森「憲法の今」(4)

自民党改憲案と野党の姿勢―日本国憲法をとりまく状況①

 改憲をめぐる動きには3つの側面がある。

 第1は、安倍改憲の性急さである。憲法改正、自主憲法制定は自民党に脈々と流れる一つの潮流だが、安倍政権誕生以前はむしろ少数派で、自民党主流派の考えはむしろ「護憲」だった。宮澤喜一元首相は『新・護憲宣言』(1995年)で「どんな場合でも海外で武力行使するのはやめよう、それが憲法の考えるぎりぎりのところであると解釈してきたし、それが歴代政府の解釈でもあります」と言っている。自衛隊の存在を認めると同時に、「自衛権行使は専守防衛の範囲まで」という長年の政府見解や国民世論によって蓄積されてきた「解釈改憲」の上に立ちつつ、そこに憲法の平和主義を維持していこうという考えである。
 安倍政権で自民党の傍流が突如主流に躍り出て、あれよあれよというまに「一強」となり、安倍首相の祖父、岸信介以来の自民党タカ派の考えが一気に自民党全体を覆った。そこに国際情勢の変化、世論の右傾化という大きな流れが覆いかぶさる形で、いま政局では改憲問題が大きくクローズアップされているということである。

 第2は、野党勢力の怠慢である。戦後におけるソビエト連邦の崩壊、中国の大国化、北朝鮮をめぐる緊張と脅威、自国ファーストを叫び国際秩序維持の破壊へと動く米トランプ大統領の傍若無人、国際連合のいよいよの弱体化などの事情は、大戦直後に日本国憲法が掲げた「戦力を持たない、戦争をしない」という平和主義に大きな影を落としてきた。
 自民党内の勢力地図を一気に逆転させた背景に、あまりにアメリカ一辺倒ではあるけれど、この国際情勢の変化にどう対応するかという意識があったのは確かだろう。一方で、野党勢力は「平和憲法を守れ」と言う掛け声を繰り返すばかりで、憲法の平和主義を新たな時代にどう対応させるかという努力を怠ってきた。戦後の護憲勢力の運動にそれなりの成果があったことは認めるべきだが、「解釈改憲」に飽き足らず、「明文改憲」で平和憲法の枠をぶち破ろうとする安倍政権に対決するにはあまりに非力だと言わざるを得ない。「平和主義」の旗色が悪くなりがちな時代に抗して、改めて「日本および世界の平和」を追求する知恵が必要になっている。

 そして第3は、実はこれが一番大きな問題とも言えるが、政治やメディアの中でこそ目立つ改憲の動きと、一般国民との考え方との間の乖離である。各種世論調査における改憲賛成比率は、自民党内や国会内の勢力分布とはむしろ逆にかなり低いが、問題なのは、国民、とくに若い層の間に広がる「政治的無関心」だといえよう。
 バブル経済が崩壊した1990年に生まれた人はまもなく30歳になる。2000年生まれの人は来年の参院選には投票権を持つ。彼らは経済の高度成長も知らないし、バブルの狂騒も経験していない。日本は(世界も)低成長時代に入っているが、政治の態勢はなお高度成長期のままであり、いよいよ高齢化する社会で年金依存が急速に強まっている。ところが、それを支える自分たちは年金をもらえるかどうかすらわからない。こういう若者たちの不安や怒りに対して、政治もメディアもほとんどまともな政策論議をしていない。若者たちの政治的無関心には「深い絶望」が潜んでいる。
 いざ改憲をめぐる国民投票が行われたとして、若者たちは政権が推し進める改憲の動きにどう対応するのか。諦念ともいえる無関心が広がる空気のなかで、将来を決める重要な決断がなされそうなことこそ、今回の安倍改憲をめぐる危うい側面と言っていい。

 連載第4回の今回では、各政党の現段階における改憲をめぐる見解をフォローする。次回で憲法学者、折々に意見を発表している論客、「九条の会」といった市民運動など、憲法をめぐるさまざまな見解について紹介し、あわせて私自身の9条提案にもふれたい。

