新サイバー閑話(121)<折々メール閑話>62

なぜ兵庫県民は斎藤元彦知事を再選したのか

B 11月17日に投開票された兵庫県知事選で斎藤元彦知事が再選されたのには、正直言って大いに驚きました。午後8時すぎに早々と当確が決まったとき、神戸市元町商店街にある斎藤陣営の選挙事務所前に集まった市民の熱気がまたすごかった(写真はMBS=毎日放送から)。兵庫県で何が起こったのか。

A 斎藤知事が再選されるなんて、まったく想像していませんでしたねえ。

B 斎藤元彦兵庫県知事の内部告発問題およびその後の選挙過程には2つの物語があるらしい。黒澤明往年の名作「羅生門」(原作は芥川龍之介「藪の中」など)を見る思いです。

・第Ⅰの物語 斎藤知事は日常的に部下を激しく叱責したり、夜中でも構わずメッセージを送りつけたりするパワハラを行い、出先では贈り物をねだる「おねだり体質」で、それらの行状を糾弾しようとした県民局長の告発(内部告発文書)をでたらめな文書であると断定、作成者を割り出すととともに、当該局長を停職3カ月の懲戒処分にした。その結果、告発者は自殺している。他にもプロ野球の阪神・オリックス優勝パレードへの協賛金の見返りに、金融機関の補助金を増額して兵庫県に損害を与えたとして、背任の疑いで兵庫県警に刑事告発もされている。この手続きにあたった職員も自殺したらしい。
 これらの問題をただすために兵庫県議会が百条委員会を設置し知事を尋問したが、知事はパワハラやおねだりについて行きすぎがあったことを認めたが、自己の行状への告発問題については、一貫して「公務員にあるまじき行為で、処分は適法である」という態度を崩さず、結果的に知事は議会の全会一致で不信任決議をされ、出直し選挙(10月31日告示、11月17日投票)が行われることになった。
・第2の物語 実は斎藤知事は就任以来、職員の天下り人事の抑制、県庁者移転事業の規模縮小、自らの報酬削減などの行政改革を進めてきた。これを快く思わない守旧派が知事追い落としを図り、その一環として知事のパワハラ、おねだりなどを糾弾する文書がつくられ、関係方面に配布された。後に内部告発文書として再作成されたが、当初はただの「政治文書」で、知事が局長を処分したのは正当である。局長は百条委員会が開かれた直後に自殺したが、原因は他にあり、長年にわたる不倫問題が明るみに出ることを恐れたためではないか。
 告発文書やそれを書いた政治的意図、また自身の不倫問題などを記録した文書が彼の「公用パソコン」に残されているが、公用パソコンの内容すべてが百条委員会で公開されているわけではない。知事は当初の主張を変えないままに全会一致の不信任を受け、自らの政治改革をさらに前に進めるために、再選挙に出ることを決めた。

A 斎藤知事はエリート臭の強い傲慢な人間だという印象で、泉房穂・元明石市長など彼を「モンスター」だと言っていましたよ。

B これが大方の世間の見方だったと思いますね。しかし兵庫県知事選はそういう筋書きでは進まなかった。

 斎藤知事が辞任を選ばす、再選挙に出馬すると決断したことは大きな驚きをもって迎えられ、<折々メール閑話>でも「支持政党なしで立候補して、たった一人で街頭演説をし、そのときになってやっと支持者がほとんどいないことに気づくんでしょうか」と書いています。
 たしかに失職後に街頭に立った時は孤独の影が強かったようですが、選挙選が始まるにつれて、演説する知事を取り巻く輪が広がり始めます。N党(NHKから国民を守る党)の立花孝志氏がこの知事選に立候補、自らが当選するのではなく、「知事糾弾の真実」を県民に知らせるための応援演説をしたのが「触媒」にもなり、第2の物語は、兵庫県民にしだいに浸透していったようです。知事自身が「たったひとりの反乱」を前面に出した戦略も奏功、同情や憐憫の情からなのか、あるいは判官びいきからか、当初は本命視されていた元尼崎市長の稲村和美氏を追う趨勢になり、しだいに肉薄、ついに逆転したわけです。
 支持者から「マスコミは本当のことを書いていないけれど、ネットで色々調べると、事実とは違うことがわかった」、「知事さん、だまされていてごめんなさい」という声が聞かれるようになり、ついには投票日の「斎藤知事再選おめでとう」という万雷の拍手になったわけです。

