新サイバー閑話(116)<折々メール閑話>57

「混沌の先の激変」が可視化させた「明るい闇」

 B ユーチューブなど SNS以外ではほとんど無名だった石丸伸二氏は都知事選で若者、無党派層の大量票を集めて、選挙後はテレビをはじめとするマスメディアの寵児へと変身しました。テレビや新聞の手の平を返すような対応はいかにも日本的な変わり身の早さですが、では今回の石丸善戦の意味は、となるとあまり深い分析はされていないようです。当の石丸氏は当選直後のインタビューでテレビ局側の場当たり的な質問に独特の話法でけむに巻くなどしており、これにはテレビ局側の批判も起こったけれど、喝采を叫ぶ声も強かったですね。

A 石丸氏自身がエリート銀行員出身で、考え方の基本が日本維新の会に近い新自由主義的傾向をもつことについては、前回すでに話題にしました。各地で精力的に街頭演説を行い、それがユーチューブでどんどん報道されることで集めた金は3億円に上ったと、彼自身が出演したテレビの「TVタックル」で話していました。SNS恐るべし、ではありますね。

B 石丸氏は政党本位の選挙図式の枠外に置かれ浮遊していた無党派層、若者層を選挙の場に呼び込んだという点で、一種の「トリックスター」だったと言えます。トリックスターには詐欺師、ペテン師という意味もあるけれど、ここでは原義の「神話や民間伝承などで、社会の道徳・秩序を乱す一方、文化の活性化の役割を担うような存在」(広辞苑)という意味で使っています。もっとも、これが「文化の活性化」なのかどうか、これが今回のテーマでもあります。
 問題はこの若者層、無党派層が今後、政治にどのような形で参加していくのか、あるいはいかないのかということですね。前回も紹介した知人がOnline塾DOORSの第1回読書会で都知事選を総括する報告をしてくれました。というわけで、都民でもあるこの知人に特別にゲスト参加してもらい、都知事選、とくに石丸現象を総括してもらうことにしました。

C 私はインターネット上の情報を丁寧に(才覚をもって)探せば、がれきの中にも価値ある情報が多く存在することを示す「情報通信講釈師」を自称しています。したがって、今回の都知事選に関しても、ネット上の言論を渉猟して紹介しつつ、あわせて私の見解もお話したいと思います(下図は読書会報告のPPTファイルの1画面。北川高嗣・筑波大学名誉教授の評価で、既存政党の混乱ぶりを鋭く指摘している)。
 都知事選での上位3人の候補に対する私の評価は<1位小池:現職の立場を利用し、組織票を固めた老練な悪徳政治家、2位石丸:間接的に金を払ってYouTuberを使い若いネット民の心を巧みに掴んだが、安芸高田市では典型的なパワハラ上司タイプで訴訟されている、3位蓮舫:現職批判に徹し過ぎ、何をやるのかを明確に示せていなかった>となります。私自身はこれ以外の候補に投票しました。
 石丸躍進については、作家・古谷経衡さんの日刊ゲンダイ「石丸伸二氏を支持した『意識高い系』の空っぽさ」という論考が出色だと思います。まず「石丸氏は自己顕示欲や承認欲は旺盛だが、具体的な知識や教養が伴わないため、キラキラした空論しか言えない典型的な『意識高い系』である。 彼の2冊の著書『覚悟の論理』、『シン・日本列島改造論』から分かることは、コスパ(コスト・パフォーマンス)、つまり合理性と効率、損得勘定がすべてで、彼のコスパ最優先の世界観は都内の若年有権者に響いた」と分析しています。
 さらに「損なこと・無駄なことはやらない。得だと思えば最短で結果が出る戦略を実行する。要は弱者切り捨ての正当化であり、自己責任論の亜種である」と断じ、「 出口調査では、10代~30代の若年層から強く支持されたことが明らかになっており、若者に限ったことではないが、コスパとタイパ(タイムパフォーマンス)が社会をハック(うまくやり抜く)する必須の道具と理解している」と書いています。

