小池都知事3選と健闘した石丸候補の危うさ
B 7月7日投開票の東京都知事選は現職の小池百合子氏3選で終わりましたが、考えさせられることの多い選挙でした。石丸伸二候補は無党派層、無組織層の票を吸収し、蓮舫候補を上回る2位となりました。とくに若年層の支持を集め、それも関係してか投票率が60.6%、前回の55%に比べると5ポイントも増加しました。
本コラム53回のタイトルは「混沌の先に激変の兆し」で、これを『山本太郎が日本を救う』第3集のタイトルにもしています。外野席からひそかに期待した「小池知事3選阻止」はかなわなかったとは言え、まさに「激変」したと言っていいでしょう。
小池知事は裏金自民の支援を表に出さない戦略で、現職の強みを生かしつつ、実際は自民党、公明党、さらには組合の連合などの組織票を固めて292万票を得ました。これに対して小池都政リセットを掲げた前立憲民主党参院議員、蓮舫候補は立憲民主党と共産党のやはり組織層を基盤にして闘い、無党派層の支持を獲得するのには失敗しました。
ここだけを見ると、既存の選挙パターン、大票田の無党派層を枠外に置いて繰り広げられる組織本位の選挙戦と同じです。そこでは保守が強く革新はじり貧、その外側に存在する無党派層、無組織層、若年層はむしろ選挙に無関心で、したがってどんどん投票率も低くなり、選挙そのものが形骸化すらしていたわけですね。
A 蓮舫応援に立ったのが立憲の野田佳彦、枝野幸男といった古色蒼然たる顔ぶれだし、共産党は組織そのものが高齢化しており、これでは利権政治の自民党に勝てるわけがないですね。
B そこに新風を巻き起こしたのが石丸候補でした。安芸高田市長としての活躍ぶりに興味を持ち、選挙中盤の街頭演説に多くの聴衆が集まるのを見て、一時は打倒小池百合子の期待を抱いたほどでした(写真は新宿での石丸候補と聴衆)。彼はたしかに無党派層、若年層の支持を集め、それが蓮舫を上回る166万票も獲得した理由です。蓮舫候補の128万票をたすと、294万票で、わずかではあるが、小池票を上回っています。小池百合子が勝ったとはいえ、内実を見ると、圧勝とは言えないですね。
しかも、4、5位にほとんど無名だったIT専門家の安野貴博、医師・作家の内海聡の各氏が入っており、この2人の票をあわせると、4位の田母神俊雄候補を上回る27万余票です。安野、内海両氏の得票も既存の保革対決の図式を外れたところに選挙民の関心がある証拠ではないでしょうか。都知事選の詳しい投票分析が待たれますね。
A 既存の組織中心の選挙から離れようとする兆候が見られ、その最大の証拠が石丸善戦でしょう。石丸候補の周辺には橋下徹氏など維新の影がちらついて敬遠気味でしたが、石丸陣営が選挙前に日本維新の会に選挙協力を申し出ていたことも選挙後に明らかになり、さもありなんと思いました。
B ここが注目すべき点ですね。石丸候補の参謀は維新に近い人だとも言われていました。既存組織とは一線を画した新しい勢力として台頭、安芸高田市長時代からのユーチューブファンを中心に若者の支持も集めたけれど、それでも小池打倒とは行かなかった。だから個人的には、彼の役割は終わった感じがしますが、問題はむしろその先にある。今回、石丸候補を支持した若者は、今後どこに向かうのか。
山本太郎は既存の政党には吸収されない無関心層、あるいは若者層に働きかけて新しい政治をやろうとしているわけだけれど、都知事選ではれいわ独自の候補を立てず「静観」の態度をとりました。
今回、石丸候補は多くの若者層の関心をとらえたけれど、これを別の観点から見ると、若者の関心が石丸候補を媒介としてさらに保守の方向に流れる危険を感じます。れいわ支持層をはぎ取って保守へと回帰させる恐れもあるのではないか。したがってこの「激変」はれいわにとって大いに警戒すべきではないかとも思うわけです。
