「メディア企業」の変容と、周辺に追いやられるジャーナリズム(2008/11)
メディアをめぐるトピックスをいくつか取り上げてきた。そこであらためて痛感するのは、「メディア企業」の激しい変わりようであり、「表現の自由」と「ジャーナリズム」という2つの言葉の影の薄さである。しばらく、この問題について考えてみよう。
メディア企業はコングロマリット化
まず、メディア企業の側から見てみる。
アメリカの広告雑誌、『アドバタイジング・エイジ』が公表した2007年の「メディア企業百社」のうち、上位15位までを表1に、売り上げのジャンル別内訳を表2に掲載した。表からは、以下の点が明らかである。
①現在のメディア企業は新聞、雑誌、映画、テレビ、ケーブルネットワーク(ケーブルTV)、ケーブルシステムや衛星などのインフラ、そしてデジタルと、多くのジャンルにわたって事業展開している。メディアのコングロマリット化と呼ばれる現象である。
②百社の総売り上げは約2990億ドルで前年比4.9パーセント増だが、ジャンルによる内訳比率では、新聞が10.4%、テレビが10.6%。ケーブルTVの設備関係が31%と高い比率を占めている。1996年のデータを見ると、当時ではなお新聞、雑誌、テレビ(ラジオを含む)の伝統メディアが主流だったことがわかる。
③1996年の統計では映画が含まれていないし、デジタルはまだ考慮されていない。この十年余で、「メディア企業」の枠組みそのものが揺れていることを示している。
④15社の中では、マードック率いるニューズとコックス、アドバンス・コミュニケーションズ、ガネットが新聞事業も行っているが、新聞がメインなのはUSAトゥデイなどを発行するガネットだけである。しかもガネットの売り上げは対前年比で6.9%減っている。ちなみにニューヨーク・タイムズが29億5400万ドルで23位、ワシントン・ポストが21億4500万ドルで27位に入っているが、それぞれ前年比10.2%減、7.9%減である。新聞がメインの企業の衰退ぶりが明らかである。
⑤グーグルが60億1700万ドルで12位につけているのは注目される。当然ながらデジタル部門だけの売り上げで、しかも対前年比47.3%増である。ヤフーも38億3900万ドルで20位に入っている。
荒れ狂う合併・買収の大波
メディア企業と言えば、主として言論活動に従事し、一定の社会的使命を帯びた特別な企業、すなわちマスメディアであるという前提は、すっかり覆されている。『アドバタイジング・エイジ』社データによる1996年、1980年のそれぞれベスト15を表3に掲げたが、まさに隔世の感がある。
1980年にはタイム、ガネット、ハースト、ナイトリッダー、トリビューン、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ダウ・ジョーンズなどの新聞、雑誌企業が上位に顔を出していたが、これらの企業も激しいM&A(合併・買収)の波に洗われている。変化の節目が、2000年初頭に明らかになったアメリカオンラインとタイムワーナーの合併だったことは間違いない。
「メディア企業」のあり方が様変わりし売り上げは桁違いに増えたが、こういった合従連衡の動きが既存マスメディアのジャーナリズム精神を脅かし、同時に社会全体のジャーナリズム機能を低下させている。
たとえば、ウォールストリート・ジャーナルを発行する新聞大手、ダウ・ジョーンズは2007年にメディア王、ルパート・マードック率いるニューズ社に買収されたが、新経営陣の紙面刷新策に反対する編集長が2008年4月に辞任している。新聞業界全体で、広告不振と部数減からニュース紙面や記事を減らす動きが広がっており、それが新聞ジャーナリズムをいよいよ周辺に追いやっている。
おもしろくて役に立つ情報を重視
既存マスメディアが自己のアイデンティティを喪失する一方で、巨大なビジネス・サイトが提供する情報は、何よりも顧客が喜ぶ、おもしろくて役に立つ実用情報やエンターテインメントで、記事と広告は分かちがたく結ばれ、そこでのジャーナリズム性はきわめて薄い。日本の変化はアメリカほど激しくはないが、2005年のライブドアによる日本放送株取得、その後の楽天のTBSへの資本参加など、同じような動きはすでに出ている。
これが「表現の自由」と「ジャーナリズム」が置かれた現状である。それでは、情報の受け手、および「総メディア社会」の一方の主役、パーソナルメディアの送り手はどうなのか。この点については次回で取り上げたい。
投稿者: Naoaki Yano | 2008年12月21日 14:29