B なるほど、鋭い分析ですね。とくに今回選挙で躍り出た若者の精神風土についての考察は考えさせられます。以前、このコラムでも紹介したけれど、某大学教授が「最近の若者は寅さんのおもしろさがわからない」と嘆いていたのを思い出します。若者の感性がもはや日本の伝統と切り離されているというか。

C 古谷氏は、彼らについても今の若者は 2時間を超える映画を見ることができず、15分に短縮したファスト映画が横溢し、本や記事を読むことが苦痛で、要点だけをまとめた『見出し記事』で何かを分かった気になっており、議論より『論破』を好む。こうした知的怠惰の層は確実に増えており、ユーチューブなどのまとめ動画にふれたのがキッカケで石丸支持に向かった者も多い。彼を支持した西村博之氏、堀江貴文氏らのメンツを見れば、支持層の知性水準がおのずと明らかである、と。

B これまで選挙や政治と無縁に生きてきた若者がユーチューブのスター、石丸氏によって政治の場に引きずり出されたわけで、だから彼らは小池氏に投票しなかった以上に、既成野党に支えられた蓮舫候補に見向きもしなかった。そういう意味では今回、可視化された若者の参加はプラスとも言えるが、内実を見ると、きわめて心配な点がありますね。

C 古谷説の説明が長くなりますが、彼は「石丸の大番狂わせは政治不信の結果なのだろうか。否である。既存の政治家が何を言い、何をやり(あるいはやらないか)すら、自分で調べることが面倒で小難しいと考えている人々が石丸を支持した層の主体である。世の中に全く無関心というわけではないが、民主主義に参加する際の最低限度の作法すら身に付けておらず、具体的な知識も持っているわけではない──。こういう空っぽな連中には、『石丸程度』がちょうど良かったというだけではないか」と核心を突くことを言っています。

B 思わず、うーんと唸ってしまいます。ここには長い間の日本の教育行政が反映している。大学では人文科学より手っ取り早く金が稼げる工学系を重視すべきだとか、政府批判をするような学者や大学は排除するとか、学術会議を政府寄りに改組すべきだとか、長い間の文教教育のいびつさが生み出した奇形的学生が増えているわけで、中立というのは政府の考え方に従うことだとマジメに思っている学生も珍しくないとか。
 寅さんではないけれど、泥臭さ、一生懸命さが一番嫌われる。こういう若者と石丸氏の嗜好はぴったりかも。マスメディアの軽薄さについては後に触れますが、ユーチューブなどで論陣を張っている人にも、こういう若者に受けそうな軽薄な人が多いように思います。
 ちなみに古谷氏が「意識高い系」という言葉を使っているところが興味深い。「意識が高い人」とはむしろ逆の存在で、ウイキペディアでは、<自己顕示欲と承認欲求が強く自分を過剰に演出するが相応の中身が伴っていない人、インターネット(SNS)において自分の経歴・人脈を演出して自己アピールを絶やさない人などを意味する俗称」と説明しています。<本当の意味で意識が高い人の表面的な真似に過ぎないため、「系」と付けられている>ともあり、この「系」というのがいかにも現在の精神状況を反映しているように思います。

A 古谷氏はれいわ新選組が代表選挙をやったときに立候補した人ですね。

B そこで、前回も書いたように、今回ともかくも投票所に行った若者たちが今後、れいわ支持に向かうのか、石丸氏など維新の風潮になびいていくのかはきわめて重要ではないかとも思ってるんですね。
 ユーチューブ大学の中田敦彦氏との対談やテレビ「TVタックル」での発言を見ていると、「自民党政治の密室性を排する」とか、「国政には当面関心がない」とか言っていて、しっかりした印象も受けるけれど、突然、論理的には「明日地球が破滅する可能性もないわけではない」という意味で、「国政進出の可能性もある」、「広島一区とか」というふうなメディアが飛びつくようなことを言って敢えて波風を立てようとするなど、人間的な誠実さは感じられないですね。

