新サイバー閑話(113)<折々メール閑話>54

「終わりの始まり」の予感、あるいは期待

B 第213回通常国会は6月23日に閉会しました。歴史的な評価は後世の史家に委ねるとして、ここ数年、政情を見てきた身には、最低の国会だった気がしますね。閉会間際の19日に岸田政権初の党首討論があり、立憲民主党(泉健太)、日本維新の会(馬場伸幸)、日本共産党(田村智子)、国民民主党(玉木雄一郎)の各党首が、政治資金規正法改正のザル法ぶりなどを批判して、岸田首相に「国会を解散し改めて国民の信を問うべきだ」と迫りましたが、岸田首相はただ突っぱねるだけ。玉木代表の「あなたはいま四面楚歌ですよ」という指摘に対して「私自身は四面楚歌であるとは感じておりません」と答える一幕もありました。総じていえば岸田首相の相変わらずの無責任ぶりと、野党側の迫力不足を感じさせられました。

A 党首討論にれいわの山本太郎が入っていないのが残念でした「だからこそ国会の議席を増やさないといけない」という山本代表の悲願がわかりますね。

 B 政治資金規正法改正はザルだらけで成立しましたが、岸田首相は政権の支持率低下などの世論の風向きを見て、形だけの改正法を成立させればいいと考えているから、企業献金をやめるというふうな抜本改正をやる気はまったくない。実質的に規制するのではなく、規制の外観だけをとりつくろうとする思惑が見え見えで、審議中に自民党議員に対して、抜け穴は十分あるというふうな背景説明などもしていました。
 彼が自民党だけを見て、国民にはまったく目を向けていないのは明らかで、改正法をあえてザル法にしたり、細かい規定は後に考えたりというまやかしの法づくりです。このようないい加減な法案づくり自体、前代未聞の気がします。

 A 規正法改正の細かい条文をめぐり公明、維新と折衝をくりかえし、そのたびにメディアは経緯を詳しく報道しましたが、本質にはあまり関係のない話です。たとえば、政治資金パーティー券購入者の公開基準額を「20万円超」から「5万円超」に引き下げるとか、国会議員に月額100万円が支給される「調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)」をめぐる改革とか。後者では、首相が今国会での改革を維新代表と合意したのに、結局は見送ったことで、維新の会は「嘘つき岸田」と批判して、衆院で賛成した法案に参院では反対にまわったりしています。

B 今回の国会は「荒れた」わけではなく、荒れるほどのエネルギーが野党になかったということだと思います。
 今国会で成立した地方自治法改正、子ども・子育て支援法改正など、みんな問題含みだったと言えますね。自民流(岸田流)の政治手法は、①法制定は極力細部をあいまいにして、事後に裁量でどうにでも解釈できる余地を残しておく、②国会では十分な議論を尽くさない(民意の代表としての国会を軽視する)、③不都合な抵抗は無視して、問題を何度も蒸し返し、その間に大金を投じた世論工作をし、自らの意向をごり押しする、といったものだと思うけれど、その当然の結果として国民の順法精神も形骸化、末端ではルール無視が日常化しているのではないでしょうか。
 5月30日までの折々メール閑話をまとめて、『山本太郎が日本を救う・第3集 混迷の先に激変の兆し』を刊行し、その表紙に山本太郎の「野党を強くしていくためには、国会で徹底的に戦う姿勢と国の経済を立て直すための太い経済政策が必要です。そのためには、私たちがまず強くなる必要がある」という発言を掲げましたが、まったくその通りだと思います。

A まっとうな議論が行われない国会にしたのは、やはり国民にも責任がある。

B タイトルの「混迷の先に激変の兆し」というところに、我々としては一抹の希望を見たいと思っているわけです。それを感じさせてくれる一つが、20日に告示された東京都知事選挙における石丸伸二・元安芸高田市長の善戦ぶりです。前回の折々メール閑話で石丸伸二が台風の目になるとの観測を述べましたが、告示後1週間までの街頭演説に多くの聴衆が集まっているのを見ると、ひょっとすると、という思いが強くなりますね。

