モバイル端末で何でもできる時代の到来(2011/3)
アップルのアイフォンをきっかけに、ケータイは基本ソフトを備えた高機能機種の時代に入った。この高機能ケータイはスマートフォンと呼ばれ、パソコンに変わる新しい情報端末の地位を獲得しつつある。
スマートフォンの特徴は、パソコンと同じようにインターネット上のあらゆるサービスにアクセスできることである。とくに日本においては、これまでの携帯電話各社の制約から離れて、インターネットの大海に自由に乗り出せることに意味がある。
スマートフォン、パソコンの出荷台数を抜く
スマートフォン(Smartphone)は、携帯電話にPDA(Personal Digital Assistants)並みの機能を付加しようという考えから、基本ソフトを組み込んだ携帯電話として開発が進められた。スマートフォンという名で最初に売り出された機種は1997年のエリクソン社製だという。キーボードを備えたブラックベリー(BlackBerry、カナダのRIM社製)は欧米でビジネスマンの間で人気があり、オバマ大統領も愛用しているとか。
アップルがアイフォン(iPhone)を売り出したのは2007年で、タッチスクリーン方式のスマートフォンとして、2009、2010年に一気に普及した。グーグルのOS、アンドロイド(Android)などを搭載した機種も登場している。
スマートフォンはネットサイトの閲覧や音楽のダウンロード、ツイッターを使ったコミュニケーションなど、パソコン用のサービスを何の制約もなく利用できるばかりか、ビジネス用ツールやゲームなど多彩なソフト(いわゆる「アプリ」=アプリケーションソフト)を導入できるのが強みである。以前、本連載で紹介したタイガーテキストもアイフォン用アプリだが、アイフォンの普及には、アップルが用意したアプリ提供サイト、アップストアの存在が大きかった。電子書籍の場合と同じように、端末+ソフトの組み合わせが新しいビジネスの形になっている。
米調査会社のIDCが2月に発表した2010年10月から12月期のスマートフォンの世界出荷台数は前年同期比で87%増の1億90万台(1)。同じ時期のパソコンの出荷台数を初めて上回った。また半導体メーカーのインテルは2011年から生産の主力をモバイル端末用に切り替えることを明らかにするなど、世界的にパソコンからスマートフォンへの動きが急である。
日本技術の「ガラパゴス化」
日本でも、ソフトバンクがアイフォンを販売、NTTコモやKDDIなどもアンドロイドを組み込んだスマートフォンを売り出しつつある。
ところでスマートフォンを「高機能ケータイ」と表現するのは、日本的には正しくないかもしれない。日本におけるケータイは、NTTドコモが1999年にiモードを発売、世界に先駆けてインターネットにアクセスできる環境を提供するなど、早くから音声通話やメールのほかに、ウエブを閲覧できたり、写真が撮れたり、財布代わりになったりと、さまざまな機能を付加してきた。ケータイはすでに高機能化していたわけである。
しかし、これはもっぱら日本だけの仕様で、これらの技術が海外にまで普及したわけではない。そこにはケータイ各社独自の方式が組み込まれており、たとえばインターネットへのアクセスにしても一定の制限があった。
この日本的な特徴が、日本をケータイ先進国に押し上げた原因であり、またその技術が世界に広がることを妨げてきた理由でもある。このように国内で独自の進化をとげ、かえって世界標準から離れてしまう日本技術のあり方は、「ガラパゴス化」などと言われる。
南米エクアドルから西方900キロ離れた太平洋上にあるガラパゴス諸島は、大陸から離れていたために多くの生物が独自の進化を遂げたことで有名だが(ダーウィンに進化論のヒントを与えた)、それを引き合いに、日本の技術は日本独自の進化を遂げつつも、それが世界に広がらず、かえって世界から取り残されてしまう例えとして使われる。
ウエブ上の野村総合研究所「『ガラパゴス化』する日本」は、この現象を以下のように整理している。
①高度なニーズに基づいた製品・サービスの市場が日本国内に存在する
②一方、海外では、日本国内とは異なる品質や機能要求水準の低い市場が存在する
③日本国内の市場が高い要求に基づいた独自の進化をとげている間に、海外では要求水準の低いレベルで事実上の標準的な仕様が決まり、拡大発展していく
④気がついた時には、日本は世界の動き(世界標準)から大きく取り残されている
もっとも、「海外では要求水準の低いレベルで事実上の標準的な仕様が決まり」という表現は、ちょっと身びいきにすぎるだろう。ケータイの場合、欧米においては、いわゆるセルフォンとして音声通話やメールに特化した形で発達、より高機能化するときには、また別のパソコン並みの工夫をしたということである。
日本技術のガラパゴス化は、パソコン普及期にNECのPC-9800シリーズが国内では大きなシェアを獲得しながら、結局はIBM-PC互換機に市場を奪われたのが典型的である。注(1)で示したスマートフォン出荷台数のシェアで韓国、台湾の企業が含まれているのに日本企業の姿が見えないのは象徴的でもある。
文化のあり方にも影響?
日本で売り出されたスマートフォンには、ワンセグ、お財布など従来のケータイが持つ機能も組み込まれている。スマートフォンの今後は、日本技術のあり方、さらには日本文化のあり方にとっても興味深いテーマを提供している(現行の未成年者向けのフィルタリングソフトもスマートフォンにはそのまま適用できないという問題もある)。
それはともかく、前回で取り上げた電子書籍端末も含めて、時代はいよいよ携帯情報端末の時代になりつつある。ツイッターのようなサイバー空間と現実世界をリアルタイムで結びつける道具の登場や、アプリケーションソフトやデータを自分の手元ではなくネットワークに置くクラウド・コンピューティングの発達は、端末の負荷をどんどん軽くもしている。社会はWeb2.0が切り開いた時代のさらに先に進み、「総メディア社会」がいよいよ進展している。
(1)ちなみに出荷台数シェアは、Nokia28.0(フィンランド)、Apple16.1(アメリカ)、Research In Motion(カナダ)14.5、Samsung(韓国)9.6、HTC(台湾)8.5、その他23.3(各%)となっている。
投稿者: Naoaki Yano | 2011年03月20日 15:11