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2013年08月26日

インターネット選挙運動解禁(2013年6)

 今夏の参議院議員選挙運動でインターネットの利用が解禁される。一足先に自由化されている韓国の実情を見ても、新しい試みが、選挙運動にとどまらず、国民全体のインターネット利用のあり方を変える可能性がある。また、ふだんからインターネットに親しんでいる若年層の投票行動にどのような影響を与えるかも、おおいに注目したい。

焦点は、若者の投票行動とその選択

 今夏の参議院議員選挙運動でインターネットの利用が解禁される。一足先に自由化されている韓国の実情を見ても、新しい試みが、選挙運動にとどまらず、国民全体のインターネット利用のあり方を変える可能性がある。また、ふだんからインターネットに親しんでいる若年層の投票行動にどのような影響を与えるかも、おおいに注目したい。

 3月に成立した公職選挙法改正の骨子は以下の通りである。

 候補者は、選挙期間中に自らのウエブばかりでなく、ツイッター、フェイスブックなどのソーシャルメディアを使って自説をアピールしたり、街頭演説の動画や写真を配信したりできる。一般の有権者もネットを使って特定の候補への投票を呼びかけたり、対立候補の批判を展開したりできる。ただし、メールを使った選挙運動は政党と候補者に限られる。一般の有権者は、候補者から受信したメールを転送できない。

 これまでの公職選挙法は「金のかからない選挙」を前面に出すあまり、使用する文書図画の制限など、何かと禁止事項が多かったが、オープンでほぼ無料のメディアの登場を前に、選挙運動も大きく自由化したということである。これはこれで大きな前進だが、新しい試み特有の混乱も予想される。そのため、公職選挙法やその付則、関連法改正などで、いくつかの歯止め策も用意されている。

 たとえば、候補者になりすまして落選をねらったりするのを防ぐために、メール転送を禁止しているし、激しい誹謗中傷合戦が展開されないように、ネット上の選挙運動用文書には情報発信者の連絡先(メールアドレスやSNSなどのアカウント)表示を義務づけた。またプロバイダー責任制限法の特例を設け、候補者などからプロバイダーに対して名誉毀損を理由に削除要請があった際の対処を迅速化できるようにしている。

試されるみんなのリテラシー

 もっとも、この種の歯止め策の効果は微妙である。たとえばメールの転送を例に考えてみよう。

 そもそも、メールは一対一のコミュニケーションツールである。刑法には「信書開封罪」というのがある(「正当な理由がないのに、封をしてある信書を開けた者は、1年以下の懲役または20万円以下の罰金に処する」=第133条)。一般的にも、たとえば家族の一員に封書が届いても、当人以外はそれを見ないのが暗黙のルールである。

 だからメールも、送信者の許可無くして転送することは許されないと考えるべきだが、現実には、転送の操作が簡単なこともあって、安易に転送されているし、また送信者もその点、とくに気にしていない場合が多い。「転送歓迎」と書かれたものもあるし、一度に多くの人にメッセージを送る同報通信というやり方もある。複数でメッセージをやり取りするメーリングリストもある。電子メディアに信書の秘密を厳密に適用するのは難しい。

 そういう状況下でメールの転送を禁じることにどれだけ実効性があるかどうか。有料インターネット広告の政党以外の禁止もそうだが、インターネットというメディアが相互リンクで成り立っていることを考えると、境界を設定することは難しい。

 情報ネットワーク法学会が1日、都内で開いた特別講演会で、韓国選挙研修院の高選圭教授は「2000年前後のインターネット解禁以来、韓国では每年、自由化促進の方向で改正が行われている」と述べていたが、この辺は実情にあわせて徐々に微調整していくしかなく、「制限」から「開放」へという流れを変えることはできないだろう。

 だからこそ無用な混乱を避けるためには、インターネットという新しいツールを使う候補者や有権者のモラルが求められる。結局のところ、国民一般のリテラシー(サイバーリテラシー)がいよいよ重要になるということである。

政党も若者取り込みをめざす

 リテラシーについて考えると、インターネットに比較的慣れ親しんだ若い層と、そうでない年長者の間には差がある。最近の推計人口によると、国民の4人に1人が65歳以上である。ネットになじみが薄い高齢者が不利になることは避けなくてはならないが、韓国の例では、若者の投票率が高くなるだろうと、かえって高齢層(50代~60代)の投票率が上がる傾向も見られたという。また選挙運動を通してネットに接する機会が増えることで、国民全体がインターネットをより理解するようにもなっているらしい。

 しかし、興味はむしろ、若年層の選挙への参加がどれだけ高まるか、彼らがどのような選択をするか、ということだろう。だから各政党は若年層取り組みに知恵を絞っている。ネット上で活躍している人を担ぎだしたり、本人を候補者にしないまでも、ツイッターのフォロアー(メッセージを読んでいる人)数が何十万という若手芸能人などを抱え込んで、フォロアー数という新たな「組織票」獲得をめざしたりしている。繁華街にネット向けスタジオを開いて、街角の有権者を呼び込んで政党関係者との討論会をネット中継したりする準備も進んでいる。

 今回の参院選挙は、昨年末の総選挙で自民党圧勝、民主党壊滅という大きな政治的転換があった後の初の大きな国政選挙である。大胆な金融政策を繰り出し、円安、株高を演出したアベノミクスで自動車産業などの企業は業績が好転している。安倍政権に向けての追い風だろう。一方で安倍首相の第二次世界大戦をふりかえる一連の発言に関しては、米議会から「侵略の歴史を否定する修正主義者の見方」として懸念を表明されている。原発再稼働をめぐる大きな国民的課題も残っている。

 現下の政治状況は激しく流動している。だからこそ、参院選で民意がどのように動くかは、今後の日本にとって大きな意味を持つ。インターネットを利用した選挙戦で多くの意見が飛び交い、選挙は盛り上がるかもしれない。そのなかで若者の関心が高まるのはたいへん望ましいが、彼らがどのような選択をするかにも注目したい。

投稿者: Naoaki Yano | 2013年08月26日 16:06

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