[Japanese] [English]







吉 原 みなさま、今日はありがとうございました。私は編集者、フリーライターとして仕事を続けてきました。2年ほど前に矢野さんとお目にかかり、NTTコムウェアさんが発信するホームページで「コム人対談」のお話を進めてきました。企画を通すのに半年から1年かかり、ようやく連載も1年を過ぎましたが、お迎えしたお客さんのお話は本当に興味深く、私自身の仕事にもたくさんの影響をいただきました。
 いまは小学館の『育児の百科』をやっています。いままでになかったユニバーサルな百科をつくりたいと思い、「スモールステップの子育て」をキーワードにしました。すべての子育てがスモールステップであっていい、ゆっくり育つお子さん、見守るお母さん、周りの方たちへのメッセージも盛り込んで、これまでにないものになるんじゃないかと。このコンセプトは胸のどこかにあったのですが、これだと全体が連動して動き出したのが締切ぎりぎり。ようやくそこへ向かって収斂していこうという勇気をみんなが持てるようになりました。
 矢野さんに「締切ギリギリなのに、やっとコンセプトが見つかった」というお話をしたら、「終わってからじゃなくてよかったね」と言われて(笑)。ショックと喜びがあったのですが、いろいろな方にその話をすると、皆さんにその通りだと言われて、いま頑張っているところです。お母さまになる折には、ぜひ本を手に取っていただきたいと思います。

<パソコン使用率86%をめぐって>

 昨日、明治大学の矢野クラスに出られた学生さんたちに事前アンケートをとらせていただきました。母数は50です。法学部の1、2年生を中心にした「情報文化論」と「情報編集の技術」の授業を受けている生徒さんたちです(以下、何人かの学生に手伝ってもらい、手書きで急遽作成したグラフを掲げながら報告)。パソコン使用率86%。どうですか。

粟飯原 すごく高いですね。びっくり。
関 根 男女の差がないのがいいですね。。
吉 原 粟飯原さんは、学生時代にパソコンがなかった?。
粟飯原 私は自分でパソコンは関係ないと思っていたので。学生時代に使っている人はいましたけど、自分では縁がない世界だというふうにその当時は思っていました。これだけ使っていらっしゃる方がいるというのは素晴らしい。
矢 野 ITっぽい講義を受けている学生であることが影響していますね。全体としては、ここにおられる方々の平均でいうと、もう少し使用率は低いかなと思いますね。
関 根 パソコンを使っていない14%の人の理由は聞いてみましたか?
吉 原 あ、聞いてなかったです。今度、矢野先生のサイバーリテラシーの授業などで、改めてアンケートを取ってみたら…おもしろいですね。
二 木 いまここにいらっしゃる方で、残りの14%に入りそうな方はいらっしゃいませんか。パソコンは使っているけど、インターネットは使っていない人はいらっしゃいますか?
関 根 どっちも使っていない人でもいいんですけど。
二 木 全員インターネットを使っていらっしゃるということですね。大変な率ですね。100%ですよ。
吉 原 ケータイ所有率は100%です。その中でインターネットメールを使っているかどうか。
二 木 これはほとんど差がありませんね。女性のほうが多いかと思いました。
吉 原 写メール。これは女の子が30%。男の子が少ない。「そりゃあ、使いませんよ」って、だれか言ってましたね。
関 根 なぜ使わないのか、理由を教えてください。
男子学生 男同士で写真を撮りあうのは気持ち悪いからだと思います(笑)。
関 根 「ここのCDショップのお姉さんはちょっとかわいいよ」って言って撮ったりしない?
男子学生 使おうと思わないですね。
関 根 教えてあげないよ、というところかな。

