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矢 野  今日は学生ばかりでなく、社会人の方にもお集まりいただいています。インターネットで話しているのとは違う、生の現場にいる、自分がその地に足をつけているということは、これはこれで非常に大切なことで、この場所と時間を有意義に使っていただくのがいいと思いますね。参加者もそれほど多くないので、この際、二木さんにこういうことを聞きたいとか、関根さんのバイタリティの源は何かとか、粟飯原さんのようにミーハー道を究めたいとか、積極的に質問してください。

<「ホームページ作成の基準」は何か>

吉 原  ごく身近なことからビジネスのことまでいかがでしょうか。では龍口さん、いかがでしょうか。彼女は社会人です。
龍 口 私もあるところのホームページづくりを担当しているんですが、一番困ることがホームページを使ってくださる人やターゲットの人が、年齢も性別も、コンピュータの環境とかまったくバラバラなんですね。あるデータを提示したいときに、環境も違うし、インターネットにあまり詳しくない人もいるし、また詳しい人もいる。そういうときは、どういうふうにまとめて提示していけばいいのか、すごく悩んでいるんですけど、どういうふうに気をつけておられますか。
関 根  障害者、高齢者に使いやすいという部分はアクセシビリティという言葉で呼ばれていますし、使いやすいというところはユーザビリティと呼ばれているんですね。ウエブのユーザビリティに関しては、いろいろな本が出ていますので、そういったものをスタディされたほうがいいと思います。
 おっしゃるとおり、ウエブというのは普通の製品と違って、ターゲットユーザーをすごく絞りにくいわけですね。極端な場合は、小学生から100歳の人まで全部見ているし、初心者からバリバリのおタクまで見ている。どうすればいいのかというのは、やっぱりそこはユニバーサルデザインですよ。どんなユーザーでも、きちんと構造化されたデータを使いやすく提示されたときに、怒る人はまずいないんですね。
 ですから、秋田市のサイトのように、ガンガンにユーザビリティーを追求したサイトなどをいくつかサンプルとして勉強なさってください。ユーザビリティに関しては、いろんな本が出ていますし、雑誌『月刊ニューメディア』には「Web Usability & Accessibility」という連載があって、評価レポートをもう30回ぐらい掲載しています。
 ユーザビリティはこれからの企業にとって死活問題になりますので、このエリアの勉強はぜひしておかれたほうがいいと思います。かつては、ユーザーはお店に行って、製品が使いにくいか使いやすいかわからないで買って、お金を払って家に持ち帰った後で、使えないことがわかったりするわけね。この場合、お店のほう勝ちなんですよ。
 いまはネット社会で、先に情報を得てからお店に行きます。ですから企業のサイトやそこで紹介した製品が使いにくかったら、お客さんはほかの企業に逃げてしまいます。今後はこのメディアのスタディはものすごく大事になってきます。たいへん難しいことです。
龍 口 勉強になりました。もう少し本を読んでみようと思います。