<Ⅰ>自民党以外の政党の見解・立場

 32日間の会期延長を含んだ今年の通常国会は7月22日閉会した。1月22日以来、政府・与党は森友・加計問題、それにまつわる安倍晋三首相や側近政治家・官僚たちへの疑惑、さらに次から次に生じたスキャンダルなどで窮地に陥りながら、衆参院とも圧倒的な数の力で働き方改革法案、参院定数6増公職選挙法改定案、カジノ実施法案などの重要かつ大きな問題を抱えた法案を成立させた。

 しかし、当初今国会中に発議をめざしていた憲法9条改定については、自民党としての案は憲法審査会の場にも出されないままだった。その案は、3月25日の党大会で、「方向性がまとまった」として報告された「改憲4項目」たたき台素案の先頭に掲げられているもので、「現在の9条をそのまま残し、2として『第1項 前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する 第2項 自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する』を追加する」とするもの。それがついに提出されなかったのは、「タイミングが悪い」と判断されたためだろう。

 タイミングの問題である以上、いつかは出される。自民党総裁としての安倍晋三首相は8月12日に地元・山口市での講演会で「次の国会に提出できるよう取りまとめを加速すべきだ」とハッパをかけた。9月の総裁選での3選を自ら確実視しての発言だ。次の国会は総裁選後の臨時国会か、来年1月からの通常国会か。多分前者を願望しているのだろう。

 しかし、その前に国民投票法のCM規制問題、そして「安保法制」廃止あるいは棚上げ問題がある。憲法にかかわる問題をいわば白紙の状態から検討しようというのに、憲法違反の疑いのある法制をそのままにしていいのか、という疑念・批判の声が強くなっているからだ。

 ともに解決には時間がかかりそうだ。しかし、自民党は何度も強引に法案や議題を設定し、その審議と採決を強行してきた。強引にそうした大問題を「解決」して、9条をはじめとした「改憲4項目」の早期審議入りを迫らないとも限らない。そういう状況下で「護憲派」とされる党・会派の備えはどうなのか。そこにどのような問題があるのか。それを探ってみたい。

衆院310、参院162の議員の賛成で発議

 まず、憲法審査会の議論と改定案が国会発議されるかどうかに、決定的な影響を与える各会派の議員数を確認しておこう。

 下記は衆参両院事務局発表による各会派所属議員数である(5月9日現在)。いうまでもなく、それぞれの総数の3分の2以上(衆院310、参院162)の議員の賛成で、憲法改定が発議される。

衆議院各会派所属議員(定数465)
 自由民主党 283、立憲民主党・市民クラブ 55、国民民主党・無所属クラブ 39、公明党 29、無所属の会 13、日本共産党 12、日本維新の会 11、自由党 2、社会民主党・市民連合 2、希望の党2、無所属 17、欠員 0
参議院各会派所属議員(定数242)
 自由民主党・こころ 125、公明党 25、国民民主党・新緑風会 24、立憲民主党・民友会 23、日本共産党 14、日本維新の会 11、希望の会(自由・社民) 6、希望の党 3、無所属クラブ 2、沖縄の風 2、国民の声 2、各派に所属しない議員 5、欠員 0

 自由民主党を除く会派の9条あるいは自民党案に対する姿勢を、綱領や基本政策、最高幹部の発言などから見てみよう(2018年8月末日現在)。

「憲法は集団的自衛権を認めていない」立憲民主党(枝野幸男代表)
 周知のように昨年10月の衆院選挙で、民進党の議員の大半が小池百合子東京都知事率いる希望の党に合流する中で、憲法改定推進、安全保障法制容認という同党のスタンスと相容れないとして「排除」されたいわゆるリベラル派を中心に結成された。
 2017 年12 月7 日に発表、2018 年3 月15 日改定の「憲法に関する当面の考え方」で、「日本国憲法9 条は、平和主義の理念に基づき、個別的自衛権の行使を容認する一方、日本が攻撃されていない場合の集団的自衛権行使は認めていない」としている。この解釈は、自衛権行使の限界が明確で、内容的にも適切なものである。また、この解釈は、政府みずからが幾多の国会答弁などを通じて積み重ね、規範性を持つまでに定着したものである。
 集団的自衛権の一部の行使を容認した閣議決定及び安全保障法制は、「憲法違反であり、憲法によって制約される当事者である内閣が、みずから積み重ねてきた解釈を論理的整合性なく変更するものであり、立憲主義に反する」という姿勢を明らかにしている。