<デジタル万引きがはやっている>

吉 原  ネット万引きの話をしてらっしゃいましたよね。
関 根 ここのところ新聞を騒がせている「ネット万引き」というのがあって、写メールなんかで雑誌記事とかをカシャッと撮って帰ってしまうのが増えているんですね。あれは本屋さんとしては万引きじゃないかともめているところです。
二 木 あれは万引きと言うべきなのか、私は疑問があります。そのぐらい、いいのではと思います。
吉 原 実売数に影響が出ているとも言われていますが?
二 木 本当に本を持っていく万引きが3%から5%あって、これは非常に大きい数字です。昔のように本当に欲しい本を向学心のある方がそっと1冊持っていって、いつまでも後ろめたいといった、そういう古典的な万引きではなく、棚の端から端まで持っていく人がいる、そういう万引きが多いということを書店の方から聞いています。万引きというのはそういうことを言うって、朝日新聞に言いたくなったんですけど。
吉 原 それが「リアル万引き」(笑)。
矢 野 「デジタル万引き」問題は興味深い。僕らが本屋に行って、レストランの名前や電話番号や地図を見て、一生懸命覚えて帰るということはしょっちゅうやっているわけね。それは許される、大目に見られている。ところがそれをデジタル機器を使ってカシャッとやると、完ぺきなコピーになるので困るという話ですよね。
 それをどう考えるかはなかなか難しい。最近、テレビのワイドショーでもよく取り上げられていますね。ある番組で弁護士が「記憶の延長上にあるので現在の法律では罰せられない」と言ったらしい。本人の記憶、あるいはちょっとメモすることを大目に見る延長線上で考えると罰せられないかもしれないが、行為の意味としては、それらとまるで違ってきている。その辺がデジタル情報のやっかいなところで、デジタル万引きをどうするんだというときに、法改正という形でいくのか、新しい倫理を考えなくちゃいけないのか。僕はそこを情報倫理の問題として捉えたいと思っているんですね。

<位置情報の使われ方>

吉 原  ミニコラムでした(笑)。女子20人、男子30人なので、同じ分母じゃありませんが、GPS、位置情報もみなさん使っていらっしゃるようです。
粟飯原 入っているというか、使っているということ? 何に使っていらっしゃるの?
関 根 今日の参加者で使っている方がいらっしゃったら、使い方を伺いたいな。
男子学生 お店検索のサイトとか、たまに友だちと会ったとき、この辺で飯を食わんかというときに探しますね。そういうので利用します。
粟飯原 うちでも使いたいなと思いました。
関 根 位置情報でコメントしていいですか。私たちは東大、慶大などといっしょにユビキタス・プロジェクトをやっているんですけど、その中で「ここメモ」というプロジェクトを動かしているんですね。街の中で「ここはベビーカーがすれ違いにくいね」とか「このお店は車椅子が通れないよね」というときに、そこの場所をカシャッと写真で撮って、GPSデータといっしょに、例えば市役所のインフラのサイトにポンと送る。「ここが歩きにくいんだよ、この歩道はちょっと穴が開いているよ」という情報を写真とともに送る。それによって、ほかの高齢者も「ここにはもうちょっと緑が欲しいよね」などと、その中で会話ができるような仕組みができないかなと思っているんですね。
 そういうのがあると、みんなで自分たちの住んでいる街を少しずつ良くしていけるんですよ。だから、そういう形でインターネットとか携帯の写真とかGPSとか使えるようにならないかなと思っています。いろいろな使い方ができるということで、ミニコラムでした(笑)。

