< ML楽屋話 >
今回は拡大するIT企業運営のプラットホームをめぐる事情を取り上げました。直接のテーマはフェイスブックですが、他のプラットホームにも共通する問題です。Sicさん、蘊蓄度の高いイラストの説明をよろしく。
今回のイラストはどちらも元ネタありきなので、それを知らないと何のこっちゃ?という内容なのかもしれません。コンセプトは、「さまよえる蛍たち」です。ちょっと捻くれているというか、入り組んでいます。
このピエロ(クラウン)は最近映画化でも話題になったスティーブン・キング原作「IT」(イット=それ、アイティーではありません)のペニー・ワイズです。デザインは1990年ティム・カリー版ではなく、昨年リメークされたビル・スカルスガルド版となっています。
ITは、人ならざるものであり、英語圏の鬼ごっこでいう「鬼」を指します。そしてピエロが囁くセリフは、童謡「ほたるこい」の「こっちの水は甘いぞ」を英訳したものです。 映画では、主人公たちの日常会話(言い回し)をペニー・ワイズがマネするシーンがあって、仲間内でしか知らないことをITが知っている、という不気味さを演出していました。
童謡では、子供が蛍を呼び寄せるために「こっちの水は甘いぞ」と誘いますが、同じセリフを不審者が言うと全然違う意味に見える(聞こえる)…という暗示を表現しています。つまり、発言者の立場によって発言は違う捉えられ方をしてしまうということです。
トランプ大統領は、ビジネスマンだった頃と大統領になってからで、あまり発言内容が変わらないことで有名ですが、傍から見ると、その立場でその発言は大丈夫?と思うような内容が少なくありません。彼は独自でフェイクニュース大賞なるものを発表していました。アメリカのマスコミが全然扱っていなかったのが笑えます。
イラストに戻りますが、ペニー・ワイズの傍らには井戸があります。映画で井戸はペニー・ワイズのアジトに通じる入口なのですが、イラストではイド(無意識)の暗示も兼ねています。井戸(イド:無意識)からは、よく見ると不穏なモヤモヤが吹出していますが、無意識からの危険意識、あるいは既に取り込まれてしまった人の後悔の念としてもいいと思います。明らかに甘そうではない怪しい井戸の水を、「Sweet Water」と言っているので、これもフェイクニュースですね。
ペニー・ワイズが「ほたるこい」の一節で誘っているのは、蛍と女子生徒です。女子生徒はお正月にテレビ放送された「君の名は」のヒロインがモチーフになっています。身元不明のフェイクニュースを作った人に「君の名は」と問いかけているという意味もあるのですが、一番の理由は別にあります。
この「君の名は」という映画ですが、去年、とあるアニメ映画のパクリ疑惑が浮上し、炎上しまくりました。その映画は「虹色ほたる」といいます。最初は数カットだけだったので、よくある偶然で片付けられていましたが、構図や動きが同じ(トレースに近い)箇所があまりに多かったために、海外では結構な話題になりました。日本、特にマスコミが話題にしなかったのは、ビッグネームが連なるスポンサー群に「忖度」したのでは?と言われています。
体が入れ替わって、ヒロインは顔に「あほ」と落書きされてしまいますが、イラストにはそんな「あほ」な報道事情への皮肉が込められています。まあ、非常に分かりにくいので、再放送で話題になった「君の名は」と、怖いと話題になった冬映画の「IT」ネタとしてもよいかなと思います。
ちなみに、私がITを初めて見たのは1990年版でした。ペニー・ワイズがとても恐ろしく、しばらく夢に出てくるほどでした。何より目が怖かったのを覚えています。一方で昨年リメイクされた方は、ペニー・ワイズ役のビル・スカルスガルドが童顔のプリティフェイスなイケメンで、特殊メイクやCGを施されても、目や表情が可愛くて(個人的に)全然怖くありませんでした。気になって、もう一度1990年版を見てみるとチープな特殊撮影や合成、子供の演技ばかりが目立ち、当時あれ程怖かったシーンが全然怖くありません。そういや、最近はテレビで映画を見ると、その都度集中力が途切れてしまうのを実感します。
テレビだろうと、夢中になって世界に入り込んでしまう当時だからこその恐怖だったのかもしれません。まあ、ティム・カリーはメイク落としたほうが目が怖いんですけどね。
イラストの井戸は一箇所欠けていますが、これは映画「リング」の井戸です。こちらも映画繋がりで、更に続編がやるということで話題になってますね(私だけ?)。実はこの井戸、当時貞子に大ハマリしていた頃に同人誌として描いたもので、日付を見ると2010年でした。(もちろん加工や調整などはしていますが)。劣化のないデジタル技術は、こういったこともできるのが面白いですね~