C 橋下、ホリエモン、東国原などの人とは知的レベルが違うかも知れませんが、品性の無さは同程度かと思います。「論語と算盤」の観点からすれば、算盤ばかりで論語を勉強していない、片手落ちの人間なんだろうと思います。そうでなければ、一夫多妻制とか遺伝子組み換え人間といったことを早計に口にすることはないと思いますね、ましてや公共の電波を使って。

A 「義理と人情が、たとえわずかであっても、金絡みの世の中を救っているんだ」(宇江佐真理『髪結い伊三次捕物余話』の主人公、伊三次のセリフ)に共感する身としては、算盤だけの石丸氏には大きな違和感を感じます。

B 現代日本社会が抱えている大きな滓(氷山)の一部が一気に浮上したというか、可視化した印象があります。ここをよく考えないといけないですね。しかも、北川先生の言うように、蓮舫陣営は「完敗の説明も整理もできない」呆然自失の状態です。泉健太代表をはじめとする立憲民主党は、たとえ党首をすげ替えても、蘇生に向かえるかどうか。

C 文化放送「大竹まことゴールデンラジオ」で大竹まことが「選挙が終われば普通は沈静化するのに、今回は石丸伸二がメディアで引っ張りダコみたいな現象になっている」と指摘しつつ、こんなふうに述べていました。「これまで自公政権がずっと社会を引っ張って来たけど、何十年も低迷していて、給料も上がらない、誰がやっても良くならないという諦めムードの中、イキのいい人が出て来た。今までの政治は組織票が強く、若者の意見は届かない。そこに、この人は何を考えているんだろう?どうしたいんだろう?と年寄りも若者たちも、石丸現象を不思議に思っている」と。
 日刊ゲンダイは都知事選・都議補選の結果で与野党にショックが広がっており、その一因として連合会長の言動が問題だとして、以下の発言を紹介しています。

・ 選挙前後の芳野友子連合会長の言動に立民、共産、蓮舫が猛反発中しているが、連合会長が共産党排除を言う資格があるかは疑問である。労働組合は賃金引き上げのために組織されたものだが、企業が550兆円以上の内部留保を持つ中、連合はアクションを起こさず、労働貴族化している(精神科医・和田秀樹) 
 ・連合は一体どこを見ているのか? 労働者を代弁する組織なのか? 野党を応援しているのか? 第2経団連を目指しているのか? 第2自民党か? 自民党の手下のように振る舞ったり、立ち位置がさっぱり分からなくなっている。連合の動きが野党に対する誤解を招き、ひいては国民にとってマイナスに作用している (政治ジャーナリスト・角谷浩一)

