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2015年01月24日

あぶり出された「個」の力が世界を変える(2015/1)

 年頭にあたり、インターネットが引き出す「個人」の力について考えてみよう。サイバーリテラシー第3原則は<サイバー空間は「個」をあぶり出す>である。一人ひとりの力が、性別や年齢、職業、地域などの属性を離れて、グローバルに集められて大きな力になる。それは経済のあり方ばかりでなく、社会構造をも大きく変えている。

インターネット普及のデータ

 最初に、バックグラウンドとして、インターネット普及に関するいくつかのデータを整理しておこう。

 世界のインターネット人口29.2億人
 ケータイ加入者67億件(スマートフォンユーザー数17.5億人)
 SNSユーザー数18.2億人
 クラウドサービスのユニークユーザー数2億人

 いずれも『情報通信白書(平成26年版)』の数字を拾ったものだが、サービスや機器の普及スピードを考えれば、2014年末現在はさらに大きく躍進しているはずである。

 国際電気通信連合(ITU)は昨年5月に「2014年末までにインターネット利用者は世界人口(72億人)の約4割にあたる30億人に達する」と発表している。その利用率を地域別でみると、欧州が4分の3、北南米3分の2、アジア太平洋3分の1、アフリカ5分の1となっている。世界人口の6割がまだインターネットにアクセスできないでいることを忘れるべきではないが、利用率が一番低いアフリカ地域でも200年から見ると倍増したという。

 趨勢を見れば、スマートフォンなどの小型携帯端末の普及で、インターネット人口がこれから飛躍的に増大するのは間違いないだろう。いずれは現実世界の人びとはすべてサイバー空間の住人ともなる。

「アリババ」の躍進とロングテール

 中国の通販サイト「淘宝網(タオバオ)」や「天猫(Tモール)」を手掛けるアリババグループ・ホールディングは14年9月、ニューヨーク証券取引所に上場し、世界最大規模の資金、約250億ドルを手にした。アリババは1999年、通販サイト「アリババ・ドットコム」からスタートし、その後事業は急速に発展している。

 上場時の記事によれば、アリババの14年3月期売上高は8925億円(前期比1.5倍)で営業利益は4236億円(同2.3倍)。同サイトの月間利用者数は今年6月末時点で2.8億人に上る。サイト上での取引量を示す流通総額は8.5兆円(14年4~6月)で、同期比で日本の大手、楽天の約18倍だという(1)。
楽天とアリババの規模の差が両国の人口差に多くを追っているのは明らかである。そしてこの人口(数)の差がいきなり企業規模に反映するところが、インターネットの特徴だと言っていい。

 そう考えると、これからは国家が擁する人口の持つ意味がとても大きいことがよくわかる。中国一になれば、それが世界一になる理屈である。インド、インドネシア、ブラジルなどの人口の多さを誇る国がITビジネスで発展する可能性は強い。

 現実世界とオンラインではビジネスのあり方に大きな違いがあるという意味では、オンラインビジネス初期によく使われた「ロングテール」という言葉が思い出される。

 米誌『ワイアード』の編集長、クリス・アンダーソンは10年前に「ロングテール(「the Long Tail」)」という記事を書き、そこでオンライン書店、アマゾンに注目し、「アマゾンは全売り上げの半分以上をリアル書店が在庫を持たない本から上げている」と述べた。書籍タイトルを横軸に売り上げを縦軸にとったとき、左側にベストセラー群が大きな山をつくるが、そのカーブはしだいに下降、どんどん下がっていく。しかしグラフをぐっと右側に伸ばしていっても、それがゼロになることはなかなかない。彼はこれを「ロングテール(恐竜の長いしっぽ)」と呼び、「インターネット上での現象は、生起頻度の低い要素の合計が全体に対して無視できない割合を占める」と述べた。

 これは新しいビジネスの提案であり、個人の力の発見でもあった。ちりも積もれば山となる。従来の企業は大企業を相手に大きな利益を生む方式だが、ロングテール企業は小さな顧客から少しずつ稼ぎ、それで結果的に大きな利益を得る。しっぽこそバカにできないわけである。検索サイトのグーグルも、SNSのフェイスブックもみなこのロングテール・モデルである。

 アンダーソンは『ロングテール』の中で、もう一つおもしろい話を紹介している。

 アメリカにはインド人が推定で170万人が住んでおり、インドの映画産業は毎年800点を超える長編映画を製作しているが、それらの映画はほとんどアメリカでは上映されない。なぜかと言えば、映画館の客は周辺住民だけであり、そこでヒットするためには、みんなに喜ばれるハリウッド大作が必要だった。「地理的にばらばらと分散した観客は、いないも同じになってしまう」。しかしインド映画のオンライン販売になると、170万人は顕在化する。これがインターネットの力である。

 短期的に見れば、ITビジネスにおいては人口を擁した国の企業が有利である。しかしグーグルも、フェイスブックもユーザーは全世界に広がっている。いずれは地理的要素の比重は小さくなるだろう。

日本政治過程のいびつ

 話はいきなり変わる。これらの「個」の力は、2014年総選挙ではまったく顕在化しなかった。投票率は戦後最低の53%である。そのうち自民党の得票率は小選挙区48%、比例区33%。安倍政権を支持したのは国民(有権者)の25%以下という計算である。その安倍政権が集団的自衛権、特定秘密保護法、原発推進など異論も強い政策を強引に進めている。

 インターネット普及が進む中で、政治過程だけが古色蒼然たる様相を帯びているのは異常でもあり、また大いに問題だと言えよう。個人が政治過程から取り残されたというより、政治過程にそっぽを向いている(そのこと自体は賢明とは思えないが……)。政権党はよくよくこのことを考えるべきである。

<注>
(1) 東洋経済オンライン(http://toyokeizai.net/articles/-/48655)「世界最大規模の上場、アリババ隆盛は続くか」

投稿者: Naoaki Yano | 2015年01月24日 16:45

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