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2009年11月19日

メディア激変と「総メディア社会」(情報ネットワーク法学会ML129・コラム)

今年は作家、松本清張の生誕100年とかで、再映画化された『ゼロの焦点』(11月中旬公開)の全面広告が、某新聞に4ページにわたって出ていた。そこに連携して、小学館が清張作品傑作映画ベスト10のDVD広告を出していたが、あとは映画、音楽、自然食品ばかりで、出版社による本の宣伝はなかった。これまでだと、こういう場合には必ず「松本清張全集」とか「清張作品全文庫」など本の広告があった。企画者があえて書籍を外したのか、あるいは広告が集まらなかったのか、事情はわからない。

 11月初旬にウインドウズの新しい日本語フォント「メイリオ」を開発した、ロンドン滞在30年余のデザイナー、河野英一さんの話を聞く機会があった。「メイリオ」は「明瞭」から名づけられ、河野さんは「和文英文混在の日本語を、横書き画面で美しく読むためにメイリオを開発した」と言っていた。

 ちょっとした話題にも、紙から電子へと移行しつつある時代を強烈に感じざるを得ない今日このごろ、である。河野さんの場合、海外、それもヨーロッパ在住の、大組織にも属さない日本人が、マイクロソフトというアメリカの(というよりグローバルな)企業に日本語フォントを依頼され、日本文化の発展に寄与するという図式もまた面白い。
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 我が国情報社会論のパイオニア的存在である増田米二が1985年に出版した『原典・情報社会』(TBSブリタニカ)は、近い将来におけるマスメディアの衰退ぶりを大胆、的確に予言して、さわやか(?)なほどである。この本の先駆性は、梅棹忠夫の「情報産業論」(1963年発表)に次ぐものだと思うが、この辺はさておき、ここではマスメディアに関連する個所を抜粋して紹介しておこう。

「私なりの大胆な見通しをのべれば、これからの約二十年ないし五十年間が本格的な情報社会への変革期で、これはまず価値観の転換からはじまり、これに雁行する形で、社会・経済構造の変革が進み、早ければ二十一世紀初頭、遅くとも半ばごろまでには日本で名実ともの高度情報社会が実現するだろう」(p52)、「遅くも二十一世紀までには情報ユーティリティは現在の近代工場に代わって、人類社会の社会的シンボルになっていることだろう。そのころには何千、何万という多種多様な情報ユーティリティが出現しており、私たちは、現在の新聞やテレビに代わって、毎朝まず自宅の端末機を操作して、情報ユーティリティから必要な情報を入手するのが日課になっているだろう」(p54)、「情報ユーティリティ、ソフトウエア、TSSサービス、計算センターなど、各種の情報処理サービスに関する産業も、空前の発展をとげるであろう。これに対し、現在、情報産業で主位を占めている新聞や出版などの、いわゆるマスコミ産業は、むしろこれからは停滞産業の部類に入っていくと思われる」(p126)

 彼が「情報ユーティリティ」と呼んだシステム(情報インフラ)が、いまインターネットによって実現されている。1985年という時代を考えると、彼の予言は鋭い。
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 私は、今年5月『総メディア社会とジャーナリズム─新聞・出版・放送・通信・インターネット』(知泉書館)を出版し、「マスメディア社会から総メディア社会への移行」を考察した。

 簡単に説明すると、マスメディア社会にあっては、メディア=マスメディアで、そこではプロのメディア企業(送り手)が作り上げたコンテンツが、そのまま受け手に伝えられていた。総メディア社会では、メディア環境全体が巨大メディア企業とパーソナルメディアによって占拠され、送り手=受け手である。通信がメディアの主役に躍り出て、従来のマスメディアはメディア地図の一角を占めるに過ぎない(サイバーリテラシー研究所のウエブの「総メディア社会の構図」を参照してください)。

 私の関心は、総メディア社会における「表現の自由」とジャーナリズムのあり方であり、2007年暮れに発表された総務省研究会(堀部政男座長)の「情報通信法」構想についても、その意義と問題点を考察している。これからのジャーナリズムのあり方として「ジャーナリズム・プラットホーム」構想も提案した。
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 ところで、これからが本論だが(^o^)、本書は既存マスメディアにとっての” 苦い”事実を指摘しているためか、一部に高く評価してくれた人がいた反面、新聞、雑誌などマスメディアでの書評はまったくなかった。無視、あるいは敬遠されていたわけだろうが、このほど、はしなくも情報通信関係者の目にとまり、2009年度の大川出版賞を受賞した。

 当のメディア関係者には見向きもされなかった、メディアやジャーナリズムを扱った本が、かえって勃興しつつある情報通信関係者の目に止まり、顕彰されたことをすなおに喜びながら、これもまた現代日本のメディア状況を浮き彫りにしていると、つくづく思う今日このごろ、なわけである。


投稿者: Naoaki Yano | 2009年11月19日 15:59

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