東山「禅密気功な日々」(12)朱剛先生に聞く ①

 禅密気功のすばらしさ、ありがたさをより多くの方々、とくに、これまで気功に接したことがない方々に知ってもらうために、禅密気功研究所代表の朱剛先生に初歩的なことをお聞きするシリーズを始めることにしました。

 最初は、そもそも気とは何なのか、体内外の気を交流させるとはどういうことかなど、ごく一般的な話をお聞きし、回を重ねるにつれて、気功の具体的功法、動功と静功の違い、瞑想の極意といった具体的話題に入り、さらには武術と気功、朱剛先生の生い立ちとこれまでの活動、これからの目標などをお聞きするつもりです。

 日本滞在すでに30年、これまでの先生の研究と実践の成果を思う存分語っていただきたいと思います。テーマごとに何回か集中連載し、その後少し間をおいてまた再開することになるでしょう。その間も通常のコラムは続けます。

 気功の概略や朱剛先生の経歴、禅密気功研究所周辺の環境、さらに私が気功とどうかかわってきたかなどについては、本コラム「禅密気功な日々」冒頭3回の<会報から:「健康を守り、老化を遅らせ、若返りもめざす」>をご覧ください。

 折しも世界中でコロナウイルスが猛威をふるっています。スポーツジムは軒並み閉鎖、外出もままならない、こういうときに何の設備も、道具もいらず、ただ自宅や戸外で、あるいは異国にあっても、体を動かすだけで健康を維持できる気功のありがたさが再認識されるといいと思っています(2020.3.26記)。

古人の知恵・気・現代科学

神田川の桜は今年も満開(3月29日、江戸川橋公園近くで 撮影・朱剛)

 日本語には「気」に関する言葉が多いです。元気、病気、弱気、短気、強気、勇気、意気、空気、天気、正気、邪気、無邪気、毒気、茶目気、平気、雰囲気、人気、大気、男気、女気、電気、気配、気合、気品、気転、気持ち、気分、気候、気質、気息、気体、気脈、気にする、気になる、気が滅入る、気にしない、気の抜けたビール、気が合う、気が重い、気が気でない、気に障る、気の毒、気を吐く、などなど。中国でも同じような感じですか。

――中国でも同様に気のつく言葉は多いです。元気、病気、邪気、毒気、気力、気場、心気、陰気、陽気、など、同じように書きます。それは昔から気が大事なものだと考えていたからだと思います。しかし、日本の方がよりこまやかですね。最近では「人気」というような日本語が、便利な言葉として、中国に逆輸入されて使われています。

 言葉の点でも、気は私たちのまわりに満ち満ちているわけですが、気は森羅万象、たとえば人間、人間以外の動物や植物、海や山にも流れていると考えていいですか。

――そうです。

 昨年(2019年)お亡くなりになった女優の樹木希林さんが主演した映画「あん」の後半に、朝方、主人公が倚りかかった大木の幹から湯気が立ち上るという感動的なシーンがありました。これは撮影当日、希林さんが湯気の出ている幹を見つけて、ここで自分を撮るように監督に助言したのだそうです。
 この湯気は樹皮にしみ込んだ雨水が太陽の熱で温められ、蒸発していたのだと思いますが、死をまじかにした希林さんが見つけたという経緯も含めて、これも気の一種かしらんと思わされました。

――気は昔の人びとの宇宙感でした。万事万物は気で組み合わさってできていて、それを分解すると気になる。気というものは眼に見えないし、耳にも聞こえないし、触れても感じない。しかし存在していると考えていました。

 身体も気で構成されており、身体を細かく分解すると気に返る、だから心身の健康は気と密接に繋がっていると考えました。さらに意識と健康、環境と健康、食事と健康などすべては気と繋がっており、気を整えることによって、健康になるだけでなく、良い人生を送れるとも考えていました。
 気については、何千年も研究しているうちに、解明された部分もありますが、まだまだ疑問も残っています。解明されているのは、「気の練習を通して心身ともに元気になる」ということです。それが気功です。
 道教系、仏教系、儒教系、中医(中国医学)系、武術系などを通して気の練習法が伝わり、気功は健康に良いという認識は受け入れられ、とくに80年代から急激に盛んになって、練習を通して元気になった人たちがたくさん出ました。私たち日本禅密気功研究所も多くの効果を見ることができました。