A 何が起こったのかと思いましたねえ。あれだけ叩かれ、最初は駅頭での選挙活動もほとんど無視されていた人物が、あっと言う間に復権する。SNSの力に空怖ろしくなりました。

 B どちらの物語が真実に近いか、あるいは個々の真偽はどこにあるのかはともかく、兵庫県民の意識が選挙期間中に第1の物語から第2の物語に動いたというのは確からしい。17日の選挙期間に起こったことをあらためてふりかえってみましょう。これから詳細な検証が必要だと思うけれど、とりあえず以下のことが言えるのではないでしょうか。

<マスメディアは事実を報道したのか>局長の内部告発の意図、自殺の原因、すべてが記録されていたと言われる公用パソコンの中身、これらの重要な事実は、かつてならどこかの記者がスクープして、わりと簡単に明らかにされたことだと思うが、当今の記者はなぜこの真実に迫ろうとしないのか。「局長は『自死』した」というあいまいな表現でお茶を濁して平気なのが不思議です。公開するしないは別に、自らは記事を書く前提として押さえておくべき事実ではないのでしょうか。家族に当たればおのずから真実は現れるわけで、真相を知っていた記者もいるのではないかと思うけれど、「個人情報保護」のタテマエか、あるいはそれに寄りかかってか、マスメディア上ではこの事実は語られなかったように思われます。藪を突っつきもせず、周りを棒で叩いて足れりとする(やりすごす)とすれば、これをジャーナリズムとは言えないのではないか。マスメディア上に似たり寄ったりの記事しかなくなる道理です。
SNSの情報は正しかったのか>マスコミとは別の事実を流布するのに大きな役割を果たしたのがSNSのユーチューブやⅩだった。これがマスメディアが〝隠して〟きた事実を明らかにするのに貢献したのは確かでしょう。しかしSNSの情報の真偽ということを考えると、これほど危ういメディアもない。少なくともマスメディアでは情報の真偽はそれを担う既存組織が保証する建前だけれど、SNSでは真偽を判断するのは発信者ではなく、これを受け取る個人です。これはきわめて危うい構造と言っていい。
 ここで思い出すのは社会学者、清水幾太郎の古典的研究『流言蜚語」(ちくま学芸文庫)です。デマ(流言飛語)は表の情報が遮断されたときに、その不足を、あるいはあいまいさを補足するために裏で発生するもので、『社会学事典』(弘文堂)では「口から口へと伝えられる非制度的で連鎖的な『ヤミ』のコミュニケーションで、しかも人々から強い関心をもたれる内容を含み、一方で曖昧さを持つ情報であるため、異常なまでの意味増殖を生み出す言説内容とその形式をいう」と説明しています。
 今回のSNSによる情報流通をデマと同一視することはもちろんできないけれども、マスメディアの情報が一方的で真実を隠している、あるいはあいまいさを含んでいると考えられたことが、兵庫県民の心をSNSに向かわせたのは事実でしょう。しかも、SNSの情報は一方向に増幅しがちです。SNSの力とその危うさということを今回の出来事は改めて我々に突きつけたと言えますね。これは現下のマスメディアそのもののあり方に対しても、大きな警鐘を鳴らしていると思います。

A 斎藤知事の再選を知ってからずっと憂鬱です。原因は斉藤氏の復権というより、SNSの怖さですね。駅での演説にも立ち止まる人がなかったほど、人気が凋落していた人があっという間に復権する、この伝で行けば改憲、もっと言えば戦争にも容易に賛成するようになりかねない。民主主義の危機と言っても過言ではないのでは。

