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2012年04月08日

だれもが強力ツールを使う時代の危うさ(2012/2)

 アップルのアイフォンや、グーグルの基本ソフト、アンドロイドを組み込んだスマートフォンが急速に普及しているが、そこで人気のあるのが有料、無料で提供されている小道具的なツール、いわゆるアプリである。便利ではあるが、おっかなくもあるアプリについて考えておこう。

スマートフォンのアプリ

 スマートフォンのアプリをめぐっては、2012年になってからもいくつかのニュースがあった。

 まず紙面レイアウトと同じ体裁で産経新聞を読めると、昨年11月から無料で提供されていたアイフォン用アプリが、利用者がどのページをどのくらいの時間をかけて読んだかという情報を、利用者に無断でアプリ開発者側に送信する仕掛けを内蔵していたことが判明した。

 次に米グーグルがスマートフォン用にアプリを提供するサイト「アンドロイドマーケット」で、有料のアプリを購入した人の氏名、電話番号、メールアドレスがアプリ提供者に自動的に送られていたことがわかった。

 前者は「開発中に試験的に組み込んだ機能が残っていた」として、後者も「システムの不具合」との理由で、それぞれ機能を停止した。無料で便利だと思って使っていると、個人情報がすっかり抜き取られる危険性が高いということである。

 ここへきてのスマートフォンの爆発的普及は、①通信量増大への対応、②技術の発達に遅れがちな法整備、③企業活動や産業構造そのものの変化など、さまざまな問題を引き起こしている。たとえばスマートフォンになると、画像など大容量のコンテンツがやりとりされ、通信量は従来型ケータイの10倍~20倍になると言われる。昨年暮れから今年年頭にかけ、ドコモのスマートフォンでメールが誤表示されるなどの通信障害も起こっている。

カレログとアップログ

 ここでは問題をアプリそのものに絞って考えることとし、昨年話題になった2つの事例を振り返ってみよう(1)。

<カレログ(アンドロイド用)>スマートフォンにインストールすると、その持ち主の居場所や電源のオンオフなどの状況をウエブサイトで把握できる。名前が示唆しているように、女性が
「彼の行動を知るための便利なツール」といったキャッチで昨年8月に売り出された。スマートフォンに組み込むためには、所持者の了解を得なくてはいけないといった断り書きがついていたが、操作は端末だけで可能で、本人の知らないうちに組み込めた。有料会員になると、そのスマートフォンの通話履歴も知ることができた。これに対して「プライバシーの侵害だ」などといった批判が出て、有料会員制はなくなった。

<アップログ(アンドロイド用)>電話帳や行楽ガイドなどのアプリを導入すると、そのアプリに組み込まれたアップログが、スマートフォンの固有番号、導入済みのアプリの名前、各アプリを使った時間帯が1日1回、開発元に送信される。そこから利用者の年齢、性別、好きなアプリの傾向などを読み取り、提携した広告会社からそれに見合う広告が流される仕組みで、たとえばゴルフのアプリを使っていると、ゴルフ用品や中年男性向けの製品の広告が配信される。電話帳や行楽ガイドの開発元には端末1台あたり月1円が報酬として支払われることになっていたが、アプリの利用者にはアップログについては紹介されていなかった。利用者の知らないうちに個人情報を吸い上げる悪質なやり方だと批判されて、昨年10月、公開約1ヶ月後にはサービスを停止した。

 スマホのアプリをめぐる混乱の遠因は何か。それは、ひとことで言うと、誰もが強力な機能をもったツールを日常的に使う時代の危うさである。 スマートフォンは、パソコンと同じように独自のOSをもつ高機能携帯端末で、従来のいわゆる携帯電話(ケータイ)とは仕組みや機能の点でまるで違う。

 従来の日本のケータイは、ときに揶揄の意味も込めてガラケー(ガラバコスケータイ)と呼ばれるように、日本独自の発達を遂げた、かなり高機能なケータイだった。ケータイ各社が独自に構築したシステムの中で管理されており、各社によってコントロールされた公式サイトがあり、そこではある程度の製品管理や課金システムも用意されていた。それに対して、スマートフォンは、基本的にはパソコンと同じ、自由にインターネットにアクセスできる。

便利さの裏に潜む危険

 昨今のコンピュータ(ネットワーク)の情報収集能力はすさまじい。端末からあらゆる情報を吸い上げることが可能であり、だからこそ私たちは高機能の検索サービスや、あっと驚く製品推奨や情報提供、便利な日本語変換機能などを利用できる。
 
 スマートフォン用のアプリには、ゲーム、スポーツ、辞書、翻訳、ガイド、教育などのジャンルごとに、アイフォンですでに10万本、アンドロイドで2万本以上のアプリが提供されている。東日本大震災のとき都心の駅の混雑度がわかるアプリが登場して話題になったし、以前、本連載で取り上げた「タイガーテキスト」のようなユニークなソフトもある。

 この便利さの裏にいろんな危険が潜んでいるのを忘れてはいけない。アプリの9割以上は無料だと言われており、遊び半分、趣味で開発されたものもあるだろうが、開発者の多くはアプリ使用にともなう広告収入を当て込んでいる。開発の敷居もまた低くなり、さまざまな人がどんどんアイデアを現実化している。これはこれで素晴らしいことだが、一方で、常識外れのあやしいアプリも誕生するわけである。

 強力ツールを使うユーザーも、アプリなどを提供する供給側も、目先の利害だけを考えていると、インターネットの世界はいよいよアナーキーに向かっていく。

<注>
(1)以下の記事など参照。
http://www.asahi.com/digital/mobile/TKY201109200225.html
http://www.asahi.com/national/update/1004/NGY201110040044.html

投稿者: Naoaki Yano | 2012年04月08日 22:32

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