IT社会を豊かに生きるために⑦ 倫理と法

<補遺>

 授業では倫理について、チョコレート・ゴディバのエピソードを紹介していますが、ここではもう一つ、エピソードを紹介しておきます。

 毎日新聞朝刊の連載マンガ、東海林さだおの「アサッテ君」の話です。

 2人の子どもが道でお金を拾って、1人が「もらっちゃおうか」と言うと、他の1人が「監視カメラが見ている」ととがめます。それで交番に届けることになりますが、受け取ったおまわりさんが「むかしはお天道さんが見ていると言ったんだよね」と、いかにも東海林さだおふうに、はにかむように笑う――、というものです。

 子どもたちに「お天道さんが見ている」と教えたのは、実際にお天道さんが見ていて何か罰を加えるということではなく、内面に一つのモラル、「誰も見ていなくても、悪いことをしてはいけない」という倫理を築き上げようという知恵でした。

 これは、「監視カメラが見ていなければ、何をしてもいい」というのとは百八十度違う心の動きです。「監視カメラ」は便利な道具でしかなく、カメラが壊れたらお手上げだし、それをかいくぐっての犯罪も起こります。街全体で、あるいは国全体で犯罪のない社会をつくろうという努力は希薄になり、かえって犯罪の土壌を太らせる。監視カメラ設置を進めた新宿歌舞伎町の犯罪は減ったが、逆に隣接繁華街で同種の犯罪が増えたというデータもありました。「監視カメラ」と「お天道さん」の距離は、とてつもなく大きいと言えるでしょう。