ツイッターで写真の撮影場所を突き止める(2011/1)
前号でふれたように、電子メディアが既存の社会秩序を大きく揺るがせており、私たちはその衝撃に十分対応できないでいる。一方で、新しいツールが思いがけない「美談」を生みだすこともある。新年号でもあり、今回はツイッターをめぐる少し心あたたまる話である。
ある人がツイッターに以下の投稿をした。2010年6月の話だから、すでにご存じの方もいるかもしれないが、私自身はつい最近になって、教えている大学の学生の投稿でこの話を知った。あえて紹介することにしよう。
撮影場所はどこ?
最初の投稿は6月9日12時44分である。「先日亡くなった知人のお父様が、桜の時期に埼玉を訪れた際に撮った写真です。最後の旅行の軌跡を巡るたびに行きたい。ただここだけがわかりません。埼玉の方お知恵を貸してください」。知人のお父さんが撮ったという写真が添付されていた。
その後の主な動きを、まとめサイトにある約300件の「つぶやき(ツイッターに書き込まれた140文字以内のメッセージ)」で再現すると──
5分後の12時49分に早くも反応があり、具体的に「岩槻公園ではないか」、「東浦和駅使くの公園かも」、「うちのスタッフが草加公園のような気がすると言っています」、「いや、漢字ではなく、そうか公園です」、「埼玉の公園リストです」など、写真をもとにいろんな人が候補地と見られる場所を上げ、それを投稿者(Tさん)がそのたびに「ありがとうございます」とお礼を述べつつ、丁寧に整理して事態は進む。
その間には「ツイッター、すごい。あらためて実感しています」、「通りすがりに失礼します」、「埼玉はわからないので全くお力になれませんが、無事判明することを祈ります」といった外野からの応援も加わった。夜になっても投稿は衰えず、22時過ぎには投稿が1000件を超えたらしい。そのころにTさんが多くの人の情報や写真(映っている橋や椅子、看板など)を検討した結果、問題の場所は蓮田市の西城沼公園だと99%の確率で断定する。
感謝のメッセージ
そして、この公園を強く推した投稿者の1人が、翌10日午後3時51分に仕事の合間にその公園を訪れて撮影した写真をアップ、無事決着となった。その時の「証拠とれましたよ(^o^)西城公園(西城沼公園のこと:矢野注)で間違いないです!後で写真アップします」という「つぶやき」には、自宅近くの公園が突然“脚光を浴びた”ことへのすなおな喜びが反映されている。
直後のTさんのメッセージ(16時13分)は「なんだかものすごく感動しています。たった今、本人に写真をメールしました。絶対に間違いありません……。本当にありがとうございました。ツイッターの勝利!!」だった。
こうしてウエブ上に桜が咲き乱れる「捜索写真」と、まだ新緑が豊かに繁った「西城沼公園」の現風景が、よく似た角度でアップされた。間違いなく同一場所である。
Tさんに撮影地探索を依頼した知人はツイッターをやっていないらしく、Tさんに託した感謝のメールが、Tさんによってアップされている。
○○さま(Tさんのことと思われる:矢野注)、ツイッターの皆様、時間を割いて調べていただき、心から感謝いたします!見つかったんですね……ツイッターの方が撮影してくださったお写真を見て思わず震えました…。家族一緒に涙しています。画質の悪い写真から見つけることは藁にもすがるおもいでした。
これで、父が最後にひとりで旅した、唯一わかる場所に行けます……何とお礼してよいか分かりません…ほんとうに、ほんとうにありがとうございます…父が何故ここに行ったのかはわかりません。父の遺灰と共に「西城沼公園」へ行き、父の気持ちを考えたいと、今はそう思っています。
もしかすると、この写真を残した理由は、都会でもまれ過ぎた私に向けて、人のあたたかさを教えるためだったのかもしれません。
○○さま、ツイッターの皆様、重ねて、本当にお力添えしていただき、ありがとうございました。
そこにはTさんへの追記として「ツイッターの皆様には、宜しくお伝え下さい。全文お願い致します!簡単に奇跡という言葉は言うものではないですが、本当に私は縁による奇跡に出会えました……」と記されていた。
「ソーシャルってすごい」
その後にいろんな人がコメントしている。
「これは本当にいい話……。人のやさしさが伝わってくるなぁ」、「よかった、よかった」、「なける」、「もうちょっと脚色して映画化できないかな?」、「これ、わずか1日での話なのか。ソーシャルってすごいな」などなど。
ささやかな出来事ではあるけれど、多くの人が夢中になって協力している姿はやはりさわやかである。たしかにツイッターがなければ、父親が生前に撮った写真の場所を探し当てることはほぼ不可能だっただろう。
以前、ツイッターについて紹介した時(本誌2010年2月号)、サイバー空間と現実世界を緊密に連携させる新しいツールだと述べたけれど、事態はこのように進展してきた。
出版社が毎年選定している流行語大賞の2010年度トップ10には、ツイッターのつぶやきによく使われる「なう」(いまここにいる、いまこれをしているという時の慣用句。「渋谷なう」、「映画なう」など)という独特の表現が選ばれている。こうして見ず知らずの人びとがコミュニケーションし、実際に出会っている。
これも新しいツールが既存秩序を大きく揺るがせている一つの例である。
投稿者: Naoaki Yano | 2011年01月28日 13:05