フェイスブック―野放図に拡大する巨大メディアの功罪(2018/2号)
このところ話題になることの多いSNSサイトのフェイスブックだが、すでに全世界のユーザーは20億人にもなるらしい。全人口74憶人の4の1を上回る。技術(アルゴリズム)によって運営され、国境を越えて広がるこの巨大メディアの影響はもはや底知れない。私生活を気楽に公開し「いいね!」ボタンを押しあっているのどかな風景とはまるで違う顔がそこにはある。
フェイスブックの大きな影響力が脚光を浴びたのは2016年のアメリカ大統領選挙だった。「ローマ教皇がトランプ支持表明」とか「ヒラリーのメール流出問題を捜査していたFBI捜査官が自殺と見せかけて殺害された」といったフェイク(偽)ニュースが流れたり、ロシアがトランプを当選させるための画策をした疑いが真実味をもって語られたりした。それらの行為がトランプ陣営に有利に働いたのはたしかと見られ、「フェイスブックがトランプを当選させた」と論ずる人も現れたほどである。
お抱え部隊の支援で明暗
当選後のトランプ大統領は、例によっての突発的発言ではあるが、「フェイスブックは常にアンチトランプであり、したがってフェイクである」と批判、それに対して、創業者にして共同SEOのマーク・ザッカーバーグは「われわれはすべてのアイデアのためのプラットホームをめざしている(不偏不党である)」と反論した。彼が言うように、たとえフェイスブック上の情報のわずか1%が「フェイク」や「ためにする言説」(fake news and hoaxes)だったとしても、それだけで人類全体に大きな影響を与えるだけの力をすでに持っているということである。
昨年暮れに書かれたブルームバーグの記事「世界の政権を陰で支える、フェイスブック『政治部隊』」(1)によれば、フェイスブックは世界各国の政党や政治指導者と積極的に協力している。そのための有能な技術的、政治的プロ集団を組織し、彼らは米大統領選ではトランプ陣営に関与、インドではモディ首相のオンライン活動を支援、フィリピンではドゥテルテ大統領側に最も有効なフェイスブック活用法を指南しているという。ドイツでは、難民受け入れに反対する政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が初の連邦議会議席を獲得するのにも寄与したらしい。
これだけ規模を拡大、装備する機能も複雑になったメディアを効率的に使うのはもはや素人には無理である。だからその手助けをする専属部隊を用意したのだろうが、それはとりもなおさず、国家規模の選挙に勝とうとすればフェイスブックの頭脳集団に頼るしかない、少なくても頼るのが得策だという事態を生んでいる。当選した政治家はいよいよフェイスブックとの関係を強め、そのことでフェイスブックの影響力はますます強まる。
記事のかっこ内に注のように「クリントン陣営はフェイスブック部隊の協力申し出を断った」と書いてあるのが注目される(クリントン陣営が申し出を受けていれば、負けることはなかったのだろうか。両候補がフェイスブックを使って争うことになれば、いよいよフェイスブックの影響力は高まるだろう)。
あらゆる人に声を上げる機会を与えていると言うザッカーバーグの素朴なタテマエと現実には大きな裂け目がある。
海外から金目当ての勝手な参戦
フェイスブックのサーバー上に集められた膨大な個人情報とプライバシー問題はひとまず置くとしても、技術に支えられたこの巨大メディアは、情報を発信する人、それを読むユーザー双方に複雑な問題を投げかけている。その第一は、フェイクなどの氾濫である。
ヨーロッパ・バルカン半島の旧ユーゴスラヴィアに属する人口200万足らずの小国マケドニア、そのうらぶれた工業地帯に住む10代の少年がつくったフェイク量産サイトがやはりアメリカ大統領選で話題になった。
その現地ドキュメント(2)によれば、ある日彼がトランプ大統領に関するいい加減な記事を自分のウエブにアップしてフェイスブックにリンクを張ったら、思いのほかの反響があり、グーグルのオンライン広告でいくらかの収入も得た。これに味を占めた少年はサイトの名前もそれらしいもの(PoliticsHall.comやUSAPolitics.co)にして、トランプ支援の右派サイトから適当に記事をカットアンドペーストするようになり、仲間も集まりフェイクを量産した。後にこのことが話題になり、フェイスブックから締め出され、グーグルの広告も入らなくなったが、彼は、大統領選が過熱していた16年8~11月の4カ月間で、1600ドルの収入を得た(マケドニアの平均月収371ドルの40倍以上)。
記事によれば、「トランプが勝とうとクリントンが勝とうとどうでもよかった。ただ車、時計、スマートフォンを買う金やバーの飲み代がほしかった」からで、トランプ支援を選んだのは、そちらの方がトラフィックも稼げ、金になるからだった。コピーアンドペーストする材料には事欠かなかったから、英語能力に乏しくても問題なかった。
ヨーロッパの片田舎の少年たちがフェイスブックを使ってこれだけの社会的事件を起こせるということである。
自分と同じ意見を求める傾向
フェイスブックに限らず、ビッグデータ時代のプラットホームは、利用者には見えず、また気がつかれないように、人びとにほしい(好きな)情報を与え、それとは立場の違う(嫌いな)情報からは遮断するから、これもタテマエの「世界をつなぐ」というよりも、むしろ「仲間内の連帯を強める」、「世界を狭める」働きをする。それは必然的に、得た情報をそのまま信じる傾向を助長しているように思われる。こういうデータがある(3)。
「ローマ教皇がトランプ支持表明」という偽ニュースを信じた割合は、クリントン支持者で46%、トランプ支持者は75%、また「ヒラリーのメール流出問題を捜査していたFBI捜査官が自殺と見せかけて殺害された」という偽ニュースでは、クリントン支持者52%、トランプ支持者85%となっていた。これはフェイスブックに対する信頼度が高いこと、とくに自分が望むニュースを〝率先して〟信じているらしいことを示しているようである。
<注>
(1)https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-12-25/P1I2AY6K50Y001。原文はHow Facebook’s Political Unit Enables the Dark Art of Digital Propaganda byLauren Etter Vernon Silver, and Sarah Frier 12.21.17
(2)Inside the Macedonian Fake-News Complex by Samanth Subramanian 2.15.17 https://www.wired.com/2017/02/veles-macedonia-fake-news
(3)吉見俊哉(東京大学大学院情報学環教授)「トランプのアメリカに住む」(雑誌『世界』1月号所収)が、アメリカ調査会社の内容を紹介したもの。
投稿者: Naoaki Yano | 2018年02月24日 14:26