<情報発信は日記サイトからはじめては>

吉 原 学生さんの協力で、かわいらしいグラフにできたのは以上です。その他インターネットについて、どんな使い方をしているかという答えを書き出してみました。粟飯原さんのなさっているようなグルメ情報では、「ケーキ屋さんを探す」、「割引券を取る」。「人、物、何か気になったらすぐ検索する」。あと、日記がけっこう出ていました。「犬を飼いたいから犬育て日記」、「20代で出産した友だちの子育て日記に注目している」とか。オークションもゲームも。音楽はやはりすごく多い。本当に生活の中に入っている感じです。ホームページで発信している人もけっこういる。インターネットでは、「もっと生活に役立つサイトや自分の興味にあったサイトを見つけたり、活用したりしたい」ということですね。インターネット関連の仕事につきたいという方は男女ともに一人ずつ。ただこれは、どんな仕事があるかあまりご存じないということもあるのでは。
 質問もありました。先ほどのお話の中にたくさんヒントがあったのですが、「あまりにたくさんの情報が出て来るので、その見極め方がわからない」、「ホームページを何度もつくって試行錯誤してきたが、アクセス数を稼げるホームページをつくるにはどうしたらいいか」、「キーワード、カテゴリー分類、そこら辺のポイントがわからない」、「一致しませんでした、というのがすぐに出て来る」など。男子から、「出会い系で気軽に異性と会うのは危険ではないか」(笑)。「ホームページのタブーについて詳しく知りたい」とか。
 ホームページをつくりたいと思っている人が、出てきた数だけでも10人ぐらいです。発信者になりたいと思っている方が多いんじゃないかと思いますが、いかがでしょうか。
粟飯原  私は、インターネットの一番の醍醐味は自分で発信することにあると思うんですね。先ほど日記サイトとおっしゃっていたのですが、一番簡単なのはインターネット上でまず日記サイトをはじめてみて、日記といっしょに簡単な自己紹介を付けておく。例えば新しい友だちと会うときに、事前にホームページを見ておいてもらうと、「こういう趣味の人なんだ」とか、「こういうところに興味があるんだ」ということを共有できて、初めて会ったときに距離がものすごく短かったり、あっという間に深い友人になれたり。発信をはじめていくのは、すごくおもしろいと思うんですよね。
 そういうふうにして発信になれていったときに、自分の興味をもつテーマでメディアとして発信するならどんなメディアにしたらいいんだろうということを考えていくのが次のステップでしょうか。初めに自己表現、次にメディア表現みたいな感じかなと個人的には思います。
二 木 ホームページをつくる場合に迷うことは、大きく分けて二つあります。一つはサイトの構造やデザインをどうするかということ、もう一つは中身をどうするのか、何を発信したいのか、発信したいことがあるのかないのか、何が私にとって一番得意でおもしろいかということ。いまおっしゃった日記は、私という人間は世界に一人しかいないので、まさに私を出す上でとてもいい手段だと思います。
 質問の「ホームページのアクセス数を増やすコツは」ということと関係があるかもしれませんけれども、例えば逆に自分がどういうところにアクセスするかを考えてみると、ある分野の情報がしっかり載っていて、そこが一番であるという場合がまず一つ候補にあがると思います。そうすると、どうすればいいかというと、例えば最初の時点で、まだない情報は何かということをインターネット上でリサーチをすることなんです。既にたくさんの類似サイトがあるところよりも、こういうものが求められている、こういうものはまだないのではないか、ということをまず知ることですね。「OL美食特捜隊」も、そういうものは以前になかったわけですね。
 自分がやりたいことがあった場合、もちろんそれを大きく演出すること、それを充実させること、人に使いやすくさせることは大きな条件になると思いますが、それと同時に、そういうものが既にあるのかないのかというリサーチをなさるといいのではないでしょうか。
関 根  私も95年に日本IBMの中で、コンテンツが5個しかなかったときに、6個目のコンテンツをつくって、そのウエブマスターをしていました。中身は世界初の障害者支援技術のデータベースです。当時で月間30万以上のアクセスがありました。本当に世界初だったんですね。その後にほかの国でも同じようなのはつくりましたけど。いまは「こころWeb」という名前で、やってくださる方に引き継いでいただきました。世の中に必要とされていながら存在していないデータを出すというのは、インターネットの特質だと思っているんですね。
 例えば「旅の窓口」で、泊まった人の評価を真剣に読んでから宿をとったりしますよね。やっぱり、必要とされていながら、世の中に出回っていないものはたくさんあります。例えば、この学校の中でこの先生の講義がとりやすいとか、そういう裏サイトはないんですか?(笑) あってもいいですよね。この先生はこういう試験の傾向があるとか。世の中のニーズに対してアクセス数は連動してくると思っているので、ぜひそういうものを自分のこだわりで見つけていただければいいのではないかという気がします(矢野注:こういうサイトはたしかにあります)。

<インターネット上の情報の見極め方>

二 木  逆に私のほうも質問。これまでないものを出すということに関していえば、ユーザーの側からみると、類似のものがたくさんあった場合に、どう情報を見極めるかという質問がありますが、これについて粟飯原さんいかがでしょう(笑)。ちょっと聞いてみたい。
粟飯原 そういう意味では、All About JapanとかGoogleもそうですけど、ある情報に対して、その情報を評価している人がどれだけいるかみたいな、情報の格付けを行っていくことが重要になってくると思います。All About Japanの場合は、その道のプロというガイドが「この情報は信頼できる、信頼できない」と、人間の目で目利きをやりましょうと。
 Googleではアクセス数が多いページを信頼できるページだろうと見なして上位に表示するとか、そういうロジックを組んでいるわけですよね。そういう形でゴミ情報からすごく質の高い情報までいっぱいあるけれども、最終的には質の高い情報が上ってくるようなロジックが組まれていく世界になるのではないかと思います。
吉 原 二木さんにお聞きしたい思っていたのが、キーワード検索やカテゴリー分類のことです。
二木 情報の見極め方と関連してくることだと思います。キーワードで出せるものと出せないものがあるということをまず見極めるのがキーワード検索のコツですね。サーチエンジンで探せるものと探せないものがあります。その言葉が入っているということが最終的にその情報の意味にどういうふうに影響しているかというのが最後までわからないのがサーチエンジンなわけです。
 実際に言いますと、Googleなどのように、かつてはサーチエンジンで探せなかったことをプログラミングによってかなりのところまで探し出せるようにしているので、昔ほどキーワード検索は複雑でなくなっています。逆に言うと、複雑なキーワードの組み合わせが使えなくなって、分類できなくなってきていることが、私にとってはちょっとつまらないんですけれども。
 そういう意味では、いまはストレートにキーワードを入れればいい。あとはサーチエンジンによって認識の使い方が違いますので、初めて使うサーチエンジンの場合は、おっくうがらないで使い方のページを読んで、どういうふうにプラスで認識されるのか、それともバラバラで認識されるのか、複数のキーワードがどうなっているのか、フレーズ検索がどうなっているのかというそのサイトの基礎を、やはり最初に読まれたほうが後々のために合理的だ言えますね。
 カテゴリーということは、Yahooのような伝統を引き継ぎながら、All About Japanなどがやろうとしていることに集約されると思います。情報の見極め方に話を戻しますと、一つの分野を探すときに、最初にコアサイトを引き当ててしまう、機械的にキーワードを使ったりしながら探し当ててしまうほうが早いと思います。
 つまり、あちこちを探索すればそのうち見つかるだろうと思うのではなく、ここが本当にコアであるということが、いくつか続けて見ていくうちにわかってくるはずです。二つぐらいコアサイトを見つけると、相互に両方で紹介しているリソースがあります。そういうつながり合い、重なり合いというものを使いながら、つまりこっちとこっちを両方推薦していて、こっちも推薦していると。それぞれ質が違う、傾向が違うから、この一つがすべてだということにはならないわけですね。
 そういう意味で、厄介であると同時にそれをおもしろいと思っていくつか探してみる。詳しそうな人を探すというのは、一つの大きい手がかりだと思います。キーワード検索はとても細かいのですが、コラムの時間はないのでこの辺で(笑)。

