東山「禅密気功な日々」(18)先生に聞く・動功編①

基本としての築基功<背骨で体内の気を動かす>

(写真は2009上海・蘇州合宿の一コマ、以下同じ)

 最初に動功の基本としての築基功についてお聞きします。

――築基功は禅密気功の基礎を築くための功法です。背骨(頸椎・胸椎・腰椎)を、自在に動かし、生命活動の根源である気を全身にめぐらせます。

 背骨を前後、左右に、さらには回転させ(ひねり)ながら、全身の気をかき混ぜるように動かすわけですね。蛹動(ようどう)、擺動(ばいどう)、捻動(にゅうどう)、蠕動(じゅうどう)という4つの基本動作から説明してください。

――蛹動は背骨を前後にS字状に揺らします。尾骶骨から始め、しだいに上に向けて動かします。力を入れてはいけません。軽く、柔らかく、ゆっくりと、まろやかに。脊柱を波打たせるように前後に動かします。意識を脊髄に集中し、一関節、一関節、気を関節ごとに絡め、回転させながら、仙椎、腰椎、胸椎の順に上にのぼり、頸椎の頂上まで上り詰めたら、こんどは下へ向けて一関節、一関節ずつ、ていねいに尾骨まで降ろしていきます(右図=ウィキペディアから)。

 S字状に動かすというのがむつかしいですね。ふだんあまり運動していない年長者の体はがちがちになっています。昔は腰がすっかり曲がってしまった年配のお百姓さんがいましたが、彼、あるいは彼女にとっては、曲がっている状態が自然というか、一番安定しているわけですね。しかし、それはたとえば田植えや草刈りに精出したといった生活からくる、やはりいびつな状態です。
 毎夜、接待の飲み会で疲れて、電車で眠って帰るサラリーマンは首のあたりにこぶのようなしこりが出来ていると聞いたことがありますが、これも同じですね。背筋を通して、しゃんとした姿勢に戻すのが健康の基本で、そのためには蛹動はすばらしい効果を上げてくれますね。

――背骨を動かすのが禅密気功のすぐれたところです。他の功法ではあまりそういうことは言いません。

 まっすぐ立って、背骨をS字状に動かせと言われても、なかなか思うようにいきません。私自身の経験から言っても、背骨がなめらかに動くようになるまでずいぶん時間がかかりました。背骨は関節でつながっている多くの小さな骨の集まりだから、関節がほぐれれば、金属製の鎖と同じで、ぐにゃぐにゃに動くわけだけれど、その関節がさびついている。
 だから最初はぎくしゃくしてもいい。とにかくなめらかに動かすという意識をもつことが大事です。究極的には、「揺らす」のではなく「揺れる」状態になるのがいいと言われますね。

――車の運転と同じです。初心者の場合は、ハンドル操作などぎこちないですが、慣れてくると、とくに運転しているという気持ちがなくても、自由に車を走らせることができます。気持ちと動作が一体化するわけです。運転しているという意識もあまりない。それと同じように、慣れてくると、無意識のうちに体が動きだします。

 導引動作ということを言いますね。たとえば体を前後に動かすときに、両腕を並行して前後に円を描くようにします。手の動きにあわせて体内の気を動かすわけです。だから手の動き自体、角張った感じではなく、円くなめらかにしないといけません。手の動きが円くなければ、背骨はスムーズに動いていないと考えた方がいいですね。体を沈ませたり持ち上げたりという動きとも連動していますね。

――擺動は背骨を左右に、これもS字状に、樹木が風になびくように揺らします。尾骨から始め、蛹動と同じように、極力軽やかに、柔らかく、ゆっくりと、まろやかに、脊柱を波打たせるように、左右に揺らします。意識を背骨に集中し、関節の間を縫うように、尾骶骨から頸椎まで、上に上ります。頸椎の頂上まで行ったら、こんどは下へ向かって、同じように関節ごとに、意念を縫うように降ろしていきます。

 擺動はわりとやさしいと思いますが、それでもまろやかに動かすのはむつかしい。体の左側を外に出して伸ばすときは、手は右側に開いて体全体のバランスをとる。逆の場合も同じです。とくに腰や肩を十分、伸ばしたり縮めたりするといいですね。蛹動でも同じですが、体を「く」の字型にする気持ちでやるといいと思いますが、これも角張ったくの字にならないことが大事です。

