東山「禅密気功な日々」(19) 動功編②

基本姿勢と収功<なにはともあれリラックス>

 築基功のCDを聞いたりDVDを見たりしていただければわかりますが、最初に築基功を行うための準備態勢の説明があり、最後は「収功」にふれています。このことについてお聞きします。

――立ち方の基本は、身体全体の緊張をとり、心身ともに力が抜けて、もっともリラックスする位置を探すことです。頭のてっぺんである天頂を気の糸で吊るされているような感覚、かかとのあたりから密処(陰部と肛門の間)、天頂を通して気の柱が自分の中にあるといった感覚をつかみましょう。

 坐禅でも髪の毛で全身が吊るされている感じということを言いますね。天頂から密処にかけて気の筋が通るようにすると。

――立ち方のポイントは次のとおりです。

 ①両足を肩幅に開き、爪先を心持ち外に向けて立ち、指先は軽く開きます。体重の7割をかかとに落とし、3割を足裏の前の部分にかけます。これを三七分力といいます。
   ②両膝を曲げないようにし、硬直しないように緩めて、膝関節が自由に微動できる状態を保ちます。骨盤の関節を緩め、腰椎の生理的な前屈をなくすために、臀部を少し引っ込めます。また、両股の関節の前側を伸ばすように、少し前のほうへ出します。
   ③肩を下げ(緩め)、脇の下を少し開いて、両肘を心もち外側へ引っ張るようにします。両腕は下に垂らして、指は自然に開きます。頸椎は真っ直ぐにして、頭部は少し持ち上げ、天頂が天丼から細いヒモで吊るされているような感じにします。

 三点一線というのはどういうものですか。

――両踵を結んだ線の真ん中、密処、天頂の3点が、垂直に一直線になるように立つことです。3点を結んで気の柱があるようにイメージするのがコツです。
 密処は陰部と肛門の間、すなわち会陰のあたりのことですが、小さな点や表面の一部ではなく、下腹部全体と連なった「立体」としてイメージします。密処は気を運行させる重要な通路で、要となる場所です。リラックスさせると同時に、意識を密処に強く集中します。密処が緩めば、両腿の内側に温かい感じがして、陰部に痺れ、微かな性感を感じます。
 慧中は両眉の真ん中、少し上のところにあります。「第三の目」とも言われるところで、エネルギーの出入り口です。慧中を開くには、快い気持ちを持って意識を慧中に集中し、そこに窓を開いて光を見るようにイメージします。

 密処を緩めるのと慧中を開くのは、ともに最初はチンプンカンプンだと思いますね。ふだん私たちは密処とか慧中を意識しないし、そもそも病気の時以外は、体のことを考えることもありません。そして喉元過ぎれば熱さを忘れる、健康になれば、また忘れてしまうわけです。
 緩密処(密処を緩めること)と展彗中(慧中を開くこと)は瞑想に結びつく大事なポイントですので、後でもお聞きしますが、一般的に言って、自分の体の内部をのぞくのは大変興味深い。精神世界の広大さを感じますね。「魂の井戸に石を投げてその深さを測る」という表現を見た記憶があります。気宇壮大と言えば、こんなざれ歌もあります。

  天と地を 団子に丸めて 手にのせて ぐっと飲めども 喉にさわらず

 落語家の始祖、曽呂利新左衛門の作とも言われるようですが、真偽は知りません。
 閑話休題。
 これは本コラム冒頭に書いたことですが、専門コーステキストに「注意事項」として、「彗中を広げ、密処を緩めるとき、いずれも〝点着〟(穴を守ること)しないで、〝面顧〟(全体意識)すること。でないと、結果はよくならない」と書いてありました。密処なら股間全体、慧中なら頭全体を緩めるということですか。

・眉間を開いて、笑みをたたえた状態にする

――展彗中では、眉間にシワを寄せるのではなく、平らに広げて穏やかな気持ちで、にこやかに笑みをたたえた状態にします。心の奥底から自然にこみ上げてくる楽しさ、悦び、おおらかさ、温かさ、優しさ、慈しみなどの気持ちが、自ずと笑みとなって現れた状態です。

 要はリラックスということでしょうが、このリラックスがなかなかむつかしい。実際に慧中が開いている人は外から見てもわかりますか。

――ゆったりとほほ笑むような気持になっていれば、当然、外から見てもわかりますね。実際に、にこやかにほほ笑むような気持になることが大事です。

 築基功をするにあたっては、三七分力、三点一線、展彗中、緩密処を整えないといけないということですね。
 続いて収功についてお聞きします。

――築基功の最後は気を収める動作、「収功」です。ポイントは、周りに広がった気を身体に入れて、下腹部の中心(丹田)に収める点です。収功の順序は次のとおりです。
 ①両手を左右に開いて、周りに広がった気を抱えるようにしてゆつくりと上げていきます。このとき背骨は微動させます。
 ②肩のあたりで両手の手のひらを上に向け、そのままゆつくりと上げていって、頭の上で手のひらを合わせます。このとき頭の上で気を集め、まとめるようにイメージします。
 ③合わせた両手を上からゆっくり降ろしていきます。慧中から顔の前を通り、胸のあたりまできたら、合掌している両手の手首の部分を少し開き、指先を付けたまま下に向け、そのままお腹の前まで降ろします。
 ④お腹の部分にある帯脈に沿って両手を左右に開きます。
 ⑤次に気を丹田に収めるために、印(解脱印)を結びます。両手の指を左右交互に組み、男性は左手の人差し指が右手の人差し指の上になるようにし、女性はその逆に置きます。このとき、気は慧中から背骨を通って、丹田にどんどん流れていき、背骨を洗います。
 ⑥気は拡散したボールからだんだん凝縮されたようになり、最後に気の感じがなくなったら、ゆっくりと目を開けます.

 収功は必ず必要ですか。教室で築基功をやったときも、必ずしも毎回、収功するわけでもありませんが‣‣‣。

――収功は、結局、体を整えるということですね。朝、いきなり起きるより、少し体を動かして態勢を整えて起きたほうがいいですね。妙な姿勢で起きると、一日調子が悪かったりします。これと同じで収功は穏やかな、やわらかい気持ちで終わるようにするのがねらいです。

 CDの最後に「脊椎を観想して、気を丹田のところに集めて、漏れないように集めます」と言っています。この「漏れないように集めます」というのはどういうことを言っているのでしょうか。

――意念を丹田に集中すれば気は自然に丹田に集まります。

 気の流れを心眼で追おうとしても、最初はどうしても腹の前あたりで止まってしまい、それより下までいけないということがありました。そのうち自然に下りていくようになりましたが‣‣‣。 
 話がぐっと下世話になって申し訳ないですが、鎌倉教室であるとき先生が蠕動の指導をしながら、「これをやっていれば、腰もくびれて、すっきりした体になりますよ」とおっしゃいましたが、これは私にはずいぶん腑に落ちる話です。体を隅々まで丁寧に動かし、たまった滓をそぎ落とせば、腰が引き締まるのは当然だと思いますね。

――背骨を使って体を動かせば、全身が締まってきます。だから腰も、腹も当然締まるわけですね。背骨の運動の効果は抜群です。