主婦のけちけち作戦がデフレに拍車?!(10/6)
スーパーなどの特売情報が一覧できるサイトがある。かつて節約をめざす主婦が頼りにしたのは新聞に折り込まれてくる商店のチラシだった。いくつかの安売り情報を眺めながら、目玉商品めがけて殺到したわけだが、今はそれらのチラシを見た主婦がデータを日々、ウエブ上のサイトに入力している。それをケータイで確認した主婦たちが、自転車や車でいくつかの店を回り、特売品を買っていく。
インターネット第2世代としてのWeb2.0が話題になったとき、さかんに言われたのが「ユーザー参加型メディア」ということだった。特売情報サイトは、まさに主婦参加型メディアの典型だが、新聞チラシと違って、カバーする店舗が広範囲に及ぶことや、他の店との価格比較が容易にできるという便利さが、また別の問題を生んでいる。
7万人の主婦パワー
オンラインのCNNニュースに今年4月、「日本の主婦がデフレ傾向に拍車をかけている」というタイトルの記事が出ていた。「7万人の主婦が食料雑貨品の価格を提供する『毎日特売』というサイトのメンバーになっており、2万5千人の主婦が、地域特派員として、毎日の安売り情報をネットにアップしている。そのデータをケータイでチェックしながら多くの主婦が安売り商品に殺到しており、店舗側は『こういうことをされると、価格はどうしても安い方に流れざるを得ない』と困惑している」といった内容だった。
記事によれば、日本が不景気になってからサイト利用者は20パーセント増えたという。また日本チェーンストア協会の話として、「スーパーの価格はこの13年間、一貫して低下し続けている」と紹介されている。取材に応じた主婦が「1日に使える予算は限られている。デフレがどうのと言われても、申し訳ないけれど、そんなこと考えている余裕はありません」という談話もあった。
なかなか微妙な問題である。日本チェーンストア協会のウエブにある3月の売上高速報の前年同月比を見ると、昨今のデフレ傾向がうかがわれ、とくに食料品は前月比でも減っている。
これが特売サイトの影響かどうかははっきりしないが、あるいはそうかもしれない、と思わされる点もある。
紙の情報と電子の情報
サイトに提供されている安売り情報は、もともとは店側が宣伝しているもので、秘密でもなんでもない。これが新聞のチラシなら、見る人は近くの人に限られるから、影響を受けるのは同じ商店街の数店ぐらいのものである。いくらA市のスーパーで卵が安くても、B市の主婦がその情報を知ることはまずなく、したがってわざわざB市からやってくることもほとんどない。だからB市のスーパーがA市のスーパーの卵の安売りを気にすることもなく、それに影響されることもなかった。地域に密着した商店同士が、小さな商店街の中で、ささやかな価格競争をしていただけだった。
しかし、これらのデータが電子化されて、全国どこからでも見られるようになり、しかもどこが一番安いかをすぐ調べられると、地域の殻を破った価格競争が始まる。ここが紙のメディアである新聞チラシと電子メディアであるサイトの大きな違いである。しかも、これらのデータは主婦たちがボランティアで入力している。言ってみれば相互扶助活動である。だから、この主婦パワーに文句をつける筋合いはまったくないと言っていい。しかし、「どこかひっかかる」のも事実である。
デパート跡にブックオフ
私は神奈川県西部に住んでいるが、最近、近くの商店街にブックオフの大型店が店開きした。ブックオフは、もう20年前の1990年に神奈川県相模原市で1号店ができた新型古書店である。かつての古書店とは違って、本の価値(もともとの定価や稀少さなど)とはほとんど無関係に、新しさや保存具合で値決めしている。この本の「価格破壊」、「価値破壊」が時流に受けて、従来の本の流通システムを破壊する勢いで増え続けた。2009年3月現在で全国に917店ある。最近では本のリサイクルだけでなく、子供用品、スポーツ用品、衣料、貴金属、ホビー用品などさまざまな商品を扱うようになっていて、それら関連店も130店ほどある。
近くの大型店は、かつて三越デパートが入っていた広大な1階フロア全体に本、CD、DVD、時計などの貴金属、サーフボードなどのスポーツ用品、衣料、装身具、ホビー用品などの売り場が並んで、まさに中古品のデパートである。
入口に「なんでも買い取りコーナー」があり、多くの人がバックに詰めた中古品を売りに来る。整理券をもらって店内をぶらぶらしているうちに、「○○番さーん、買い取り価格の計算が終わりました」と知らせてくれる仕組みである。カウンターには「お家にあるモノ、お売りください」というちらしが置いてあり、そこに「うちの家族は売ったりしながらゆったり遊ぶ」というキャッチコピーがあった。
リサイクルはいいことで、これも文句をつける筋合いはない。しかし、デパートの跡がブックオフであることに、いささかの感慨なしとしない(横浜の三越跡はカメラやパソコンの量販店になっている)。安いものが大量に出回ることや、不要品をリサイクルに回すというライフスタイルは、それ自体は歓迎すべきことだが、これがほんとうに豊かな生活なのか、あるいは豊かな社会を持続させていくことにつながるのかと考えると、疑問もわく。ここで取り上げたのはきわめて卑近な例だが、より大きな経済システム、もっと言えば、社会システムそのものが同じ問題を抱えているように思われる。
投稿者: Naoaki Yano | 2010年07月15日 22:23