを得ないことを意味する。これは、「サイバー空間」のあり方を、いい方へ大きく変えていくかもしれない。サイバー空間と現実世界のほどよい共存をはかろうというサイバーリテラシーの考え方に、少なからぬ示唆を与えているように思われる。
任天堂の破竹の進撃
任天堂が「ファミリーコンピュータ」の発売で、いわゆる「ファミコン」ブームを巻き起こしたが1983年である。その後、激しいゲーム機競争の中で紆余曲折はあったものの、2004年暮れにタッチスクリーン方式のゲーム機「ニンテンドーDS」を発売、華麗に復活した。「脳を鍛える大人のDSトレーニング」、「漢字検定」といったソフトに象徴されるように、ゲーム機人口拡大作戦の始動である。ウイーの国内売り上げは、2007年末で累計460万台(ゲーム機シェアの七割近い)。全世界では1500万台も売れているらしい。
「2007年の世界の時価総額ランキング」によれば(1)、任天堂の時価総額は世界88位。日本ではトヨタ自動車、三菱UFJフィナンシャル・グループという自動車、銀行という大手企業に続いて、堂々3位である。ウイーの開発コードは「レボリューション(革命)」だったらしいが、この会社がゲーム機を武器に切り拓く「サイバー空間」の今後に期待したい。
注(1)日本経済新聞2008年1月13日付。
投稿者: Naoaki Yano | 2008年03月09日 16:21