まかり通る理不尽
テレビ朝日が開局60周年夏の傑作選と銘打って、平成19(2007)年に制作したドラマ『点と線』の特別編集版(8月4日放映)を見た。松本清張の社会派推理小説の傑作で、制作当時も大いに感心したが、今回はまた別の意味で大いに考えさせられた。わずか十数年前にはテレビ局もこのような重厚な傑作を生みだしていたということである。原作、脚本、演出、鳥飼刑事を演じたビートたけしをはじめとする豪華出演陣、すべてにおいて今昔の感がある。その底には、巨悪を憎む市井の人々の素直な怒りがたぎっているように思われた。
政官界の汚職を隠蔽するため、事情を知っている下級役人が心中と見せかけて殺される。警察の執拗な捜査で事が明るみに出そうになった時、殺人の実行犯は自殺するが、その間に隠蔽失敗の責任を問われて、某官庁局長が青酸カリで自殺することを迫られるシーンがあった。それを見ながら、森友疑惑で決裁文書を改竄したとされる財務省の佐川宣寿局長(その後国税庁長官)も怖い目にあったのではないかと想像していたら、今朝(8月10日)の新聞に大阪地検特捜部が佐川元国税庁長官らを再度不起訴にしたとの報道があった。これで佐川氏は司法的な責任追及を免れたわけである。
「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」の中止に関連しては、企画展の芸術監督をつとめたジャーナリストの津田大介が参加するという理由だけで、神戸市の外郭団体が企画していたシンポジウムが、やはり抗議を受けて中止に追い込まれている(9日)。
理不尽なことへの怒りの声が市井からも衰退していくように思われる令和である。