さて、今年になってフェイスブックでも改善策を打ち出してきていますが、問題はすべてが後手に回るということですね。フェイスブックのおかげで(?)当選しながら、「自分に反対する意見はすべてフェイクだ」と臆面もなく言い切るトランプ大統領には、IT(これからは、アイティー)社会の深層を見つめ、将来的な改善策を期待することは無理ですよね。
サイバースペース独立宣言にあったような、どちらかというと、アナーキーな個々人がゆるやかにつながっていた時代と異なり、商業的なプラットフォーマ―が出現し情報の流通をコントローラブルにできるようなっていますが、このことを一般の方はなかなか知りません。
また、権力というと「中心」がありますが、中心がなくとも(=むしろ固有の中心がないからこそ)仮想通貨のようにブロックチェーンのような仕組みでコントロールできるようになってきています。中心があれば、闘う相手もみえるので、自由を侵害、あるいはされそうになったりすることに対して、憲法や監視という手段で対処できますが、ネットワーク型になると そもそも中心がなく、自分自身も読み手であり発信者であり、利用者であり、管理者であるという具合で……。
よっぽど注意していないと自由なようで、実は、自由ではない。自由なようだから監視しなくても意識しなくてもいいやという感覚がより一層、自由をなくしていくような現象を生むのかなと思います。
中には、その無防備さを狙う者もいるでしょう。アップルの端末にスマホ中毒を防止する仕組みを入れないといかん!と、株式を持つアクティビスとが対峙始めました。でもこれは、中毒になることがけしからんよね。というコンセンサスがあるから、株価が落ちるという仕組みが働くわけで、プラットフォーマ―であるフェイスブックに同じように政治的に中立であれといっても、「いや、中立ですよ」と言われると、それ以上に突っ込みようがないですね。
甲賀市が、投票用紙の数が合わないので、白票で数合わせして、後からでてきた票を総務課長の家の焼却炉で焼いちゃうという事件がありました。「けしからん」とか「重罰を科せ」とか意見がわいていますが、これは、やはり現実世界のもつ物質性や身体性が生み出す自ずからなるバランスだと思います。しかし、それ以前の判断材料を特定のところだけ見せたり、FAKEを流すことについては、バランス感覚が発動しにくい。それを発動させるために、サイバーリテラシーはどんな提言ができるだろうかと思案しているところです。
人間的に見れば、ザッカ―バーグはきわめて誠実で、どこかでオバマ前大統領に通じるところがあるようにも思います。今年の〝個人〟目標に「フェイスブックが抱えるさまざまな問題の改善」を上げていますが、やはりこれらの問題を解決するには、ITビジネス(プラットホーム)とは一線を画した権威ある公的団体が必要ではないでしょうか。米大統領選の敵は、ロシアという巨大国家だったわけですから。
僕が興味を持っているのは、たとえば、サンタクララ大学のシニアディレクターでジャーナリストのサリー・レーマンが率いるコンソーシアムTrust Projectです。現在ニューヨークタイムズ、ワシントンポスト、フィナンシャルタイムズ、イギリスのBBC、ドイツのZeit Onlineなど75以上のメディアが参加しており、参加メディアは、コンテンツにTrust Projectが策定する8つのインジケーター(標識)を表示することで、読者にそのコンテンツの信頼性を示そうとしています。フェイスブックとグーグルも参加を表明しています。
弘法大師の真言密教のテーマ、「顕薬は塵を払い、真言は蔵を開く」ではないけれど、 サイバーリテラシーは、まさに見える現実の世界1%に影響を及ぼしている99%の見えないサイバー空間の蔵を開く秘鍵だと思っています。
米国大統領選の戦いの敵は、普通の人には、候補者、政党同士の争いという社会科で教えられたスキームの中での「見える世界」でしかとらえられませんが、本質は、ロシアとの戦いだった。トランプのロシア疑惑。といっても見えない世界の文脈がわからなければ、負けた陣営のただのいちゃもん、というレベルでしかとらえられないでしょう。
どちらかというと前回のインスタ映えのテーマに近いかもしれませんが、最近SNSで話題になっているもので、「ニベアクリームのジュエリーボックス」があります。面白いのは、これ系の写真は2種類あるということです。
ひとつは、ニベアクリーム缶の中に白いスポンジを敷き詰めて指輪などのジュエリーを入れているもの、そしてもうひとつは、未使用のニベアクリームに直接指輪を差しているものです。
当然ながら元ネタはスポンジのほうで、それがインスタ映えするという話題になると、もうひとつの未使用ニベアが大量発生したそうです。もしかしたら、元ネタを皮肉って未使用ニベアジュエリーケースが発生したのかもしれませんが、純粋に信じて(話題性だけで)飛びついたものも少なくないのでしょう。実際、ソレを茶化したまとめサイトを多く見かけます。