 私としては、自民党トップと会食する連合芳野と大手マスコミ各社トップが日本の政治・経済の低迷化を加速している元凶だと思いますね。

B いよいよマスメディアが登場しました(^o^)。今回はっきりと可視化されたのがメディアの悲惨な状況でもありました。その象徴的事例として、ここでは朝日新聞政治部記者K氏の蓮舫批判というか、これが政治部記者なのかと根本を疑わせるケースに触れておきます。
 K氏のⅩの書き込みは右の通りだが、文字起こしすると、こうなります。「ザ蓮舫さん、という感じですね。支持してもしなくても評論するのは自由でしょう。しかも共産べったりなんて事実じゃん。確かに連合組織率は下がっているけれど、それは蓮舫さん支持しなかったかではないでしょう。自分を支持しない、批判したから衰退しているって、自分中心主義が本当に恐ろしい」。
 芳野連合会長が「蓮舫陣営は共産党から支持されたことで票を逃した」と余計な横やりを入れたのに対して、蓮舫氏が「小池氏を支持した人に言われる筋合いはない」と反論したことに対して、茶々を入れた投稿ですね。小中学生なみの書き方「じゃん」。
 こういうことを朝日新聞政治部記者が書くようになった。本コラム53回でやはり朝日新聞編集委員の朝日デジタルでの書き込みを取り上げたけれど、あれも新聞記者の素質を疑わせるものでした。いまの朝日新聞にはジャーナリズム精神と無縁のこの種の記者が過半を占めるのではないかとさえ思わされます。
 先日、ある会合で汐留シティセンターの42回レストランから朝日新聞社屋を望む機会があったけれど、再開発ビル群に囲まれた朝日新聞ビルのなんと小さく見えたことか。後ろに広がるのが築地市場跡地ですが、その再開発事業を推進するのは、明治神宮外苑再開発も手がける三井不動産を代表企業とするグループで、構成企業にはトヨタ不動産、読売新聞グループ本社、鹿島や清水建設、大成建設、竹中工務店、日建設計、パシフィックコンサルタンツとともに朝日新聞社も名を連ねています。
 前回、「組織のトップが無能であると、自分の非力を補完する有能な人材を回りに集めるのではなく、むしろ自分の地位を脅かす有能な人材を排除し、自分を忖度して動いてくれる、あるいは自分の地位を脅かさない無能な人材を集める」と、組織における「無能移譲の原則」とも言うべき〝法則〟にふれたけれど、朝日新聞はこのところどんどんダメになりつつ、いよいよダメな人間を培養してきたのだと思います。
 もちろん、それは自民党にも、野党にも、企業にも言えますね。小林製薬、東京モータースなど世襲企業の名がすぐ浮かぶけれど、日本の政治をダメにしたのが世襲議員でもあります。

A 新聞記者劣化の一つには、貴兄の若き記者時代に於ける田中哲也氏のような、先輩記者に恵まれなかったこともあるかも知れませんね(㊸、『混迷の先に激変の兆し』補遺として「これが新聞記者だ 反骨のジャーナリスト田中哲也」を収録、アマゾンで販売中)。
 氏の任侠三部作は好きな歌です。またスナックで歌おうかな(^o^)。ちなみにこれもときどき本コラムに登場してもらう友人のH氏も記者の劣化を憂いて、「朝日は戦前戦中に回帰するのか!」と嘆いていました。

B 以前、「『安倍国葬』に見る日本の明るい闇」(『山本太郎が日本を救う』所収)をテーマにしたことがあるけれど、戦前の「暗い闇」とは違い、ある意味ではもっと絶望的な「明るい闇」がいま日本を覆っているといえますね。
 僕が心配しているのがこの地滑り的流動化が、これまで山本太郎やれいわ新選組が営々として掘り起こしてきた無党派層、若者層の政治への掘り起こしを促進する方向に働くよりも、むしろ引きはがしに向かうのではないかということです。
 ちょっと気になるのが選挙後の20、21両日に共同通信が行った世論調査で、れいわ新選組の支持率が3.3%と前回(6月22、23日)の5.1%より減り、次期衆院選での比例代表制で投票する政党では3.0%とやはり前回の4.4%より減っていることです。
 自民の裏金問題がピークのころ、次期選挙では自民激減、立憲大幅増という予測もありましたが、あのころ(と言っても数カ月前)までは人びとの意識に政権交代への幻想があったけれど、事態はまたがらりと変わりつつありますね。

A 我々としては、地道にやっていくしかないですね。昨日は事務所のポスターを張り替えました。 

[空気を読まない馬鹿にしかこの国は変えられない]
[世界に絶望してる?だったら変えよう]

 誰が考えたのか実に力強いメッセージですね!山本代表の顔はますます風格を感じさせます。
 グループラインでれいわサポーターズ三重の仲間からいいねの大絶賛。参加した時は40名弱だったけれど、今では総勢60名を超えました。何よりも皆若くて、30代から40代前半のメンバーが多いのが強みです。活動量も多く、中でも女性陣ががんばっています、主婦も多い。

B 海の向こうではとうとうバイデン大統領が次期大統領選からの撤退を表明しました。土壇場まで引きずったことの痛手は大きいけれど、ともかくも彼は撤退を決断した。民主党も新大統領候補、カマラ・ハリス副大統領を支援する態勢を立て直し、トランプ候補に堂々と対決してほしいですね。