「専守防衛を維持、現実的安全保障を築く」国民民主党(大塚耕平・玉木雄一郎共同代表)
 今年5月7日、民進、国民両党の一部議員が合流し、手続き上は民進党が党名を変更する形で結党された。民進党は参院に残ったメンバーが中心で、国民党は希望の党が合流直前に名称を変更していたもの。前者から大塚、後者から玉木が代表の座についた。
 綱領に「私達は、専守防衛を堅持し、現実的な安全保障を築きます」とある。
 民進党との合流直前の5月3日の憲法記念日に発表した当時の希望の党玉木代表の談話では「私たちは、安倍政権のように、従来の憲法解釈を恣意的に変更し、歯止めなく自衛権の範囲を拡大する立場はとりません。他方で、厳しさを増す安全保障環境の中で、現実的な対応も示さなければ、安心して政権を任せていただける責任政党にはなり得ません。国民の生命・財産、わが国の平和と安全はしっかり守りつつ、『専守防衛』の立場を堅持し、直接わが国に関係のない紛争への関与は抑制するという立場を明確にしていきます」としている。

「9条は平和主義を体現するもの」公明党(山口那津男代表)
 一般に自民党の憲法改定に同調すると見られており、それが「両院それぞれ3分の2の壁突破は確実」とされる理由になっている。しかし、同党の立場は改憲にはかなり慎重だ。
 1964年の結党以来「平和の党」を標榜してきた同党だが、98年の党再結成後の綱領には9条については姿勢や見解は書かれていない。しかし、たとえば昨年10月の衆院選マニフェストには憲法についての「基本姿勢」がかなり明確に書かれている。
 そこには「憲法9条第1項第2項は、憲法の平和主義を体現するもので、今後とも堅持します。2年前に成立した平和安全法制は、9条のもとで許容される『自衛の措置』の限界を明確にしました。この法制の整備によって、現下の厳しい安全保障環境であっても、平時から有事に至るまでの隙間のない安全確保が可能になったと考えています。
 一方で、9条1項2項を維持しつつ、自衛隊の存在を憲法上明記し、一部にある自衛隊違憲の疑念を払拭したいという提案がなされています。その意図は理解できないわけではありませんが、多くの国民は現在の自衛隊の活動を支持しており、憲法違反の存在とは考えていません」とある。

「自衛隊の解消に向かって前進をはかる」共産党(志位和夫委員長)
 2004年の党大会で決定した綱領で、「日米安保条約を、条約第10条の手続き(アメリカ政府への通告)によって廃棄し、アメリカ軍とその軍事基地を撤退させる。対等平等の立場にもとづく日米友好条約を結ぶ」、そして「主権回復後の日本は、いかなる軍事同盟にも参加せず、すべての国と友好関係を結ぶ平和・中立・非同盟の道を進み、非同盟諸国会議に参加する」「自衛隊については、海外派兵立法をやめ、軍縮の措置をとる。安保条約廃棄後のアジア情勢の新しい展開を踏まえつつ、国民の合意での憲法第9条の完全実施(自衛隊の解消)に向かっての前進をはかる」としている。
 また、2017年衆院選での政策パンフレットでは「日本国憲法は、憲法9条という世界で最もすすんだ恒久平和主義をもち、…変えるべきは憲法でなく、憲法をないがしろにした政治です」と改めて姿勢を明確にしている。