B 先の戦争におけるドイツの独裁者、ヒットラーを登場させたのはラジオだった。安倍政治を延命させたのはテレビと新聞だった(実際は、安倍政権がテレビや新聞を自らの権力で手なづけた)。つい最近まで、大阪での維新の躍進をもたらしたのが在版テレビ局だったのも確かなようだが、今回、斎藤知事を再選させたのは、これに変わって登場したSNSだったと言えますね。
 これが吉と出るか、凶と出るか。増幅能力が強いメディアだけに、どちらか一方に転ぶとあっという間に大きな流れになってしまう危険があります。

<既存秩序の崩壊と「浮遊する」個>マスメディア、政党などの既存秩序は崩壊しつつあるが、それに代わる新しい秩序は依然として生まれていない。インターネットによって既存組織から解放された個人が、今度はそのインターネットによって大きく動かされているのがIT社会の現実です。
 そういう状況下で注目されたのが立花孝志氏の「当選をめざさない立候補」という公職選挙法が想定していない動きです。彼の「兵庫県知事選の本質」を有権者に訴えるというねらいは、ある意味ではどんぴしゃりとはまったと思うけれど、既存秩序想定外の型破り行動は、今後、大いに検討を要すると思われます。彼は都知事選でもポスター掲示版ジャックなど公職選挙法を形骸化する行動に出ており、今のところ既存秩序の破壊者であり、混乱を助長しこそすれ、新しい秩序の建設者とはとても言えないですね。
<無党派層の政治参加と若者>SNSの政治に及ぼす力は、都知事選における石丸伸二候補の大活躍、衆院選における国民民主党の躍進と、しだいに大きな力を発揮するようになっています。しかも、無党派層および若者の力が大きくなっているようです。兵庫県知事選の投票率は55.65%。前回より10ポイント以上高く、先の衆院選よりも高い。
 ある出口調査によると、20~30代の若者の6割が斎藤知事に投票したと言います。若者とSNSの親和性は、このメディアの力、あるいは危険性を如実に示しているようです。
  既存の政治システムそのものがもつ「力」が急速に液状化、強度も粘りもなくなっているから、わずか17日の選挙期間中に事態が逆転するほどの変化が起こる。ここにIT社会特有の問題があると言えます。斎藤知事に投票した人はほとんど個人レベルで、そこには組織の力はあまり働かなかったようでもある。政党関係者で斎藤知事を応援した人もいるだろうが、それも個人的な支援ではなかったのでしょうか。
  もっとも今回は県議会全会一致の知事不信任という前提があり、前回斎藤知事を推薦した自民党は独自候補を見送り、他の野党候補は乱立気味という総すくみ、言い替えると「政党政治の空白」状況があった。しかしこれは特殊事情というより、今後の政治を占う兆候と捉えた方がいいように思います。一方でSNSの輪はどのようにして大きく広まったか。これは大いに検討すべき事柄ですね。

 A  立花氏は「自分には投票するな」と言っていたらしい。単なるカネ稼ぎの目立ちたがり屋ではないですか。10代〜30代の若者たちは、その人物の背景や政策、実績、本質などとは関係なく、「斎藤さんがかわいそう」、「イケメン」、「斎藤さんは東大卒」といった表面的な反応のようにも思えるけれど、これは老人の偏見かな。

B 斎藤元彦という人物は鉄面皮だと思っていたけれど、自分を攻撃する局長のプライバシーをも守ろうとしていたと考えれば、骨っぽい面もあるのかも。一方で、この不器用なキャラクターが事態を混乱させたとも言えますね。
 斎藤知事は19日、2期目の就任式にあたり、県職員を前に「謙虚な気持ちで丁寧に対話を尽くす」と強調したようですが、これでパレードをめぐる疑惑とか、パワハラ、おねだりなどの問題が一挙に雲散霧消するわけではないですね。
 第1と第2の物語のどちらが真実に近いのか。あるいは巫女(公用パソコンのデータ)の口を借りて死者が第3の物語を語り始めるのか。県民が評価した行政改革への取り組みも、それこそ前に進めなければ、県民を裏切ることにもなるでしょう。これからの斎藤知事、さらには県議会の対応があらためて注目されますね。