――捻動は背骨を左右にねじる動きです。まず身体を左から右にねじります。回す幅は、最初は小さく、次は中くらい、3回目に大きく回します。顔は正面を向いたまま、手と腰を同時に回します。次に右から左への回転を同じように行ないます。意念は背骨をねじるのに合わせて、背骨に絡ませるように回します。尾骶骨から始めて上にいき、頸椎の頂上まできたら、同じように下に降ろしていきます。背骨をねじる方向を右から左、左から右に変えるときには、意念をS字状に回して、気の回転する方向を変えます。

 捻動するとき、大事なのは体の外側から動かすのではなく、内側から動かす。すなわち背骨で体をひねることですね。背骨の動きにあわせて手(腕)も動きますが、手の後から背骨がついていくのではなく、背骨が先にねじれて、手がその動きについていく感じで練習するといいと思います。究極的に動いているのは背骨だということですね。

 ・蠕動は蛹動、擺動、捻動の組み合わせ

――蠕動は蛹動、擺動、捻動の3つの動きを組み合わせて、ゆっくりと自由自在に、滑らかに連続して動かします。蛹動の中に擺動があり、捻動があり、擺動の中に捻動があり、蛹動があります。また、捻動の中に蛹動があり、擺動があります。次第に全身のすべての関節、筋、筋肉も動かし、背骨で内臓も動かします。

 しばらく練習していると、蛹動、擺動、捻動という3つの動きの中でも、自分としては蛹動が一番やりやすい、いや捻動が好きだといろいろ好みが出てきますね。その違いを楽しみながら練習するのがいいと思います。
 私は蠕動が一番好きかもしれません。首、肩、胸、背、腰、腹、腕、股間、脚をそれぞれ意念とともに動かします。最初のころはどうだったのか、今ではもう覚えていませんが、途中から全身の骨や関節がボリボリ、ギシギシ音を立てるのに気づきました。首なんかすごかったですね。まるで下北半島の仏が浦か紀伊半島の橋杭岩のように大きな岩がごろごろ転がっている感じがしました(^o^)。しだいに小さくなり、岩から小石のようになっていきます。これだけの滓が体にたまっていたのだと思いますね。最初のころは音に気づかなかったのか、あるいは体全体が滓にまみれて、膠かビーフジャーキーのように固まって、音すらでなかったのか‣‣‣。
 先生のように若いころから武術に励んだり、スポーツに親しんだりしてきた人はそんなことはないのかもしれませんが、たいして運動もせず、いつの間にか歳をとってしまった人は、体がすっかりさびついているんだと思います。私は体内の気がスムーズに流れなくなって骨、関節、筋肉、内臓にたまってしまったのではないかと思い、これを「滓」と名づけています。
 体内の気をスムーズに流すだけでなく、こびりついた滓をほぐし(解凍し)、発生した気をうまく対外に放散してやれば、ある程度の若返りがはかれると考えているんですね。したがってこのインタビューでは、がたがたになった体を少しはまともなものにしたいと思っている年配の方を主な読者に想定しています。「善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや」の親鸞上人ではないけれど、だれにでも心がけ次第で救いはある、というのが僕の経験から得た知恵です。この辺は、コラム冒頭に掲載している「健康を守り、老化を遅らせ、若返りもめざす」でもふれました。

――すばらしい。とくに骨、関節、筋肉、内臓のすべてに言及しているところがいいですね。私も子どものころ腕に大きなけがをしたので、その部分がいびつに変化しているのでしょう、ギシギシすることはありますよ(^o^)。

 気功は何の準備もいりませんし、場所もほとんどとりません。毎日、ゆっくりと背骨を動かすだけで体が健康になるのですから、ぜひ皆さん、やっていただきたいと思います。最初は鎌倉教室や本部教室に通うのがいいと思いますが、練習用のCDやDVDもあります。
 百聞は一見に如かず。本コラム第15回でも紹介した先生の実践動画をここにも張り付けておきますから、コロナ禍で外出しずらいような場合は、まず動画を見ながら、見よう見まねでやってみてください。

 この動画は各功法とも前半だけですが、概略を知るには十分でしょう。先生の無駄のないなめらかな体の動きをよく見てください。無駄がないと同時に、動いていない部分がない、だからたいへん美しくもあります。