kikです。先日、会社の下りエレベーターに乗ったら、ものすごく臭かったんです。それはもう、卵の腐ったような強烈なニオイでした。他に乗ってる人がいなかったので、たぶん上階で降りた人の忘れ形見だろうと、息を止めて我慢してました。
ところが、次のフロアで別の社員たちが乗ってきたんです。しかも女性ばかり。誰もが無言でしたが、僕に非難の目が向けられたことは、ハッキリと感じました。痛いくらい。その場では何も言えなかったけど…
冤罪だからな!
てことで、今回は冤罪(えんざい)に関する映画。
1800年代後半のアメリカ西部、オックス・ボーとい小さな町(なので原題は『Ox-Bow INCIDENT』)が舞台。牧場主殺害と、牛泥棒を疑われた3人の男が、自警団に捕まります。無罪を訴える彼らですが、町の大多数が(怒りと正義感から)私刑を支持。正式な裁判を経ず、彼らは縛り首となります。しかしその直後、町の人々は、彼らが無実だったことを知るのでした…うわぁ…てな話。
まあ、冤罪というテーマはドラマになりやすいので、昔から演劇や映画でよく扱われてきました。いわゆる「法廷モノ」の定番ですね。
ただし、本作は法廷モノというより、前出『M』同様、群集心理の怖さを描き、『正義とは何か』を問いかける、より骨太な西部劇です。実話がベースの なんともやるせない話ですが、アカデミー賞候補にもなった名作。終盤にヘンリー・フォンダが読み上げる手紙が、ドスンと胸に響きます。
現代では、さすがに私刑で縛り首…は聞かなくなりましたが、替わりに(?)「スマイリーキクチ中傷被害事件」のような、新たな形の冤罪が生まれています。そうした事件や、ネットで他人の非を執拗に難じている人たちを目にすると、本作で無実の男たちを吊し上げていた自警団を思い出します。インターネット時代になっても、人間の本質的な弱さ、愚かさ、恐ろしさは変わらないんですな。
て、他人事みたいに言ってますが、多数派に属しているだけで、なんとなく自分が正しい気になったり、正しさへの過信から、集団の中に絶対的な正義が生まれてしまう状況って、日常生活の中でもありえますよね。エーリッヒ・フロム言うところの「匿名の権威」は、いつの時代も場を支配してるんです。たぶん。
しかも現代では、仮に冤罪が晴れたとしても、疑われたという事実がネット上に(ほぼ永遠に)残りますからね。二次被害というか、自分に非がなくても、ずっと嫌な思いをしなくちゃなりません。「忘れられる権利」が一般的な権利として、社会に浸透するのはいつの日なんでしょうか。
そして願わくば、過日エレベーターに乗り合わせた女性たちの記憶から、僕が忘れられることを祈ります。
だって、冤罪だもん。
監督 ウィリアム・ウェルマン
出演 ヘンリー・フォンダ 他
ディスカヴァー・トゥエンティワン (2015-02-26)
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