 気功の効果は認められてきたと。

――そうです。しかし、気についての疑問や謎はまだたくさん残っています。例えば、体内で気がどのように動いているかということについては、流派によって説明が異なっています。道教系には任脈と督脈という考え方があります。気が任脈と督脈の中でまわっていれば、元気になる。まわらないと病気になるか死ぬ。密教系は体の真ん中に気の流れる道として中脈があり、中脈に気が流れると元気になり、流れないと病気になるか死ぬと考えます。東洋医学では体内に大事な12本の経絡が通っていて、この経絡が開くと気がスムーズに流れて元気になり、閉じると病気になるか死ぬと言われます。
 たしかに各流派の考え方に従って練習すれば元気になりますが、各流派同士は互いを認め合っていませんし、自分たちの流派だけが正しいと考えています。

 いろんな考え方があるわけですね。

――昔は情報があまり入手できなかったので、それぞれの功法を守っていればよかったのですが、今は情報公開が進み、各流派を並べて比較できるようになりました。そうすると矛盾点が明らかになって、各流派の限界や不足しているところも分かってきました。

・気とはエネルギーである

 なるほど。そもそも気とは何でしょうか。

――現代の言葉で言うと、気とはエネルギーです。人間が生きていられるのはエネルギーがあるからです。いまは病気になったら様々な検査をして、医学的、科学的に原因を探ろうとしますが、昔はそのようなことができなかったので、全体的な体の状態を見て判断していました。
 元気があるか足りないか、艶があるかないか、病気が強くてもまだ元気がある、病気の反応が少なくても元気がなくなるなどなど、総合的に症状をみて判断し、整えてきました。この総合的な現象をまとめたものが気です。いわばエネルギーということです。

 西洋医学では気の存在が確認できていないわけですね。

――たしかにそうとも言えますが、実は気というエネルギーの測定は行ってきました。例えば、練功前後の体温の違い、微電流や脳波の違い、低周波の違いなど、多くの測定はなされています。変化も発見されました。
 ある科学者たちは体温の変化を通して気を認識していますし、別の科学者たちは微電流の変化を通して気を認識しています。また脳波の変化を通して気を認識している人たちもいます、などなど。これらの認識に従って電気療法、温熱療法、低周波療法、音声療法、赤外線療法、脳をリラックスさせる療法などが開発されましたが、それは気の一部分のみを認識しているだけです。これでは十分ではありません。
 たとえば1人の人の練習前後の体温、微電流、磁気などを同時に何回も測定し、1人でなく大勢の人のデータを揃えて分析すれば、気というエネルギーの性質の大部分を把握できるでしょう。それでもすべてと言えないのは、身体の研究はすればするほど未知の部分が出てくるからです。宇宙の中でも暗黒物質(dark matter、ダークマター)とか暗黒エネルギー(dark energy)という仮説の物質やエネルギーの占める割合の方がはるかに大きいと言われています(一説によれば、地球上で分かっている物質は全体の4%にしかすぎません)。

 そう言われると、気が西洋科学でとらえられていないとしても、恐るるに足らず(?)という気分になりますね。

――気については、未知のことがたくさんありますが、科学的に測定し、さまざまなデータを集めれば、総合的に気を把握することもできるようになると私は考えています。集めたデータを利用して健康状態を管理することは、気を整えて健康になる方法といえるでしょう。そのやり方は細かく見ると科学が介入していますから、伝統の気を整える方法とは異なりますが、全体のエネルギーを見て整えることは昔と同じでしょう。この管理方法が実現すれば、とても意味のあることと思います。

 古人が経験を通して開発した健康法が、いずれは科学的にも追認されることになるだろうと。

――1980年代に中国から気功が流行り日本でも1990年代にはブームとなりましたが、それ以降、徐々に人気がなくなりました。その原因の一つは中国本土で法輪功事件が発生して(法輪功は気功の一派。急速に拡大したなどのために共産党指導部により弾圧された)、急激に人々が気功を練習しなくなったことがあげられます。日本でもその影響は避けられませんでした。その大きな原因は、気というものがまだ科学的に解明されていないということだったわけです。