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2011年03月20日

電子端末が先導する情報のばら売り時代(2011/2)

 2010年は電子書籍元年と言われた。今年になってからも、新たなタブレット型端末が登場したり、本をいったん断裁してスキャナーで読み込んで私的電子書籍を作る動きが広がったり、「電子書籍」をめぐる話題は依然としてにぎやかである。

 6日から米ラスベガスで開かれた世界最大の家電見本市「コンシューマーエレクトロニクス・ショー(CES)」でパナソニックは、グーグルの基本ソフト(アンドロイド)を搭載したタブレット型端末を発表した。アップルのアイパッドの対抗機で、年内に世界各地で販売するという。シャープも日本国内で販売している多機能端末「ガラパゴス」で北米市場に参入することを明らかにした。電子書籍端末の競合時代が始まったと言えよう。

「電子書籍元年」の意味

 昨年が電子書籍元年と言われたのは、以下の2つの動きが同時に進行したからである。

 ①アマゾンのキンドル(kindle)、アップルのアイパッド(iPad)に代表される電子書籍端末の登場。
 ②アマゾンとグーグルがリードした書籍のデジタル化とオンライン配信。

 電子媒体を使って「本」を読む試みは、早くは1995年の「新潮文庫の100冊」CD-ROM版発売や、ネットでのテキストのダウンロード販売「パピレス」、シャープの「ザウルス文庫」など、日本でもさまざまな試みが続けられ、1998年には出版界こぞって「電子書籍コンソーシアム」という実験プロジェクトも始まったが、ハード、ソフト両面の技術の未発達や関係者の思惑違いなどから、いまひとつ軌道に乗れなかった。

 それが2010年になって、例によってと言うべきか、アマゾン、グーグル、アップルなどの米IT企業の攻勢が始まり、それが日本をも巻き込む動きに発展した。

 前者の電子端末について言うと、アマゾンが電子書籍端末のキンドルをアメリカで発売したのが2007年で、2010年には日本語フォントも搭載したキンドル3を発売した。一方、アップルのアイパッド発売は、すでに本欄でも紹介したように、アメリカで2010年4月、日本で5月である。ディスプレイは、キンドルがeインク、アイパッドが液晶と仕様は違うが、ディスプレイで文字を見ることへの抵抗は、若者を中心にどんどん薄れていると言えよう。日本でもソニーの「リーダー」、シャープの「ガラパゴス」などの電子書籍端末が登場した。

 後者のコンテンツに関係する動きは多様である。
 
 アマゾンが2003年からやっている、オンライン販売書籍の一部を読めるようにするサービス、Search Inside(日本での「なか見!検索」)を徹底させれば、電子書籍販売になる理屈である。アマゾンは端末のキンドルさえ買えば、独自の電子書籍サイトにアクセスできるようにし、そこに多くの電子書籍をそろえた。新刊に関しては電子書籍の方が安い価格設定をするなどの販売作戦も行い、現在書籍タイトルは75万冊を超える。

 一方、グーグルは2004年から一部の図書館などの協力を得て、書籍をデジタル化してユーザーが読めるようにするサービス「グーグル書籍検索」を始めた。このサービスをめぐって、著作権者の米作家協会や米出版社協会などが「無断で著作物をデジタル化して公開するのは著作権侵害だ」とグーグルを相手取って訴訟を起こし、その和解案が日本の著作物にも影響するとして大きな社会問題になったのが2009年である(これについては本連載でも取り上げた)。

 このプロジェクトはいまも進んでいるが、同時にグーグルは電子書籍を販売するウエブサイト、「グーグル・イーブックスストア」も始めて、すでに無料(280万冊)も含めて300万冊をそろえたという。日本でも近く開始の予定だ。
 
 アップルは楽曲販売の「アイチューンストア」に並行して、「アップストア」で書籍販売も始めている。日本においても、「リーダー」や「ガラパゴス」は、出版社や新聞社、印刷会社などと提携したプロジェクトで、独自の書物の品揃えを急いでいる。

アップルが先鞭をつける

 電子書籍競争は出版業界そのものの大変動を引き起こしているが、実は、これはアップルが音楽事業で行った「流通革命」を出版界に及ぼすものと言える。アップルはアイポッドというしゃれた音楽視聴端末を提供するだけでなく、楽曲そのものをオンラインで買えるシステムを作った。端末メーカーが音楽流通部門に参入、「端末+コンテンツ」という新しいビジネスを開拓、あっという間に定着させた。

 音楽は、作曲家や演奏家、あるいはジャンルごとにいくつかの曲をパッケージ化して、主として街のレコード店で売られるものから、好きな曲ごとにオンラインで買うものへと比重を移したわけである。「メディアとメッセージが分離する」総メディア社会の特徴を考えれば、これは必然の成り行きと言えよう。

 だからいま進んでいるのは出版業界そのものの再編であり、メディア地図の激変である。これが電子書籍問題の核心である。

「自炊」や「海賊版」の動き

 一方で、書籍のデジタル化は、さまざまな余波を生んでいる。
自分が買った本を断裁機でページごとにばらして、それをスキャナーで読み込み自家製電子ブックをつくることは「自炊」などと呼ばれるが、自分が買ってきた本である限り何の問題もない。ところが「自炊」を代行する商売が登場して、これが著作権法上の「私的利用」の範囲内の行為なのかどうか、議論を呼んでいる。店内に表紙や背をはがした裁断済みの本を並べ、そこにスキャナーまで用意した店まで登場した。この断裁本は何度も利用されるわけで、著作権に触れることは明らかである。

 また、昨年暮れにはアップストアで村上春樹の小説の中国語版やロシア語版、東野圭吾の日本語版のそれぞれ海賊版が売られるという事件もあった。さっそく日本出版協会などがアップルに抗議したが、これをアップルが「デジタル海賊版を提供した者が著作権者との間で解決すべき問題」とノータッチを決め込むのも難しいだろう。

投稿者: Naoaki Yano | 2011年03月20日 15:06

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