「必要あれば改正するのが民主主義」日本維新の会(松井一郎代表)
 2010年に大阪府知事の橋下徹が中心となって立ち上げた「おおさか維新の会」が母体。綱領には憲法に対する言及はないが、基本政策に「憲法を改正し、首相公選制、衆参統合一院制、憲法裁判所を導入」「現実的な外交・安全保障政策を展開し世界平和に貢献」「国際紛争解決手段として国際司法裁判所等を積極的に活用」と改定に積極姿勢を示している。
 また松井代表は今年の憲法記念日に合わせて発表した談話で、「日本国憲法施行から71年。今、改正の機運が高まっている。国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の三原則が定められた日本国憲法は、国際社会における日本の地位を高める役割を果たしてきたが、憲法制定当時には想定できなかった問題も生じている。国民的課題としてこれらを深く議論し、必要であれば憲法を改正することが民主主義のあるべき姿であると考える」と述べている。

「足らざるを補う『加憲』を」自由党(小沢一郎・山本太郎共同代表)
 2012年に当時の民主党内で最大勢力だった小沢グループが離党して設立した「国民の生活が第一」党がスタート。選挙のたびに所属議員を減らし、一時は政党要件を失ったが、無所属参院議員だった山本太郎らの参加で政党要件を回復した。
 同党ホームページ上の「憲法についての基本的な考え方Q&A」で「国民主権、基本的人権の尊重、平和主義、国際協調という日本国憲法の四大原則は、現在においても守るべき普遍的価値であり、引き続き堅持すべきである。このような基本理念、原理を堅持した上で、時代の要請を踏まえ、国連の平和維持活動、国会、内閣、司法、国と地方、緊急事態の関係で憲法の規定を一部見直し、足らざるを補う『加憲』をする」としている。

「自衛隊を任務別組織に改編・解消を」社会民主党(又市征治代表)
 2006年2月の党大会で、自衛隊は「現状、明らかに違憲状態にある。自衛隊の縮小をはかり、国境警備・災害救助・国際協力などの任務別組織に改編・解消して非武装の日本を目指す」と宣言している。
 そして17年の選挙公約では「『戦争法』(森注:安保法制)に基づき、アメリカと一体となって世界中で戦争する自衛隊をそのまま憲法に位置づけ、9条を死文化しようとしている安倍首相の『2020年改憲案』に反対します」「集団的自衛権の行使を容認した『7.1閣議決定』を撤回させ、『戦争法』を廃止します」と訴えている。

「外交・安全保障は現実的政策を」希望の党(松沢成文代表)
 昨年9月設立の小池「希望の党」から、国民党グループが分党しての“残留組”。綱領では、「私たちは、利権まみれの政治ではなく、何でも反対の抵抗政治でもない、『新しい改革保守の政治』を目指して、新たなスタートを切る」と宣言し、同党ホームページに掲載されている松沢代表の挨拶の中で「私たち希望の党は、自民党のような利権保守ではなく、何でも反対の抵抗野党でもない、『改革保守』という新しい政治を目指していきます。外交・安全保障は現実的な政策を、そして、経済をはじめとする内政は、政府に対して対案を提起していく」としている。

<Ⅱ>今後の予想される動きと課題

 各党は「いざそのとき」、つまり自民党案が提出されて論議が始まったとき、どのようなスタンスを取るだろうか。もちろん今後紆余曲折はあるだろうが、メディアなどからは最終的に自民党案に反対するのは、立憲民主、国民民主、共産、社会民主、自由の各党と見られている。その他の党派や無所属議員を入れても、衆参改定案発議を阻止するのに必要な3分の1をかなり下回っている。公明党の「造反」など、よほどのことが無い限り発議は確実となってくる。

「国民投票の壁」は薄くなっている

 護憲派にとって、最後に期待するのは国民投票での「ノー」だが、かつては分厚かったその壁は「戦争体験」「戦争の記憶」を持つ層の減少とともに、薄くなっている。

 大手メディアは、毎年3月から4月にかけて憲法問題に絞った世論調査を行い、憲法記念日の前に結果を発表している。今年の調査は本稿第1回の追記で紹介したが、メディアによっては9条改憲に賛成が反対を上回っているところもある。今後予想される改憲側からの大キャンペーンを考えると「9条が危ない」といえる。

