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2015年10月12日

空き部屋貸し借りサイトの人気と波紋(2015/8)

 休暇で旅行に行くときなどに、宿を比較的安く探せるサイト、airbnb(エアビーエヌビー)は、空き部屋を持っている人とその部屋を短期間借りたい人を結びつけるマッチング・サイトで、すでに日本を含む世界190カ国3万4000以上の都市で部屋の貸し借りが行われている。

airbnbというサイト

 この6月、妻といっしょにスイスと南フランスを旅してきたが、ニースの2週間を過ごしたのはそのサイトで見つけたアパートだった。市中心部のマセナ広場に面したしゃれたビルの4階にあり、ダイニングキッチンのほか2階部分に寝室があった。自炊用具一式やバストイレも完備しており、ホテルの一室に比べればずいぶんくつろげる。しかもホテルより格安である。

 そこを拠点にモナコ、カンヌ、カーニ・シュル・メールなどの国や町を訪れ、コート・ダジュールの小石浜の海岸で泳いだりした。エズという山岳の美しい村でドイツの哲学者、フリードリッヒ・ニーチェが『ツァラトゥストラはこう言った』の構想を得たという山道も歩いた。

 このサイトは、自分の部屋の一部やマンション、あるいは会員権を持っている高級ホテルの一室などを提供したい人と、それを借りたい人を結びつける。貸し手(ホスト)になるためにはある程度の審査があるし、借り手(ゲスト)になるためにも一定の資格が求められる(ともにアカウントを取得する)。貸したい人は部屋のロケーションや設備、価格などを写真入りで公開する。借りたい人はそれを検索して希望の物件があれば、その旨リクエストし、何度かのメールのやり取りのあとで、双方了解すれば契約が成立する。

 借り手はサイトを通じて何度もホストとメール交換するし、サイト上の他の利用者の評価(レビュー=クチコミ)も参考にできる。借り手の他施設の利用履歴やそれに対する貸し手の感想などもプロファイルとしてサイトに整備されており、ホストもある程度、ゲストの信用度を測ることができる。トラブルが発生した場合、サイト運営者が間に入って調整もしてくれる。

 2008年にサンフランシスコで若者数人が開設、急速に拡大したもので、運営はホストからマージンをとってまかなわれている。

あくまで自己責任の世界

 これらのマッチング・サイトは一般に「コミュニティ・マーケットプレイス」などと呼ばれ、ほかにも貸しオフィスを提供したり、あるいはちょっとした雑件を依頼したり、されたりといった趣向のものがある。私たちの経済行動の「所有」から「共有」へという大きな流れのなかで、「シェアビジネス」などとも言われて脚光を浴びている。

 しかし一度もあったことのない者同士の結びつきだから、これはあくまで自己責任の世界である。当面は行政の目の埒外にあり、監督官庁もない。ホスト、ゲストともに、サイトを悪用する人も多く、貸したマンションが売春に利用されたとか、借りた部屋が公開されていたものと違っていたといったトラブルも頻発している。

 悪用とまでは言えなくても、たとえばマンションで余分の部屋を持っている人が、自分と同じ条件で共用設備が使えるとサイトで告知しても、マンション住人から苦情が出て、短期滞在者には使えなかったといった例もある。いくつかの部屋をビジネスライクに貸している人もいるが、多くはこの種のビジネスには素人である。貸す方にも、借りる方にも慎重な対応が望まれるだろう。

コミュニティや既存業者に打撃

 たまたまニース滞在中に、ニューヨークタイムズ(オンライン版)でairbnbをめぐるディベートを読んだ。サンフランシスコやニューヨークといった住宅事情が悪化している都市では、家賃を払えきれないホストや、部屋を探せないゲストが、短期に部屋を貸し借りし、サイトが当初の意図とは違う目的で使われているらしい。要は、又貸しである。

 こんな意見があった。ニューヨーク州には自分の部屋を30日に満たない期間で貸してはいけないという法律があるが、それには合理的な理由がある。①アパートの供給が少なくて需要が多いとアパートがホテル化して、アパート全体の価格を押し上げる、②地域のコミュニティが破壊される。

 昨年の調査ではサイト登録しているテナントの72%が違法だったという。だからこれらのサイトを規制すべきだという意見だが、逆に、「この種の空き部屋レンタルは旅行者よりも市民に開放されるべきである」、「このサービス(the vacation rental website)はサンフランシスコやニューヨークのように家賃が高くなっている地域では福音である」といった擁護論もある。
 旅行者向けとして大きく発展したサイトが、部屋の供給不足と価格上昇に悩む都市住民にとって福音となっているのは皮肉である。しかし、ある人が書いていたが、自分が借りている部屋を又貸ししてなにがしかの収入を得られるのは、大家が直接貸し出した方がいいと考えるまでの間でしかなく、そのために追い出された住人は、それこそ居場所がなくなるだろう。

 地域コミュニティは長期滞在者によって成立するわけで、たとえばマンションの一室に入れ代わり立ち代わり、素性の知れない外国人が表れるのは、コミュニティの団結力をそぐものとして、他の住民の反発を受けるだろう。火事や盗難などの心配もある。

 宿の貸し借り(一宿一飯)自体は昔からあることで、それが後年、ホテル業へと発展したわけだが、これらのサイトはグローバルに展開するから、既存旅客ビジネスにとって大きな打撃なのも間違いない。旅を快適なものにするための工夫やこころくばりが、すべてのホストに備わっているわけでもない。最近も若者向けに安い宿を提供してきたユースホステルの客が激減しているというニュースがあった。コミュニティ・マーケットプレイスが投げかける波紋は大きい。

投稿者: Naoaki Yano | 2015年10月12日 12:58

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