選挙中に流れたいろんな番組のなかで、たとえば「ユーチューブ大学」の中田敦彦氏との対談などを見ていると、古い密室政治と一線を画する考えに感心することもあったのだが、選挙後は新たな「政治屋」の誕生という面が浮き彫りになっているのは、大いに残念というか、幻滅ですね。もっとも、彼が日本のマスメディアのダメさ加減をあぶりだしてくれたのはプラスだったと言えます。
A くだらない質問をするメディアを一刀両断で切り捨てる態度には快哉を叫びたいところもあったけれど(^o^)、若い女性アシスタントの質問を頭から無視してバカにする一方で、橋下徹氏などには下手に出るなど、人間的な誠実さを疑わせました。
B 知人で最初から石丸候補に「維新の臭い」をかぎ、さらばと言って蓮舫では勝てそうにない、いっそ自分が信じるまっとうな人に投票しようと、内海聡候補に投票した人がいます。選挙リテラシーということを考えると、2位の候補に投票し小池打倒をめざすのがいいけれど、もはや小池3選阻止は無理と考え、意中の人に投票したわけで、これはこれで見識とも言えます。そういう人が安野さんに投票した人も含め27万人いたということでしょう。
ところで、その知人が石丸候補独特の話法を皮肉った「マックの注文」というインターネット上の辛口パロディを教えてくれたので紹介しておきます。
石丸氏には安芸高田市長選をめぐるポスター制作費をめぐって印刷会社から代金未払の訴訟を起こされ最高裁で負けたり、安芸高田市議から「恫喝した覚えはない」と訴えられた裁判でも高裁で敗訴するなど、これも橋下徹譲りなのか、訴訟されても平気という体質もあるようで、だんだん化けの皮がはがれてきたようですね。
A 彼には弱者に対する思いやりをいささかも感じない。これも橋下徹と同じ。山本太郎との大きな違いです。ポスター代金不払い訴訟では担当弁護士に「モンスタークレーマー」だと一刀両断されていました。
共産党の友人が「今回の結果は、ジャーナリズムの責任と言うより、大衆の心理を見極めることが出来なかった立憲民主党と共産党の責任だと思います。私も蓮舫に期待していたが甘かった。大衆は強いヒーローを待ち望んでいる。特に10代〜50代。石丸にも橋下が出て来た時と同じ様に感じます」と言っていました。
B 都知事選で同時に行われた9選挙区での都議補選では、自民党は8人を擁立しながら当選は2人で、裏金自民への批判の風当たりは弱まっていないこともわかりました。
石丸候補が今後どう政局に絡んでくるのか、もはやあまり興味もないのだが、むしろ大事なのはれいわの今後です。
山本太郎は投票翌日の9日も栃木でのおしゃべり会に参加し、持論を展開しつつ次期衆院選に向かっての構想を話していたけれど、石丸候補によって掘り起こされた(とにかく投票に行った)無党派層、若年層が、石丸候補や維新の方向に流れないように一層の活動が必要だということになりますね。
われわれも「貧者の一灯」を掲げ直して、次期衆院選でのれいわ国会議席20人以上を目指しましょう。
A 先の友人は「山本太郎と石丸伸二は月とスッポンです(!)」と言ってくれました。石丸氏は広島一区から衆院選出馬の意志もあるみたいですが、無脳キシダの代わりにとんでもないモンスターが誕生する恐れもありますね。
B あまり注目されなかったけれど、2022年7月8日は先の参院選最中に街頭演説中の安倍元首相が統一教会の信者2世の若者に銃撃された日です。奈良市で起こったこの事件については本コラムでもリアルタイムで取り上げましたが、あれから2年がたちました。統一教会問題に関しては、7月11日に最高裁で画期的な判決が出ています。信者が献金に際して「損害賠償請求をいっさいしない」と書いた念書は、「教団の心理的な影響下にあった」もので無効であると、下級審の教団勝訴の判決を破棄しました。こういう教団に対して時の首相がメッセージを送っていたわけで、この銃撃事件の裁判の行方も注目されます。
安倍政権の膿はまだいっぱいたまっているわけで、都知事選で見えた「激変の兆し」を、政治を本道に戻す「兆し」にしてもらいたいものです。