特定秘密保護法の危険性をどうセーブするか(2014年1月)
特定秘密保護法が2013年暮の国会で成立した。この法には、特定秘密の範囲があいまいなために「何を秘密にするか」が官僚のさじ加減で決められてしまう恐れがある、判断が適性であるかどうかの第三者チェックが働きそうにない、などの懸念が指摘されてきたが、結局、与党(自民・公明)単独で強行可決した。11年暮の衆議院議員選挙、13年夏の参議院議員選挙で自民一強体制を許した国民の判断が生んだ帰結でもある。
13年夏に特定秘密保護法の概要が発表されたあと、政府は約2週間という短い期間ながら、国民の声をパブリックコメントとして募集した。私は、以下の3点で反対意見を書いた。
パブリックコメントに応えて
<1>法案そのものについて
安全保障上の秘密を守るという意図はわかるが、その秘密の範囲があいまいな法の執行が、ともすれば拡大解釈と乱用を招き、一般国民の「知る権利」や「表現の自由」を脅かすことになるのは、歴史の教えるところです。
「特定秘密」の対象を行政機関の長が決めることは、政府が国民に知られたくない情報を自ら指定できるということで、それへの歯止め策が十分盛り込まれていません。また特定秘密を扱うものの「適性評価」が適正に行われる保証もないように思われます。
さらに「特定秘密の取得行為を罰する」ことは、ジャーナリストばかりでなく、健全な民主主義社会を維持するために不可欠な「表現の自由」を行使する国民の権利を大きく制約する恐れがあります。とくに「教唆又は扇動を処罰する」ことは、これら「表現の自由」を遂行する活動をいちじるしく萎縮させるでしょう。
<2>法に頼りすぎるのは危険
ネットワーク社会では情報が漏れやすいのは確かです。尖閣諸島沖衝突事件の映像は海上保安大学校のパブリックフォルダに数日間、収容されたままになっており、これをたまたま見た神戸の海上保安官が艇内行政情報システム端末に保存、その映像をI保安官が私有USBに保存して持ち出したとされています(情報流出再発防止対策検討委員会・中間報告)。
米国家安全保障局がインターネットを通じて個人情報を収集していたことを告発した元CIA職員はNSAの委託作業員で、かつてなら国家の機密情報に接するような立場にはなかった人です。
重要な情報漏洩を防ぐためには、さまざまな段階で多様な対策が考えられるべきで、これをもっぱら強制的な法(罰則強化)で解決しようとすれば、どうしても監視国家化を招く恐れが強くなります。アメリカの憲法学者、ローレンス・レッシグが指摘したように、人の行動を制約するものには、法、規範、市場、アーキテクチャーの4要素があり、IT社会における諸施策はより包括的な視点で考えていくべきではないでしょうか。
<3>安倍政権の強引なやり方について
安倍首相は、東京オリンピック招致をめざすIOC総会で、福島原子力発電所の汚染水漏洩の「状況はコントロールされている」と世界に向けて断言しました。また従来の自民党政権の枠を超えて、現憲法の拡大解釈で「集団的自衛権」を認めようとしています。
いまは自民党圧倒多数、党内でも安倍首相の圧倒的体制で、与野党ともに批判勢力の力は極めて弱い状況です。こういうときに力にまかせて微妙な法案を提出、可決させようとする政治手法には、反対するものを徹底的に排除しようとする危うさがあります。
この安倍政権の強引さこそが、「特定秘密の保護に関する法律」の危険性を証明しているように思われます。
今後の国民の心構えが大切
このコメントについて、いま修正を加える点がまったくない。そのこと自体が驚きである。短い国会審議の過程で法の骨格はほとんど変わらなかった。審議の後半では連日、法案に反対する人びとが国会周辺で抗議の声を上げたが、石破自民党幹事長が「単なる絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらない」とブログで書いたように、民主主義の基本素養を欠いたと思わざるをえない政権によって、今後どのような拡大解釈が行われるようになるかは、大いに警戒すべきだろう。
しかし、これは国民が選んだ結果である。衆院選の投票率は60%、参院選の投票率は53%だった。若者の投票率はいよいよ低く、衆院選においてすら、20代と30代前半の投票率は50%に満たない。この「国民の総意」を背景に、国会の衆参両院で自民党が圧倒的多数を得た。しかも自民党内でも党内野党はほぼ絶滅、強固な安倍一強体制が出来上がった(さらに言えば、世論は安倍内閣に高い支持を与えてきた)。そして彼らが、投票しなかった人も含めて、すべての国民に大きな影響を与える法を成立させたわけである。
脱原発の動きも含め、このところ政治過程と民意のずれがさまざまに指摘され、国会だけが政治を動かしているわけではないという、やや楽観的な意見も見られるが、うっかりしていると、自分たちの首が真綿で締められる危険は否定できないだろう。せっかく開かれている国会への回路を無視することが賢明だとはとても思えない。
国会審議後半で、特定秘密の指定をめぐって第三者機関を政府内に設置する案がいくつか出されたり、法成立後に石破幹事長が秘密指定をチェックする国会の常設機関設置を法制化すると述べたりしているが、これらが十全なチェック機能を働かせられるかどうかきわめて不透明である。
官僚が法案をつくる手法は、「小さく生んで大きく育てる」、すなわち「苦労なく(法律を)生んで、大きく(権限を)育てる」のだそうだが、成立した法の危険な芽をつみ、政府の思惑とは逆の方向でどう「育てて」いくかこそ、これからの正念場と言ってもいい。
ある程度の反対はあっても、いったん成立したらいずれすぐ忘れてしまうだろうと、為政者にタカをくくらせないことを、年頭の決意とすべきではないだろうか。
投稿者: Naoaki Yano | 2014年01月19日 14:03