・トランプ大統領再選と石破内閣の発足

 B 兵庫県知事選問題を長々と続けてきたけれど、前回以来の世界および日本の出来事をふりかえると、第2次石破内閣の発足(11日)、米トランプ大統領復権(6日)という、より大きな出来事がありました。軽重逆さまながら、この問題に簡単にふれておきましょう。
 国内で言うと、11日に第2次石破内閣が発足しました。自公与党の衆院選惨敗にともな少数与党内閣です。立憲以外の野党は第1野党の野田佳彦・立憲民主党代表に投票せず、64票の無効票が出ての石破首相誕生です。しかし「与野党逆転」の証として、衆議院常任委員長は17のうち7つを、特別委員長は7つのうち4つを野党議員が占めました。30年ぶりに野党議員が務める予算委員長には、立憲民主党の安住淳氏が就任、ほとんどを自公が独占していたころに比べるとまさに様変わりです。ここに与野党逆転の成果が表れていると言えますね。少なくとも安倍1強体制の弊害は軽減するでしょう。また、そうなってもらいたいものです。
 しかし石破首相の組閣ぶりは政務官に今井絵理子、生稲晃子氏など、どう考えても資質に欠けると思われるタレント出身議員を起用するなど、まことにお粗末です。短命の石破内閣に変わって来夏にも「自民・立憲連立、財務省後援」の増税内閣成立が噂されるなど、参院選まで国内政治は不安定なまま進みそうです。

A れいわ9議席ではまだ委員長ポストには届かないですね。しかし、今回当選した新旧9議員は11日に国会前で元気な姿を見せていました。大いに活躍してほしいですね。今や野党にこそ知恵と政治力が求められるわけで、何もかもがよく考えもせずに決められてきた政治を変えるチャンスだと思います。

B 兵庫知事選で見られた選挙構造の変化は当然、国政にも反映されることになるでしょう。石丸伸二氏は来夏の都議選をめざして新たな地域政党を立ち上げる構想も明らかにしています。れいわが無党派層や若者の票を大幅に集めて、来夏の参院選でさらなる大躍進をしてくれることを期待しています。
 さて、アメリカのドナルド・トランプ次期大統領です。これも米大手メディア、それに寄りかかった日本のマスメディアではカマラ・ハリスの優勢、少なくとも互角という予想でしたが、蓋を開けてみるとトランプの圧勝でした。しかも共和党は上下院の議席数も制するトリプルレッド(大統領、上院、下院の3冠)を達成しました。来年アメリカおよび世界の政治情勢は激変するでしょうし、その余波は日本にもろにかぶってきますね。
 トランプ大統領の動きは素早いし、パワフルです。選挙戦に協力したロバート・ケネディ・ジュニア議員やIT起業家のイーロン・マスク氏を始め、若手の閣僚人事を次々に発表しています。とくに興味深いのは、「ワシントンの腐敗からわが国の民主主義を取り戻しDS(Deep State)を解体するための計画」を発表していることです。その内容は、①不正な官僚を解任する大統領の権限を回復する、②国家安全保障と情報機関にいる腐敗した役人を全員排除する、③わが国を分断してきた策略と権力の乱用を暴くために、真実和解委員会を開設し、DSによるスパイ行為、検閲、腐敗に関するすべての文書を機密解除し、公開する、などとちょっと驚く激しさです。
 DSについては本コラムでも折にふれて紹介してきましたが、トランプ次期大統領は世界の一部富裕層が絶大な影響力を持つ軍産複合体、医薬複合体、情報通信や金融複合体などの総称として、この言葉を盛んに使っています。DS勢力は当然、トランプ政権内にも根を張っていると思いますが、反ワクチン論者のロバート・ケネディ・ジュニアが厚生関係の要職に着くと、コロナワクチン問題にも大きな影響を与えるでしょう。
 いずれにしろ、こういう動きを見て感じるのは、アメリカという国は、いい意味でも悪い意味でも、メリハリがはっきしていることですね。そういう意味では、トランプその人が劇薬です。石破首相はやりたいこともはっきりしないし、人事はまさにヌエ的。トランプ攻勢に対等に渡り合えるとはとても思えないところが、なんともはや。対外的にも日本の前途は厳しいようですが、この件についてはまた取り上げることになるでしょう。

