東山「禅密気功な日々」(9)

中村天風と心身統一法

 先日、中村天風財団・鎌倉の会が鎌倉商工会議所ホールでやっていた講演会に参加させていただいた。禅蜜気功鎌倉教室の仲間数人もいっしょだった。わりと若い講師が2時間半、10分ぐらいの休憩を入れたとはいえ、ずっと話しっぱなしで、しかも聴衆を飽きさせなかった。たいしたものだと感心した。話は、言わずと知れた中村天風の人生哲学の骨子、心身統一法(心が身体を動かす)である。

 中村天風という人について少し説明すると、すでに1968年、92歳で亡くなっているが、日露戦争当時、優秀な諜報部員として活躍、のちに肺結核を病んだのを機に渡米、世界放浪というか漫遊の旅のあと、インドのヨガ行者のもとでヨガを習得、心の持ちようがそのまま体に影響することを悟ったという。病は全快していた。帰国後、大道説法を始めたが、多くの政治家、軍人、財界人、文化人が師事するようになり、財団法人天風会を設立、その活動はいまに続いている。

 私が中村天風に興味を持ったのは、合気道師範でこれも故人の藤平光一の著書をいくつか読んでからである。彼は合気道を通して中村天風に弟子入り、後に「氣の研究会」を組織し、心身統一道、気の原理の普及につとめた。その氣(彼はこの字を使っている)の理論については後に紹介する機会があるあるかもしれないが、今はとりあえず天風会の講演である。

 講師は「観念要素の更改」という表現で、潜在意識に潜む消極的要素をいかにして積極的なものに変えていくかという実践法を話した。これはこれで納得のいく話だが、頭で理解するのと実際に活用するのはまるで別である(そう言うと、「信念がたりない」とお叱りを受けるのは必定だけれど……)。

 ただ、気功における瞑想は潜在意識の解放法だと言ってもいいのではないだろうか。以前、会報の原稿を書いたとき、『ホモ・デウス』、『サピエンス全史』という世界的ベストセラーを書いたイスラエルの歴史家、ユヴァル・ノア・ ハラリはヴィバッサーナ瞑想の修行を十数年続けており、1日2時間の瞑想をしていたことにふれた。『ホモ・デウス』を故サティア・ナラヤン・ゴエンカ師に捧げており、謝辞で「(ヴィパッサナー瞑想の)技法はこれまでずっと、私が現実をあるがままに見て取り、心とこの世界を前よりよく知るのに役立ってきた。過去15年にわたってヴィパッサナー瞑想を実践することから得られた集中力と心の平安と洞察なしには、本書は書けなかっただろう」と書いている。瞑想なくして、動物→サピエンス→ホモ・デウスという世界の度肝を抜いたような歴史観には到達できなかったと思われる。

 ところで、鎌倉天風会はときどき鎌倉駅近くの妙本寺で日曜行修会をやっている。天気がよければ境内、雨が降れば堂内でやるのだという。禅密気功としても、本部教室、鎌倉教室とはやや離れて、一般の人にも広く開かれたサークル活動のようなものができるといいと思っているのだが、問題は場所探しである。天気がよければ外、雨が降れば室内、練功のあとは講師の話も聞けるような場が持てると理想的なのだが……。