A 石丸陣営にはいつのまにか大きな支援グループが出来ているようですね。大物財界人が支援しているとか、「選挙の神様」と言われる選挙のプロが事務局長に就任したりしています。
 何と言っても彼には安芸高田市長としての実績というか、市議会の旧態依然たる保守政治家と対決してきた経緯があります。この動画がユーチューブで全国配信され、人気動画になったために、これまで政治にそっぽを向けてきた若者層の関心も呼び起こしました。

B 彼については当コラム「岸田首相と石丸安芸高田市長の器の差」(㊷、第3集に収録)でも取り上げていますが、既成政治家とはだいぶ違うスタンスをとっています。彼の言動を見ていると、自民党、公明党、さらには労働組合の連合など保守的組織の支持を見込んでいる小池百合子陣営、立憲民主党や共産党など革新的な組織票を見込む蓮舫陣営に比べ、石丸陣営には、とりあえず組織の支援というものがない。
 保守にしろ、革新にしろ、高齢者にしろ、若者にしろ、いずれも既存の組織と関係のない、要は組織票と無縁なところに新味と強みを感じます。硬直化した既存の選挙戦とは違います。

A 「東京を動かそう」、「政治屋一掃、恥を知れ!」という彼のフレーズはいい。実践エコノミストである点、政策への期待もあります。ただ山本太郎と比べると、弱者目線が弱い。何と言っても彼はエリートですからね。
 今回の都知事選には有名なIT専門家も立候補しており、少し選挙風景が変わってきたかも。しかし、打倒小池百合子という観点から見ると、蓮舫、石丸が競いあって、共倒れする心配もあります。われわれには選挙権はないけれど、都民が今後の情勢をよく見極め、賢い選択をしてほしいです。

B れいわ新選組は都知事選では候補を立てず、「静観」という態度をとっていますが、石丸陣営が体現するものとれいわ新選組が求めてきたものとは似ている点がある(もちろん違う点もある)。
 石丸陣営の強みは硬直した既存政治の否定ですが、保守層からもかなりの支持を得ているようです。この「新しいうねり」は、山本太郎がこれまでの活動を通じて掘り起こしてきたものと重複するところも大きい。
 今回の都知事選は既存の政治に不満を抱いている人びとが、あらためて政治に関心を持つきっかけになりそうな気がします。石丸氏が当選できるかどうかはもちろんわかりませんが、落選したとしても、多くの人に「新しい政治」の可能性を感じさせた点で大きな意義があったと言えるでしょう。
 それは、れいわの次期衆院選での躍進を予感させるものでもあります。既存政治の退廃から抜け出す「終わりの始まり」の予感、あるいは期待というものを感じさせますね。

 例によって、㏚です。
 『山本太郎が日本を救う第3集 混沌の先に激変の兆し』(サイバーリテラシー研究所刊、アマゾンで販売)は前回同様、定価1300円(+消費税)で、目次は以下の通りです。2023年8月14日から2024年5月31日までの「折々メール閑話」を採録しています。補遺に本文㊸でふれた反骨のジャーナリスト、田中哲也の紹介文とかつて読売新聞文化欄に寄稿した論考を採録しました。

PARTⅠ <折々メール閑話>
花火を「商品化」し地元民を締め出す倒錯㊲
原発汚染水放出と鎌倉市庁舎移転㊳
ジャニーズ事件と「自浄能力」喪失日本㊴
今日も孤軍奮闘するれいわ新選組㊵
統一教会・ジャニーズ・大阪万博㊶
岸田首相と石丸安芸高田市長の器の差㊷
寒暖差激しい秋の夜長のだらだら閑話㊸
岸田政権崩壊で加速する政局の「液状化」㊹
いよいよ沈みゆく泥沼の日本政治㊺
ついに「れいわの出番」がやって来る㊻
いま力強く羽ばたくれいわの「白鳥」㊼
号外・山本太郎が次期総理候補第2位に
多難な年明け れいわの真価が試される㊽
#大石あき子、橋下徹に完勝したってよ㊾
菜の花咲く春なのにまともな政治はまだ来ない㊿
もはや自民党政権にはつける薬もない 51
小池都知事の「嘘で固めた」人生の黄昏? 52
混沌の先に激変の兆し。焦点は都知事選 53
PART Ⅱ補遺
<1>これが新聞記者だ 反骨のジャーナリスト 田中哲也
<2>IT技術は日本人にとって「パンドラの箱」?