今や、何もかもがさらけだされていく(2016/3)
女性タレントのベッキーが正月に男性ミュージシャンの実家を訪問したことが週刊誌で報じられたが、発覚後にインターネットのアプリ「ライン」でやり取りした「友達で押し通す予定!笑」という「秘中の秘」情報が同じ週刊誌の続報で暴露され、進退窮まる事態に陥った。今や、何もかもがさらけ出されていく。
ラインのやりとり画面が流出
明らかになったやりとりは、スマートフォン(アイフォン=iPhoneを使用していた)の画面のコピーで、吹き出し状に、「友達で押し通す予定!笑」「逆に堂々とできるキッカケになるかも」「私はそう思っているよ!」「よし!」「そうとしか思えない」「ありがとう文春!」というふうに続いている。こういう2人だけの秘め事が暴露されてしまったのである。
たとえば業者から賄賂を受け取った政治家が秘書と相談して、「現金はポケットに入れたのではなく、菓子折りの底に入っていたことにしよう」と談合したその内容が暴露されたようなものである。
スマホ画面は、男性から情報が漏れたことを示している。だれかが男性のライン画面を見てコピーしたのか、あるいは別のアイフォンに本物とまったく同じ画面を作れる技術を使って、「クローンアイフォン(clone iPhone)」を作り、その画面に次々現れるやりとりを読んでいたのか(アイフォンを新機種に替えた場合、パソコンのアプリ、iTunesを使って古いデータを移行できるが、そのバックアップデータを盗まれた可能性がある)。
公衆の面前で丸裸にされたような居心地の悪さで(昨今のメディアはこういう私信を何の躊躇もなく公開してしまう)、アイフォンを使っている人には衝撃が走ったと思われる。しかしこれらの怖さは、実はふだん自分たちがありがたがっている便利さと表裏一体なのである。
スマホは小さな機体の中に多くの機能を組み込んだコンピュータそのものである。きれいな景色とか、おいしそうな料理を撮れば、その場で友人に転送したり、自分のブログに掲載したりできる。ビデオを撮れば、これも簡単に動画投稿サイトにアップできる。だから不用意に彼に送ったあられもない写真をリベンジポルノとして公開されたり、あるいは送るつもりのない写真をあやまってどこかのブログにアップしてしまったりする。
すべては便利さ追及と裏腹
昔から「ひとの口には戸は立てられぬ」と言い、なにごとによらず秘事は明るみに出がちだが、現在においては、その情報流出が自分の便利さ追及と裏腹だということである。
たとえば、自分が現在いる場所近くのラーメン屋をスマートフォンで検索できるが、それは自分の位置(GPS)情報を公開しているからである。だからブログに「いま帰宅した」と書いただけでも、GPSがオンになっていれば、自分の正確な住所を明らかにしてしまう。
これらの機能は、オンにしたりオフにしたり、自分で切り替えることができるけれど、ひとは便利さには抗いがたい。それを慮って、あるいはそこにつけ込んでハードメーカーやソフト開発者は、情報を公開する仕様をデフォルト(default)にしがちである。
デフォルトとは、もともと義務の不履行、怠慢、欠場などの意味だが、コンピュー用語では、利用者が何の設定も行わなかった際に使用される初期設定値のことである。
ソフトウェアにはさまざまな機能がある。それを買ってきてすぐ使えるようにするには、製品出荷時にあらかじめ具体的な仕様(使い方)が設定されていなければならない。たとえばパソコンのキーボードには、文字キーばかりでなく、さまざまなキーが用意され、そこにいろんな機能が割りふられている。それをユーザーが変更することはできるが、操作が複雑な場合が多く、あるいは面倒だからと、デフォルト仕様のまま使っている人が多い。
しかし、このデフォルト設定には「癖」があることに注意しないといけない。その最たるものが「情報の公開」である。SNSやアプリケーションを使って情報を発信するとして、それをどの範囲まで公開するかで「非公開」、「友だち」、「すべて」などと選択肢がある場合、デフォルトは「公開」になりがちである。だから設定に無頓着でいると、すべての人に自分の情報を公開することになる。情報量を増やすためなるべく公開してほしいという、システム側の期待がにじむと言ってもいいだろう。
企業側に有利なボタンは目立ち、不利なボタンは目立たない「癖」も持つ。承諾のボタンは見えるが、拒否のボタンはなく、承諾の隣にカーソルを移すと、そこに拒否のボタンが浮かび上がるという手のこんだものもある。
だから普通の人はデフォルトに従いがちである。そこに危険も潜んでいる。
デフォルトの「癖」を治す
ところで、参加にはログインが必要で、ある意味で閉鎖的なコミュニティの中身が筒抜けになってしまうのはなぜだろうか。これも便利さと関係がある。ラインにしろ、フェイスブックにしろ、あるいはMLなんかもそうだが、いつも使うアプリにはその専用ソフトがあり(無料でダウンロードできる)、このアプリを使っている限り、最初にログインすれば後は常時ログイン状態になり、あらためて認証手続きをする必要がない。この便利さがあだになって、ばクローンアイフォンを作られてしまうと、二重ログインなどもチェックされない。
何度も言うようだが、セキュリティはトレードオフである。あちら立てればこちらが立たない。便利さと危険を按配しながら、快適でしかも安全な環境を築き上げるのは、最終的には個人の選択である。そのためにはある程度の素養が不可欠である(アイフォンのバックアップデータを暗号化する機能も用意されている)。
もちろん、デフォルト設定がユーザーにわかりやすく、また好みによって気軽に変更できるようにする「デフォルト仕様」を築き上げる社会的努力も必要である。
投稿者: Naoaki Yano | 2016年03月31日 14:05