<キーワード検索のコツを教えてください>

矢 野  僕の生徒にも聞いてもらおう。中嶋さん、何か質問はありませんか。
中 嶋 一番お聞きしたかったのがキーワードやカテゴリー分類のことです。探したいことがあって、いろいろ打ち込んでも「一致しませんでした」というメッセージが出てくるばかりで、結局、面倒くさくなってやめちゃうことがすごく多くて……。どういうふうに何を基準にして打ち込めばいいのでしょうか。
二 木 カテゴリー検索とキーワード検索の兼ね合いがあると思いますが、一つはバルーン(データ空間)を絞ったほうが早いはずなんですが、ごく原則ですけれど。例えばYahooのように、カテゴリーを分けている場合がありますね。社会とあって、そこに福祉とあって、例えばそこにもっと違う歴史があったり、すごく様々なものがサブカテゴリーとして入っている。ですから、ツリーをひっくり返したように、様々なバルーンがいくつもあるわけです。
 カテゴリーはどう使うのがいいかというと、ジャンルがはっきりわかっている場合は、段階を下に降りる。そうして、小さいバルーンの中で探す。そのほうが早いというやり方が一つあるわけですね。小さいサブカテゴリーのバルーンの中になければ、一つ階層を上げる。
 Yahooで最初に出て来る検索窓にいきなり仕込んでしまう方が多いと思いますが、あれはすべてのカテゴリーを入れたフルバルーンの中から探してくるわけです。ここで探せないと、提携しているGoogleのほうへキーワードを投げて、検索した結果が返ってきます。ですから、そういうサイトのデータ構造をまず自分の頭の中で思い描くと、この辺にありそうだとか、この分野になければたぶんこっちの分野だろうとか、バルーンを分けることが自分の頭の中でできます。そうすると割と合理的です。早い。具体的にどういうキーワードでヒットしなかったりするんですか?
中 嶋 ダイビングについて調べたいときがあって、「ダイビング」でやったら出て来なくて、もっと詳しく「スキューバダイビング」って入れたらやっと出て来たという感じだったので……。
二 木 どのキーワードで分類しているかというのは、検索サイトによっても癖があるんですね。逆に自分でサイトをつくるときには、どのキーワードにしておけば最もヒットしやすいか、一般的な分類を考えたほうが合理的になってくると思います。「スキューバ」の場合でも「スキューバ」と打ち込んで出てくるか、「スクーバ」か、そういう表記のばらつきははあらかじめ考えなくてはいけません。何通りか、私もよく試します。
 例えばダイビングだと、All About Japanではどういうふうに分類していらっしゃいますか?
粟飯原 ダイビングというガイドがいたと思います。そのガイドがダイビングの情報を、初心者向きとか、実際に行く先を探している方向きとか、いろいろ分類をして、このホームページを見るといいですよ、ということを整理してお知らせしていると思います。All About Japanというサイトにたどり着かれるまでが大変なのかもしれないですよね(笑)。
二 木 あとは、いくつかのキーワードを組み合わせていくことだと思うんですが、たぶんダイビングとやって出て来なかったというよりは、欲しいものが出て来なかったのでは? おそらく多すぎたんですよね。その場合は、一番ベーシックなやり方としては、キーワードを組み合わせていく。私はGoogleを使うとき、わざわざキャッシュのほうで引くことが多いんですよ。
 キャッシュというのは、Googleが2週間前に検索してきた世界の30億ぐらいのバルーンを、別のデータ・バルーンとして持っている部分があるんですね。Googleで引いてヒットをしたところをクリックすると、そのサイトのいまの状態のところに行きますが、キャッシュという小さい、アンダーラインされている部分をクリックすると、2週間前のデータに行くんです。このキャッシュは、どうしていいかといいますと、キーワードで引いたものが、ハイライトされて出てくる。だから、長い文献を探しているときは、私は探すのが面倒くさいので、あらかじめキャッシュのほうで引いてしまう。三つのキーワードを使った場合は、3色分けて出て来るんですね。だから、それぞれのことがどこで出て来るかというのを探しやすいので、怠け者の裏ツールです。
吉 原 私はわからずにキャッシュを愛用していました。
関 根 二木さんに本を書いてほしいな。
二 木 もう散々書いたんですよ。インターネットマガジンで検索をずっと連載していたので、それはまだサイトに出ています。

<有名サイトがますます有名になる構造>

矢 野 小島君はどうですか?
小 島 検索エンジン自体にヒットした数がありましたが、そこに限界があるんじゃないかなと。検索エンジンを選ぶ人が誰かいるということで誰かが選んでいるとか、ヒットしないサイトがあるんじゃないかということを疑問に思っていて、そのあたりのご意見をお願いします。
矢 野 いまの質問はたぶん、検索エンジンそのものに仕組まれたバイアスがかかっているのではないかということだね?
二 木 とても大事な質問をありがとうございました。「情報と権力」ということで、これは一大テーマになる部分なのですが、おっしゃるとおりです。Googleのやり方は、コアサイトにまずポイントを与えるんですね。最も評価されているというサイトをまず100点と数えまして、その100点のサイトからリンクされているサイトが50点として配分していく。ですから評価というものが、ある意味でサイト同士の相互評価を反映してくることになるんですね。
 これは社会学的に見ると、人間関係もそういうところが大きい、VIPはVIP同士でお互いをほめあっているじゃないかという、どこかで出てきそうな話ではあるのですが、インターネットというのは、人間関係をかなり反映しているものでもあります。そのようにインターネットの中の世の中というのが再現されつつあるという動きがたしかにあります。
 ですから、有名サイトがますます有名になっていくという構造があります。私はあまのじゃくなので、ときどき最後のほうから見たりするんですが、検索エンジンで上位に上がって来ないものの中に重要なものがいくらでもあるはずだということ、そして情報の重要性とか評価というものは、そのとき自分が何を必要としているかという、使う側との関係性で決まってくることですから、これはいい、これは良くないということを、じつは一般化することはできないということですね。検索サイトと違うもの、あるいはそれ以外の指針を複数もって、そう思いながらいつも使うと、おもしろいのではないかと思います。
小 島 ありがとうございました。

