「現実」と「サイバー」のリアルタイム交信(2010/2)
2010年元旦に鳩山由紀夫首相が「私もツイッターを始めます」と言って話題になった。ツイッター(Twitter)というのは、2006年に始まったばかりのウエブサービスで、ミニブログなどと呼ばれている。140文字以内のメッセージを入力すると、それが全世界に公開され、メッセージへの瞬時のコメントも得られる。
ファイル交換ソフトのナップスター、画像配信のユーチューブ、ニコニコ動画など、インターネットを使った新しいサービスが次々登場し、しかもあっという間に世界中に普及しているが、ツイッターも例外ではない。最近では、これらのサービスを「ソーシャルウエア」と呼ぶようにもなっている。まさに電子メディアの「爆発」である。
140文字の「つぶやき」
ツイッターに書き込むメッセージは「つぶやき」と呼ばれる(twitterは鳥がさえずる、という意味の動詞)。ウエブ上のツイッターのサイトで登録するだけで(無料)、自分のIDを作ることができる。そこで入力した文章はすべてのツイッター参加者に公開されるが、実際には、自分の仲間や関心のある著名人などを選んで「フォロー」し、彼らが書く「つぶやき」を閲覧するといったように利用されている。もちろん自分の「つぶやき」も彼らに伝わるし、他人のつぶやきに返答したり、気にいった「つぶやき」を他に転送したりできる。キーワードを入力することで、関心のあるテーマで書いた見知らぬ他人の「つぶやき」も見られる。
140文字のつぶやきを通して、世界中の人びとと、ほとんどリアルタイムでコミュニケーションできるわけである。メールとも、ブログとも、SNSとも違う新しい道具の誕生と言っていい。
日本でのツイッター利用者はすでに500万人を超えたと推計されており、雑誌『週刊ダイヤモンド』は新年1月23日号で、「2010年ツイッターの旅」という約40ページの特集を組んだ。
そこでも紹介されているアスキー総合研究所の調査(2009年暮実施)によると、ユーザーは20代がもっとも多く、ついで30代と40代が続く。平均年齢は35.7歳である。男性がやや多い。アクセスするのはパソコンが中心だが、ケータイやアップルのアイフォンを使う人も増えているようだ。パソコンからアクセスする人は1日平均4時間半も費やし、平均14.6本の「つぶやき」を書いている。
内容は、まさに「いま何をしているか」とか、それに対する返信、ふと思いついた感想やアイデアなどだが、とくにケータイの場合、いまつぶやいたそのメッセージに即座に回答が帰ってくる。「渋谷なう(いま渋谷なんだ)」というと、「私も渋谷にいる」、「お茶でも飲もうか」というふうに話は進むわけである。
もちろん旧知の仲で、お互いにフォローしている友だちばかりでなく、「渋谷なう」を検索している、まるで知らない他人がそこに割り込んでくることもある。アンケート調査では、「つぶやき」の対象として、「特定のユーザーに向けてはいないが、誰かの反応を期待して」、「誰に聞いてもらうつもりもなく、純粋に独り言として」、「リアルでは面識はないが、SNSやブログ、ツイッター上で知り合った人へ」などと答えた人が多かった。
オバマ大統領も利用
雑誌『ダイヤモンド』の特集によれば、世界のツイッター人口は1億人を超えたらしい。著名人もどんどん参加しているのが興味深いが、こういう人たちの発言を「フォロー」している人の数がまた桁違いに多い。
たとえば歌手のプリトニー・スピアーズ(フォロアー数400万人以上)、オバマ大統領(同300万人以上)となっており、日本でも元ライブドア社長、堀江貴文(同30万人以上)、経済評論家、勝間和代(25万人以上)という具合である。もちろん個人でも20万人以上のフォロアーを誇る人もいる。
勝間和代は2009年7月ごろから本格的に利用しはじめたという。短いメッセージながら、彼女の発言を25万人以上の人が見ているわけである。雑誌で25万部以上は大部数だから、まさに恐るべきメディアの登場と言えよう。このようなメディアは、かつて存在しなかった。
だからCNNとか朝日新聞のようなマスメディアがツイッターを利用して情報を流したりしている。また企業も宣伝に使う工夫を始めている。たとえば同誌ではグリコ乳業のデザート飲料「ドロリッチ」に関する話を紹介している。昨年5月ごろ、ドロリッチが突然ネット上で人気を集めたが、それはだれかがツイッター上で「ドロリッチなう」(今、ドロリッチを飲んでいます)とつぶやいたことから、「ドロリッチなう」という「つぶやき(フレーズ)」が人気になり、多くの人が同じ「つぶやき」を投稿、結局、メーカーの知らないところで、製品の口コミとして大いに効果を上げたという。
ツイッターの威力
ツイッターをより便利に使ういろんな仕掛けが用意されているが、利用者が考え出したものも結構あるようだ。メディアジャーナリストを名乗る津田大介は早くからツイッターを利用し、2009年11月に『Twitter社会論』(洋泉社)を出版しているが、ツイッターを使ってイベントの実況中継をやっているらしい。
普及スピードの速さも驚異的だが、ツイッターの新しいところはそのリアルタイム性である。前回の拡大版で紹介した、サイバー空間と現実世界の関係図を思い出していただければよくわかると思うが、ツイッターによって、サイバー空間と現実世界はリアルタイムで結びついたとも言える。「総メディア社会」の新たな主役の登場でもある。
私自身は、このような激しい動きにはつきあいかねるところがあるが、このリアルタイム性が今後のIT社会にどのような影響を与えるかは、きわめて興味深いと言えよう。
投稿者: Naoaki Yano | 2010年04月03日 21:18