新サイバー閑話120<折々メール閑話>61

衆院選で自公過半数割れ、れいわは9議席獲得

B 10月27日開票の衆院選で自民党は裏金問題のあおりで旧安倍派を中心に大幅に議席を減らし、公明党とあわせても過半数に届かない惨敗となりました。第一野党の立憲民主党が大躍進、国民民主党は4倍増、れいわ新選組も3倍増の9議席を獲得しました。日本維新の会と共産党は議席を減らしました。
 れいわの9人は、大石あき子、くしぶち万里、たがや亮の現役3人のほかに、幹事長の高井たかしを始め、上村英明、佐原若子、さかぐち直人、やはた愛、山川ひとしが新議席を得ました。いずれもそれぞれ個性的な経歴の持主で、政治改革への意欲も旺盛だと見受けられます。れいわのウエブには9人勢揃いの写真が載っていますが、親の家業を漫然と引き継いでいるような世襲議員がいないのがさわやかです。

A 他党には見られない質の高さを感じますね。残念だったのは福岡の奥田ふみよ、北関東比例の長谷川うい子、東京比例の伊勢崎賢治などの落選ですが、勝手なことを言わせてもらえば、これらの人びとは来年の参院選の立派な候補ではないでしょうか。

B 神奈川2区の三好りょうも残念だったですね。彼は南関東比例でもあったので、地元候補を十分応援出来なかったのには力不足を感じました。

A 自公与党で過半数割れというのは15年ぶりとか。安倍政権以来続いていた自民一強体制が終焉を迎えたのは大きな変化ですね。もっとも与野党逆転と言っても、野党はバラバラ、大躍進した立憲民主党中心に政権交代が実現するような空気はまるでないですね。

B 最終的な党派別獲得議席数は表の通りです。左が新しい議席数、次が増減数、右が選挙前議席です。自民党が65議席も減らしたのはやはり「政治とカネ」、裏金問題に対する批判が強かったせいだと思います。裏金議員46人中当選したのが18人ですが、その中には萩生田、西村、世耕(離党して無所属で立候補)など旧安倍派の重鎮も含まれています。萩生田氏は統一教会疑惑の中心人物でもありますね。そういう点では世論の裏金批判も中途半端な印象です。
 今回の選挙の意味に関しては、さまざまに論評されていますが、ユーチュブ・デモクラシータイムスの「週ナカ生ニュース」で山田厚史氏が「安倍政治の終焉」だと言っていたのが正鵠を得ていると思います。彼は安倍政治を以下のように明快に総括していました。

 われわれは安倍的なるものを「アベノウイルス」と呼び、それが社会全体に蔓延していることを慨嘆してきたわけだけれど(「日本を蝕んでいた『アベノウイルス』」、『山本太郎が日本を救う』所収)、とくに「国会を無視して仲間内の解釈=閣議など=で法をまげる」、「人事で官僚を支配する」、「権力の私物化」などがいかに日本社会を腐敗させたかを考えると、今回の自民一強体制の崩壊は「アベノウイルス」の毒一掃に結びつけるチャンスだと思います。と言うより、ぜひそのようになってほしいものです。

A しかし立憲、国民、維新などが、そういう大局的な動きをするとは思えず、これからの自公に国民や維新がからむ合従連衡にはあまり興味がないですね。ただ自公がこれまでのように強引にことを運べなくなったのは大いにプラスだと思います。
 今回の選挙結果への感想を述べると、国民の7議席から24議席への4倍増にはちょっと驚きました。公明と維新は議席を減らしましたが、公明は石井啓一代表が落選したように、裏金議員を推薦するなど、自民べったり路線の代償だと思います。議員の高齢化も言われていますね。維新は議席数を落としているものの、大阪選挙区では19議席を独占しました。大阪万博や兵庫県知事をめぐる批判も不十分に終わった感じです。
 ところで、自民の裏金問題や石破政権の裏金議員への2000万円支給をスクープして自民退潮に少なからぬ〝貢献〟をした共産党が議席をむしろ減らしたのは、気の毒な気がします。こちらも高齢化や党名変更問題、体制改革などに問題があるんだと思います。
 それはそうと、開票日の山本代表は今まで見たことのないほどつらそうな表情でした。本人もはっきり「この選挙は辛かった」と言ってました。初めてですね、代表がこんなことを言うのは。一時は入院もしました。5年間走り続け、酒も止めていた訳ですから無理もないと思います。頬がげっそりこけ顔色も悪く、大いに心配しました。早い回復を祈っています。

