辛いほど頑張る必要はない
人体の筋肉を大きさ順に並べると、だいたい以下のようになる。説によって、一部順位の入れ替わりがあるようだが、だいたいこんなところだと考えていい。
大腿四頭筋
大臀筋
三角筋
ハムストリングス
大胸筋
上腕三頭筋
腓腹筋
広背筋
僧帽筋
上腕二頭筋
上位に大腿四頭筋とハムストリングス(ももの前後)および大殿筋(尻)が並んでいるように、下半身に全身の7割の筋肉がある。上半身で大きいのは左右の肩にある三角筋、ついで大胸筋である。背中の広背筋と首筋にあたる僧帽筋は意外に小さい。上腕の三頭筋(陽面)と二頭筋(陰面)もトップ10に入っている。
鍛えやすく、また大きくなりやすいのは大胸筋、三角筋、上腕二頭筋、大腿四頭筋、大殿筋と言われるが、高齢トレーニングでは筋肉の増強自体を目指す必要はあまりない(二次的にはともかく)。老化は足からとも言われるが、高齢者にとっては、下半身を鍛えることがとくに大事である。気功でも下半身に気血をめぐらせることはできるが、自分の体重を負荷とするウオーキングは格好の運動である。私は毎朝、蠕動のあとステイショナリーバイクに乗っている。
一方で日常作業を円滑に行うために鍛えておかないと具合が悪い筋肉がある。手首と足首はその筆頭である。ちょっと重いもの、ポットなどを持った拍子に手首をひねったり、くじいたりする。また石に躓いたわけでも、段差のある場所でもないのに、足首を捻挫することがある。健康寿命を維持するための手首、足首の筋トレはけっこう大事である。
・トレーニングの敵は風邪とけが
高齢トレーニングは持続することが命である。翌日体の節々が痛くなるまでやるのは、その日は充実感を得られるかもしれないが、痛みが長引いて長続きしない結果にもなる。
持続を妨げるのは風邪とけがである。風邪は寝込むというほどでなくても、あらゆる事柄への意欲をそぐのがいけない。せっかくトレーニングを始めたのに風邪をきっかけでやめてしまう例はよくある。
寒い時は厚着し、外出を控えるなどして予防する。やっかいなのは夏の列車、オフィス、レストランなどの冷房である。日本の冷房は効きすぎていると思うが、あるいは若者向け仕様のためかもしれない。いくら屋外が暑くても、室内用の上着を忘れないようにする。
過度に負荷をかけたり、不自然に体を動かしたりすると、すぐけがをする。インストラクターの知人がこんなことを言っていた。「傷をつけることで筋肉は大きくなるが、キズとケガは違う。ケガをしない心がけが大事である」。高齢者にとってけがはまさに大敵である。いったんけがをすると、治るのに時間がかかるから、これも、それっきりトレーニングをやめることになりがちである。運動前後のストレッチは不可欠である。
軽い負荷で丁寧に、鍛えたい筋肉を動かしていれば、しだいに力がついてくる。そうすると、最初のころの辛さが楽しみに変わる。菩提寺でもらった小冊子の表紙に「苦しみがなくなるのではない。苦しみでなくなるのだよ」と書いてあったが、これは高齢トレーニングにも応用できる。
映画女優のオードリー・ヘップバーンは「人には誰にも愛する力がある。しかし筋肉と同じように、使わないと衰える」と言ったらしい。愛は高齢者にとっても魅力的だが、ここは愛よりも筋肉を鍛えることを優先しないといけない。