 護憲派がその危機を乗り越えるためには、その主張が理念と現実性の両方で、自民党改憲案を圧し、国民多数の支持を得られるものでなければならない。理念とは、平和を希求する精神であり、現実性とは、それがより確実に平和の道につながるということである。

高い自衛隊の国民への浸透度

 共産党、社民党の「自衛隊は違憲」「解消」の主張は、本来の9条に込められた理念に最も合致したものであることは、大方の認めるところだろう。しかし、その主張は、「民意」という壁と衝突してしまっている。

 平成26年(2014年)度の内閣府調査によると、自衛隊に「良い印象を持っている」が92.2%、「悪い印象を持っている」が4.2%だった。非常に高い浸透度といえる。その自衛隊の「解消」に国民多数の理解が得られるだろうか。

 志位共産党委員長は、昨年10月衆院選時のニコニコ動画「ネット党首討論」で「日本共産党としては、自衛隊は違憲という立場です」としたが、「日本共産党が参加する政府ができた場合に、その政府としての憲法解釈はただちに違憲とすることはできません。しばらくの間、合憲という解釈が続くことになります。これは、国民多数の合意が成熟して9条の完全実施に向かおうとなったところで、初めて政府としては憲法解釈を変えて違憲にすると。それまでは合憲ということになります」と言葉を継がざるをえなかった。

 仮に共産党が他党との連合で政権についた場合(可能性としては衆院選のたびにありうることなのである)、基本的な問題について党と政府の見解が異なるというのはやはりおかしい、と多くの国民から見られるのではないだろうか。それはそうした連合政府自体の誕生を遠のかせることにもつながっていく。

 共産、社民党が早急におこなわなければならないのは、自衛隊違憲論そのものを再検討するか、集団的自衛権を前提にした自衛隊と日米安保同盟が日本と近隣諸国の平和にとってどのように危険であるかを徹底的に明らかにすることによって違憲論の正当性を示すことである。情緒的に「戦争反対」「9条を守れ」では通用しない。

解釈改憲に寄りかかった「専守防衛」「自衛隊の容認」

 立憲民主、国民民主、自由の各党は「専守防衛」の範囲内での自衛権とそれを実行する自衛隊を認め、「現実的な安全保障の追求をする」としている。ところがその「現実的な」安全保障策が示されていない。

 その前に、「専守防衛」の自衛隊も憲法に明示されているわけではなく、「憲法解釈」あるいは本来の憲法意図とは異なる「解釈改憲」でしかない、という問題をどうするのだろうか。その点では集団的自衛権と同工異曲であり、明確な歯止めがない。解釈によって維持される「専守防衛」は、解釈によって放擲されるのである。

 立憲民主党は、「基本的な考え方」の冒頭に、「日本国憲法を一切改定しないという立場はとらない。立憲主義に基づき権力を制約し、国民の権利の拡大に寄与するとの観点から、憲法に限らず、関連法も含め国民にとって真に必要な改定があるならば、積極的に議論、検討をする」としている。「立憲主義」とは、国民民主、自由党もほぼその立場だろう。

 しかし具体的な9条検討はこれまでのところ、綱領などを抽象的になぞっているだけのものが多い。

「山尾私案」と立憲党内の議論

 例外と思われるのは、立憲民主党の憲法調査会事務局長の山尾志桜里の見解である。しばしば、「9条をより立憲主義的なものにする必要がある」と発言し、そのための9条改憲を主張している。

 山尾は、立憲主義とは「国民の意思で(政権に)最低限守らせるべきルールを憲法に明記する考え方のことだ」とし、『立憲的改憲―憲法をリベラルに考える7つの対論』(ちくま新書8月10日発行)で、個別的自衛権の範囲内での「戦力」や「交戦権」を認めた「私案」を示している。