B 投票率は53.85%と前回も下回り、戦後3番目の低さでした。つい3カ月前の東京都知事選では新人の石丸伸二候補に無党派層の支持が流れたことが大きな話題になりました。既存選挙制度の枠外に置かれた無所属若者層の票が戻ってきたようにも思えたのだが、衆院選では元の無関心に戻ってしまったのか。あるいは知事選特有の現象だったのか。
 あのときはこの無関心層の票がれいわ支持に向かってほしいと思ったのだけれど、どうでしょうね。テレビがやっていたある出口調査結果では、国民の支持者に若者が多かったらしい。古い政治地図の中で、あまりにひどい自民党政治への批判が高まり、自民敗北、野党躍進になったけれど、政治構造そのものはあまり変わっていないのかもしれません。

A 自民党はさっそく、萩生田、西村、世耕各氏など当選した6人を自民会派に取り組みました。石破自民党も裏金問題を真剣に考えていないということでしょうが、これで議席は197となります。まあ、大勢には影響ないですね。
 11日には国会で首班指名が行われます。自公による石破内閣が継続し、ケースにより維新、国民などと連携しつつ、参院選までだらだらとした政局が続くのではないでしょうか。国民はいずれ自民に近づいていく気がします。
 マイナカードのごり押し、インボイス制度、原発再稼働など、自公が過半数議席の上で推進してきたこの種の政策に変更が起こり得るのかどうか。立憲の野田体制を考えると、安全保障体制、消費増税といった基本政策に変化が起こるとも思えないですね。

B そこにれいわがどうか関わっていけるか。山本太郎代表は28日、国会内の会見で9議席獲得したことに手応えを感じつつも、節目の2ケタに到達しなかったことを悔やんでいました。衆参どちらかで2ケタに到達しないと、政党としての存在感がいま一つのようです。これまでの3議席に比べれば3倍増ですから、いろいろ工夫して戦ってくれると思いますが‣‣‣。

・明治製菓ファルマが原口議員を提訴の報道

A ところで29日の地元紙に気になる記事(共同通信ネタ?)が出ていました。前回紹介した『プランデミック戦争』の著者、立憲民主党の原口一博議員(当選)を明治製菓ファルマが提訴する方針だというニュースです。
 報道によると、「同社は原口氏を損害賠償などで近く東京地裁に提訴すると明らかにした」、「『国と取り組んできた公衆衛生向上への取り組みが攻撃された』として警告文を送ったが、改善が見られず提訴に踏み切る」ということでした。

B 実際にはまだ提訴していないようですね。原口議員は選挙期間中の「当て逃げ」報道だと言っていましたが、これについては、さっそくれいわの大石あき子議員がツイッターで、「レプリコンワクチン製薬会社が批判者を訴えるのは許されない」、「原口議員の考えがどうかは関係なく、これはワクチンを不安に思う全ての国民への脅し」と発言しました。
 ここでも興味深いのは、マスメディアには明治製菓ファルマの提訴方針に関する記事はありますが、われわれが前回、紹介したようなコロナワクチン行政に関する全体的な構図を解説したような記事が皆無に近いことです。こういう一方的な記事が垂れ流されることは世論を一定方向に誘導する危険があります。

A あの記事を読んだ時は、自社のワクチン開発に強い危惧を投げかけた『私たちは売りたくない』の著者、チームKの人びとはいま社内でどういう状況に置かれているのかということでした。なぜ報道機関はそういう問題に切り込むドキュメントを書こうとしないのでしょうね。

