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2011年07月18日

ソーシャルメディア②サイバー空間の情報を仲介する生身の「人」(2011/7)

 前回紹介したソーシャルメディアの爆発的普及は、これからの社会をさらに大きく変えるだろうが、そこでは、サイバー空間の情報を仲介する生身の人間の存在がクローズアップされることになる。

 かつて情報はマスメディアを通して一方的に、別の表現を使えば、整然と流れていた。責任の所在もそれなりに明らかだったと言えよう。ソーシャルメディアは一人ひとりが自由に発信できるツールだから、情報の流れは錯綜せざるをえないが、実際には、その流れはそれほどばらばらでも、アナーキーでもないようである。

リツイートで情報を拡散

 東日本大震災時におけるメディアの利用実態を精力的に追跡して、「日本のメディアが変わった10日間」(1)というすぐれたレポートをウエブで公開した小林弘人は、「地震発生後、痛ましいニュースがツイッター上でも多く流れたが、同時に多くのフォロワーをもつツイッタラー、ブロガーたちが緊急性の高いニュースを継続的に配信し、情報のハブとなって活動し続けた」、「平時には既存メディアから負のイメージばかり強調されることもあったオンライン・メディアが、ここにきてひとつにまとまり、その威力を発揮しつつ、存在感をこれまでと違ったやり方で示したことの意味は大きい」と述べている。

 また同レポートは、堀江貴文ライブドア元社長(ホリエモン)が、緊急性の高いツイートをほぼ24時間態勢でリツイート(ふたたびツイート)し、フォロアー数の多い自身のアカウントで情報を拡散させた話を紹介している。さまざまなツイートを取捨選択して、多くの人に知らせた方がいいと考えるものを、自分の責任で再発信したわけである。

 ネットワーク上では、「情報のハブ(hub=ネットワークの中継拠点)」とか「インフルエンサー(influencer=影響を与える人)」、さらには「キュレーター(curator=図書館の学芸員のような専門ガイド)」などと呼ばれるようになった人たちが、あふれる情報に一定の道筋をつけたわけである。

ビンラディン殺害ツイート

 インターネット上の情報仲介について、アメリカで興味深い調査結果がある。

 ホワイトハウスは5月1日(日曜日)午後9時45分(アメリカ東部時間)、同夜10時30分に大統領発表を行うことをツイッターでメディア関係者に知らせた。実際にオバマ大統領が会見し、ビンラディン殺害を発表したのは予定より1時間後の11時35分だったが、その間に多くのアメリカ人はすでにこのニュースを知り、大統領発表時にはホワイトハウス前やマディソンスクエアガーデンに歓喜の民衆が集まり、勝利の祝杯をあげていた。

 この情報伝達の立ち役者もツイッターだった。

 ニューヨークタイムズのブライアン・ステラー記者が書いた「ビンラディン殺害ニュースはどうリークされたか」という記事(2)によると、予告連絡を受けた新聞やテレビのリポーターが、ビンラディンがらみの発表ではないかと情報を模索していた10時25分、前国防長官ラムズフェルトの主席補佐官、キース・アーバーンが「たしかな筋の情報によるとビンラディンは殺害された」というツイートをした。ほどなくして国防総省やホワイトハウス筋からもリークが行われ、10時45分ごろABC、CBS、NBCなどが番組を中断してこれを報じた。米大統領発表は、すっかり気の抜けたビールになっていたのである。

 ソーシャルメディア調査会社のソーシャルフロウ(SocialFlow)は、アーバーンのツイートが多くの人にリツイートされて、メインストリームメディア(大手メディア)を出し抜いて全世界に流布したことに注目した。大統領発表の事前予告から実際に発表が行われるまでの間の1500万近いツイートを分析して、アーバーンのメッセージがユーザーにどのように伝達されたかを分析し、それをビジュアル化してウエブで公開している(3)。

 図を見ると、情報の流れが二つの渦をつくっている。上にあるのがアーバーンのもので、彼のツイートが多くの人にフォローされているのがわかる。興味深いのはむしろ下の渦で、これは先のニューヨークタイムズ記者、ステラーが「アーバーンがビンラディンが殺害されたとツイートしている」とリツイートした情報が多くの人にフォローされたことを示している。ニューヨークタイムズ記者であるという人物への信頼と、彼のふだんのフォロアー数の多さ(5万人以上、因みにアーバーンの当初のフォロアー数は1000人程度)がアーバーンの情報を急速に拡散させることに大きく貢献したことを示している。ステラーはビンラディン殺害ツイートの情報のハブの役割を果たした。

変わるサイバー空間のあり方

 サイバー空間の情報もやみくもに広がるだけでなく、現実世界における人間の信頼性やその行動が、大きな影響を与えるということである。私は、マスメディアは「編集メディア(責任者が編集している)」、パーソナルメディアは「無編集メディア(個人の自由に書かれる)」というふうに区別しているが、ソーシャルメディアは「相互編集メディア」である、と言ってもいい。

 もちろん、悪意ある情報やデマ・流言も流れるけれども、ソーシャルメディア全体としては、お互いに誤りを正したり、情報の流れを整える配慮が行われたりしている。サイバー空間における生身の「人」の役割が再浮上していることに注目したい。しかも、情報仲介者の役割や責任もまた大きくなるだろう。
 
<注>
(1)「現代ビジネス」 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/2308
(2)http://mediadecoder.blogs.nytimes.com/2011/05/01/how-the-osama-announcement- leaked-out/
(3)http://blog.socialflow.com/

投稿者: Naoaki Yano | 2011年07月18日 17:48

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