 私案の具体的内容については次回で詳しく触れるが、それとは別に大きな問題があると思われるのは、「立憲民主党は『安保法制は立憲主義違反であり、したがって立憲主義違反を上塗りするような改憲論議には乗れない』と言っている。論としては成り立ち得るが、安倍政権の議論に乗る必要はなくても、党内議論や国民との草の根の議論の活性化は待ったなしだと思います」(同書P 277)としていることだ。

 それが憲法審査会での安保法制の違憲性、したがってその撤回や棚上げについて主張することへの疑問表明であるとすれば、看過できないのではないか。集団的自衛権の違憲性の議論をするのに、それを「合憲」とした安保法制を認めてしまっていては、“勝負”は初めから見えている。あらゆる場で安保法制の違憲性と危険性を強く主張することこそ、党内議論や国民との草の根の議論の活性化につながっていく。

 上記「改憲案」は私案とはいえ、立憲民主党の主張に大きな影響を及ぼす人物から出された貴重なたたき台である。山尾は党外の識者や市民たちと積極的な意見交換を行っているが、党内でもっと議論があってしかるべきではないか。新聞・テレビ・ネットなどでの報道を見る限り、党内の反応は非常に鈍い。同党は早急に議論を深め、考えを固めて他党に示すのが衆院野党第一党として責務だと思われる。

「憲法に手をつけてはいけない」という思い込み

 以上見てきたように、「護憲派」とされる陣営は目下のところ、圧倒的議席数を背景にした自民党改憲案を跳ね返すために不可欠な自らの9条論を欠いている。

 それは、筆者自身の反省を込めていえば、長い間の「改憲派に手をつけさせない」という思いが、「自身も手を触れてはいけない」という思い込みにつながってしまったことによるところが大きいのではないだろうか。

 たとえば9条1項の「国際紛争を解決する手段としては」や2項の「前項の目的を達するため」という限定的であったり、表現があいまいだったりする点について、問題が指摘されながら、その削除や改定が護憲派からの運動としてなかった。憲法は「守るべきもの」であって「変えるべきもの」ではなかったのである。

 今回も「9条の再検討を言うことは、安倍改憲を利するだけ。避けるべきである」という声が聞かれる。そうした姿勢こそが、むしろ9条にとって危険ではないか。

 守勢に回ったときの発言や主張は力を失う。護憲派各党は自民党改憲案に対しては、むしろ積極的に挑戦する姿勢が必要だ。具体的には、より確実に平和と安全を実現する、したがって圧倒的多数の国民の支持を得ることのできる憲法の像を明確に持ち、それを対峙させることだ。それぞれの主張とその根拠、論理を固め自民党案への的確な追及の矢を放つことによって初めて、その案の危険性を鮮明に浮かび上がらせ、より確実に国民の「ノー」に結びつけられるだろう。

 付言すれば、その矢はあくまでも自民党案に向けられるべきであって、これまでしばしばあったような本来友軍であるはずの方に飛ぶようなことがあってはならない。互いの策を競い合うのは、自民党案を退け、熟議の環境が整った中で「ではどのような安全保障策、憲法を持つべきなのか」を追求する段階に入ってからでいい。

【リンク集・資料集】

各政党のウエブ
自由民主党=https://www.jimin.jp/
立憲民主党=https://cdp-japan.jp/
国民民主党=https://www.dpfp.or.jp/
公明党=https://www.komei.or.jp/
日本共産党=https://www.jcp.or.jp/
日本維新の会=https://o-ishin.jp/
自由党=http://www.seikatsu1.jp/
社会民主党=http://www5.sdp.or.jp/
希望の党=https://kibounotou.jp/

自民党の「改憲4項目」たたき台素案=自民党サイトには文面は掲載されていないが、3月25日の「産経ニュース」https://www.sankei.com/politics/news/180325/plt1803250054-n1.htmlなどメディアのサイトに掲載されている。なお各メディアでは、自民党の成案として報道されているが、自民党サイトの大会報告では「たたき台素案」とされている。
内閣府の自衛隊・防衛問題に対する世論調査
メディア各社の世論調査=本稿第1回「世論調査の怪」の追記参照