B 前川喜平さんと田中優子さんが共同代表をつとめる「テレビ輝け!市民ネットワーク」という団体が、テレビ報道の公正中立を求めて、6月27日のテレビ朝日ホールディングスの株主総会で、「政権の見解を報道する場合にはできるだけ多くの角度から論点を明らかにする」などの内容を定款に追加する」といった放送法の趣旨にのっとった株主提案をしました。結果的に否認されましたが、この件で田中さんが「アークタイムズ(Arc Times)」というネットメディアで事情説明をした内容に関して、テレビ朝日放送番組審議会委員長の見城徹氏と同氏経営の出版社、幻冬舎がアークタイムズの尾形聡彦代表や田中優子氏らを名誉棄損で2000万円の損害賠償訴訟を起こしています。その第1回口頭弁論が9月26日に行われ、その後に尾形、田中両人などが記者会見をして、カンパなどの訴訟支援を訴えました(写真)。
 尾形代表らは、これを「スラップ訴訟だ」として、徹底的に闘うと言っています。スラップ訴訟というのはSLAP(strategic lawsuit against public participation、市民参加を妨害するための戦略的訴訟)、言ってみれば、富裕な個人や大企業などが学者やジャーナリスト、市民組織に対して批判や反対運動を封じ込めるために起こす威圧的訴訟のことで、ウエブに「わかりやすく言うと、 嫌がらせ等の目的で法律上認められないことが明らかな訴訟を提起すること」という、たいへんわかりやすい説明がありました。
 れいわから先の参院選に立候補して当選(後に辞退)した水道橋博士が自分に対して起こされた「スラップ訴訟に対決したい」と述べたとき、この言葉が脚光を浴びましたが、訴訟を起こされた側は裁判をするために膨大な時間や資金が必要になります。訴訟を起こすと言って大々的に報道させ、実際は訴訟しないという場合もあるようです。

A テレビ朝日という大手メディアの幹部が弱小メディア、アークタイムズの報道内容を訴えるというめずらしい訴訟で、ともに「報道機関」ですから、「言論の自由」、「報道の自由」が争点にならざるを得ない。たいへん興味深いですね。

B こういう世情を見ると、いまさらではあり、また大いに陳腐でもあるが、「古き良き時代」という言葉が浮かびますね。かつては「実るほど頭を垂れる稲穂かな」とか「ノブリスオブリージュ(高い社会的地位には義務が伴う)」など、学問や実業で大成した人や庶民の上に立つ政治家などは謙虚であるべきであり、富裕層や支配層は社会(世界)全体の平和や繁栄に責任をもつべきだ考えられていました。近代民主主義はそれらの理念を制度的に保障しようとしてきたと言えるけれど、「啓蒙」という言葉がダサいと思われるなど、いまはすっかり様変わりしました。
 弱肉強食的な風潮は世界共通でもあり、アメリカでは一握りの富裕層は自分だけが安全な場所に住めればいいと、大海原の孤島や宇宙の片隅に独自のコミュニティ用シェルターをつくり、外から攻撃されないようにガードマンを雇ったりしているようですし、「国際経済フォーラム(ダボス会議)」など超支配者グループの周辺からは「世界人口は多くなりすぎたから削減すべきだ」という声も公然と語られています。一方でコロナmRNAワクチンの危険性に関して、そういう大きな枠組みを踏まえて警告したり反対したりする勢力も少なからず存在します。
 『プランデミック戦争』ではないけれど、まさに世界は「戦争」状態にあるとも言えますが、日本の支配層はそういう大きな構図に気づいているんでしょうか。明治製菓ファルマの訴訟目的にある「国と取り組んできた公衆衛生向上への取り組みが攻撃された」という記事の文言は、実際にどうだったかはわかりませんが、その背景に「国の政策は正しい」、「我々は国策に沿っているのだから、それに反対するのは許せない」という考えがあり、それ自体が世界の潮流から遅れていると感じさせます。社員に見えていることが経営者には見えていない。
 これもまた自公政治の大きな問題点ではないでしょうか。私たち自身、世界の潮流に無知であってはいけないわけですが、大きな視野をもった政治家がいよいよ重要になっている今だからこそ、れいわへの期待も高まるわけですね。