<関根さんの天職発見のいきさつは?>

矢 野 だれか自主的に質問する方はいませんか(笑)。
粟飯原 関根さんにお伺いしたいのですが、自分の天職に出会うまでにすごく試行錯誤されたという話がありました。私はミーハーなサイトをいろいろ立ち上げているんですけど、一生の仕事として何をしたらいいんだろうかとか、自分はどういう部分が本当は合っているんだろうとか、すごく考えるときがあるんですよ。どういうふうに試行錯誤されて、そこでネットがどういう価値をもっていたのかといったことをすごくお伺いしたかったんですけど。
関 根 それは、私の本を読んでください(笑)。前半は本当に試行錯誤のかたまりでした。よく生きていたねって言われるぐらい、落ち込みを繰り返していたという話なんですね。 なぜ天職が見つかったかというのは、よくわからないんですよ。でも、やっぱり出会いでしょうね。出会い系の話じゃないですよ(笑)。人ってやっぱりだれかに出会って、そのいろんな人たちが「君の仕事はこれなんだよ」ということを、きっとメッセージを送っていたんだと思うんですよ。途中まではそれに気がつかなかったんだけど、ある日、ふっと「そうか、これをやればいいんだ」というのがわかっちゃうときがあるんです。
粟飯原 ある日わかったというのは、どういう感じでわかられたんですか?
関 根 うーん……いろいろ。啓示と言ったら話が大きくなっちゃいますけど、メッセージがだんだん読めてきた瞬間というのがあるんですよ。テクノロジーフェアをやっていて、どうして私がブースマネージャーになったかよくわからないけれども、ある日突然推薦されてなったときに、周りがガンガンのハイテクの中で、こういうアナログのものを出していいのかどうか悩んでいた瞬間があるんですが、そのときにやっぱり「これは君の仕事だよ」というふうに誰かに言われたんですよね。頭の中で。ポンと。
二 木 その後はもう迷わなかった?
関 根 うん。その後は完全に突き進んだという感じですね。
二 木 いま「出会い」とおっしゃいましたけれど、それぞれものすごく違う人たちと会っていると、その中で、もしかしたら私はこっちのほうが向いているかもしれないと思う瞬間はありますね。だれでも言えることなのかもしれませんけれど、そういう意味では周りの人々に感謝しています。
関 根 いろいろな人に出会って、その人たちからいっぱいもらっているんですよ。生まれてきて出会った人たち全部が、私に何かを教えてくれているんだという気がするんです。だから、それを聞きとれるかどうかの違いかなと思うんですね。
 でもある歳までは、一生懸命みんなが教えてくれていたのに、全然それが自分でわかっていなかった。じつは、すごく落ち込んだときとかに聞こえちゃったりするんですよ。だから人間は落ち込んだり、悲しんだりするほどいいのかなという気もちょっとしています。