トランプ大統領が言う「フェイクニュース」は、こちらも言葉が独り歩きし始めて、違う意味合いになりつつありますが、ニベアジュエリーは正に今回の記事の指摘通りのような気がします。
サイバーリテラシーの意義はいよいよ高まるのに、それをどう現実的に普及させていくか、現実にどう対応させていくかの力量が不足しているのが辛いですねえ(^o^)。
ところで、146回は145回の続編です。フェイスブックを中心にプラットホーム側の動きをフォローしつつ、持論のサイバーリテラシー協会について書いています。
今回のコンセプトは、「サイバー社会を照らす『絵に描いた餅』」。周知のように、「絵に描いた餅」は、あまりよい意味で使われることはありません。その多くは、机上の空論、高すぎる理想、所詮実現しない(食べられない)空想の産物……そんな意味で使われます。
<ネット社会の健全なあり方を模索する横断的な組織>、如何にも難しそうなテーマです。しかし、世の中を変えてきたのは、いつだって高い理想と夢を追い続けた人達です。無理だよ……、現実的に不可能だよ……、そんな言葉をものともせず、信念を持って追い続けた者のみがイノベーションを起こします。リアリストが画期的なイノベーションを起こしたなんてのは聞いたことがありません。
そんな「絵に描いた餅」が、言い争う人たちを照らしている――そんな構成となっています。イラストのモチーフは、「十戒」(1956年 アメリカ映画)です。映画のポスターでは十戒の石板(タブレット)を掲げていますが、イラストでは「絵」を掲げました。理由は上記の通りです。イノベーションを起こす「高き理想」のみが、今のサイバー社会を照らすものだと信じているからです。
ちなみに、描かれている餅は鏡餅です。鏡餅の起源には諸説ありますが、その内のひとつに蛇を表しているというものがあります。二段重ねの餅は、とぐろを巻いた白蛇で、上に乗る橙は蛇の目を表しているそうで、白蛇(アルビノ)特有の赤目なんだとか。ヤマカガシなどのように、蛇はカガ(カカ)ともいい、カガ(蛇)の身でカガミとのこと。その蛇を模した鏡餅を床の間に飾り、歳神の依り代とするためにお供えをするんだそうです。蛇は脱皮をすることから、不死と再生の象徴として崇められました。(そうあってほしいと思う)死せず何度でも蘇る「高き理想」……というのは後付けですが。
蛇は様々なモチーフとしても使われます。アステカの蛇神ケツァルコアトルは、農耕と「文化」を司ります。聖書では、アダムとイブを誘惑した悪魔とされますが、ギリシャ神話のカドゥケウスが持つ杖には2匹の蛇が巻き付いており、色々なシンボルとして利用されています。この2匹の蛇は善と悪・光と闇を表し、バランスの象徴でもあります。よく似たものとしてアスクレピオスの杖がありますが、こちらは蛇一匹、そして医療のシンボルです。陰と陽、清濁を併せ持つ蛇は、個人的にとても好きなモチーフだったりします。
実は幼少の頃、生で蛇を見て以来、大の苦手なのですが、(田舎では蛇の遭遇率が結構高く、素手で掴んで遊んでいる同級生もいました)。そのデザイン、自分にとっての最大の恐怖→死の象徴……みたいなところがあって、蛇には神聖なものを感じています。
最初は、記事の「IT社会を生きる杖」に対して、杖を掲げるモーセをイメージしていましたが、現在のサイト名は「サイバー燈台」なので、杖→蛇→鏡餅の連想となりました。
言い争い混沌とした人々(社会)。モーセが掲げる「絵に描いた餅(理想)」=サイバーリテラシーが、サイバー社会を照らす光となってほしい……そんな思いが籠っています。
IT社会は妙なことになっているとは、多くの人が感じていることですね。2回にわたってフェイスブックを取り上げたのも、そのためでした。
◆行きつく先はここ?この論考も興味深いです。
https://www.buzzfeed.com/jp/charliewarzel/the-terrifying-future-of-fake-news-1?utm_term=.mbYRj0PeK#.yixLZx2mK
戦時中など、情報が完全にコントロールされている時代にも、フェイクにニュースはメディアを通じて流され、多くの人が洗脳・扇動され、誤った行動をとることもありました。個に情報の発信権が移れば、一極集中のコントロールができなくなり、多様な意見の併存や自由な真偽討論が行われ、かつてアメリカ連邦最高裁のホームズ判事が指摘したような「思想の自由市場」が生まれるかに見えましたが、現実は<検閲されている>と明示的であるより、<されていない>という建前ながら情報統制されている。自由なようで、言論の自由を奪っていくのかもしれません。
Heiさんが紹介してくれた論考はなかなか鋭いですね。147回のコラムで取り上げることにして、今回はここまでに。
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