<「コム人対談」から引用すれば>

吉 原 「コム人対談」から気になったところ、気に入ったところを抜き書きしてきたので、読み上げていいでしょうか。最初は二木さん。「物事をはじめるたび、器が大きいという悪癖があり、あとで苦労します」、「サーチエンジンでは探せないリソースを探し出せるリストという糸がありました。その意味で、情報の選択につくり手の価値観が入っているサイトです」、「思わずわかったようなことを言っていますが、勘違いもしょっちゅう。天然ボケの日常です」とおっしゃっています。
二 木 最後だけはとっても真実です(笑)。
吉 原 関根さんは「私、かっこいい障害者とダンディな高齢者をたくさん紹介してほしいんです。それは、ユニバーサルデザインが実現した社会においては、弱者ではない人々です。うちの登録社員の方で、80歳でネットを駆使して精力的にお仕事をなさっている方もいます。歳をとることは決して不幸ではない。歳をとったからこそできることもあります」。
関 根 私もとてもミーハーなんですよ。スタンフォード大学にかつて頚椎損傷で首から下は動かないんだけど、すごくハンサムなお兄ちゃんがいまして、彼に会いたくてスタンフォード大学に毎年通っていたんですね。その人のこと、NHK特集で番組にしちゃったんですよ。だから、かっこいい障害者とダンディな高齢者でいっぱいの日本だったら、自分が歳をとることが楽しみになるじゃないですか。矢野さんもそんな一人よ(笑)。
吉 原 「ユニバーサルデザインというのは、別に遠くに住んでいる高齢者や障害者のためだけではなくて、これから歳をとっていくあなた自身が明日困らないためのもの。明日はわが身なんですということなんです。自分に使えないものであふれた生活なんて、考えただけでうんざりしますね」。
関 根 そのとおりです。
吉 原 粟飯原さんは、「私は初めてお目にかかる方から、意外と普通ですねと言われることが多いんです。私自身も本当に何か強烈な個性をもつているわけではないんです。だからなのかもしれませんが、普通のOL、普通のミーハーの気持ちを忘れたくないなという思いがあって、普段の生活の中で思いついたことを地に足をつけてやっていきたいと思っています。地に足のついたミーハーという言葉が気に入っていて、私のポリシーでもあります」とおっしゃっています。今日は本当にありがとうございました。
矢 野 本当に素晴らしい発言が並んでいますね(笑)。ほかに質問はありませんか。

<来年からSEになりますが、コメントをお願いします>

女子学生  私は商学部4年で、SE(システムエンジニア)として来年から働くんですが、何かコメントをいただけたら、お願いします。
関 根 SEですか、頑張ってくださいね。いろいろなノウハウがいると思いますが、プロジェクトマネージャーを目指して頑張っていただければと思います。いろいろなところに目配りがいりますし、ウエブベースのシステムを組むことも多いので、プロジェクトをきっちりこなしていくだけの能力は必ず必要になるんですが、最後は人間性です。
 SEで一番大事なのは、いろいろな人たちをまとめていく能力だと思っているんですね。まずは人をきっちり動かしていく能力を身に付けていただければと思います。文系のSEは大事なんですよ。じつはIBMでも、同期は文系理系半々で採っていたんです。そうしないと、クライアントのアプリケーションがわからないから。理系の人といっしょにやっていく必要があるんだけど、商学部の方はかえっていいSEになれると思います。
粟飯原 私もNTTに入ったときは、配属された部署で一人だけパソコンが使えなくて、マックを立ち上げて「マッコス(MAC OS)って書いてある」って言ったのを覚えているんですよ(笑)。恥ずかしいくらい何も知らなかったんです。NTTからリクルートに転職を一度しているんですが、「会社の常識、社会の非常識」とよく言うんですけど、それぞれの会社の中で常識は全然違って、いつの間にか一地点にいることで、視点がすごく固定されちゃうことがあるんですよね。だから、これから社会人になられる方は、会社に入った後に、社会の人といつもネットワークを持っていて、社会の人が見たときの視点というのを持っているのがすごく重要だと思います。
女子学生 ありがとうございました。



矢 野 そろそろ時間も押してきました。個別に聞きたいことがあれば、前に出てきて聞いてみてください。
 今日は多忙な時間を縫ってご参加いただいたパネルの皆さま、どうもありがとうございました。これにて一応おしまいにしましょう。会場のみなさんは、アンケートに記入してご返却ください。今後の参考にしたいと思います。
 このシンポジウムは、法学部の主催ではありますが、明治大学の短期大学、情報科学センター、SHIPプロジェクトなどのご協賛をいただきました。最後になりましたが、厚くお礼申し上げます。また法学部の法情法学担当の夏井高人教授、教務主任の阪井和男情報科学センター教授、および法学部事務室のみなさんにはたいへんご尽力いただきました。いささか個人的ではありますが、お礼申し上げます。また、コンソールの面倒をみていただいた経済学部の和田聡先生、ありがとうございました。それと裏方として働いてくれた授業の学生有志の諸君にも感謝を。<文責・矢野>


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