<ネットの中で思いを寄せる「よせがきコム」>

吉 原  パネルの方の仕事ぶりについては、ぜひ「コム人対談」でゆっくり読んでいただきたいと思います。お三人とも、ご自身の興味に沿ってゆっくり歩いていって、おもしろいことや世界を切り開くようなことに出会われたということですね。頼もしく、勇気づけられる感じがします。粟飯原さんの「よせがきコム」を関根さんも使われたとか。
関 根 じつは、お友だちでM&M研究所の三石玲子さんがこの間亡くなられたんですよ。寄せ書きって、結婚式や、矢野さんのご卒業のようなときに、私たちが会社をやめて次のところへ移ることを「卒業」と言うんですが、そういうときに「おめでとうございます」とお祝いするのが普通ですけど、お亡くなりになられたときに、「さよなら」と書くのに、よせがきコムってすごくいいメディアだと思ったんです。
 私はこの数日間、メールチェックを怠っていて、三石さんのお通夜にもお葬式にも行けなかったんです。「あーどうしよう。終わっちゃった」というときに、「よせがきコムがあります」と言われて、「あー、これがまだ残っていた」と。「よせがきコムだー」という感じでしたね。そこに「どうもお世話になりました。ありがとう」と書けただけでも、すごく私としてはうれしかったんです。だから、ネットの中で思いを寄せるというサイトをつくっていただいたことは、私はとてもとても粟飯原さんに感謝しています。どうもありがとう(笑)。
粟飯原 こちらこそありがとうございます。アイデアのきっかけをいただいたのが先ほどもご紹介した大塚さんで、日本で初めて女性向けのパソコン情報誌を立ち上げた方でもあり、私の大先輩でもいらっしゃるんです。
矢 野 大塚さん、よくいらっしゃいました。何か一言。
大 塚 みなさん、はじめまして。若いみなさんの間にこっそり入ってお聞きしようと思っていたら、いきなり指名されちゃいまして(笑)。日経BPという会社で、パソコン雑誌の編集長をやっております。今日のパネルの粟飯原さん、関根さんとは古くから親しくさせていただいており、今日はお2人が同席なさっているとお聞きしまして……。二木さん、吉原さんは初めてなのですが、どんなお話を聞けるかとても楽しみにして来ました。
 みなさんのお話を伺って思うのは、仕事、オンの部分、ビジネスと趣味、オフの部分をうまく融合させて、楽しみながら仕事を続けていけるというのが大事なんじゃないかなと。IT、ITと言っても、やはり最後は人と人とのつながりだと思うんですよ。アナログな部分でどんなふうにやりとりできるか、コミュニケーションできるかということが大事なんですね。これからIT社会に出ていかれる若いみなさんも、そういうことを考えられるといいんじゃないかなと、老婆心ながら思ったりしております。
矢 野 寄せ書きには、例えば結婚式に集まったという存在証明の意味もあって、その場で色紙をまわしてお祝いの言葉を書く、自分はそこにたしかにいたということだったんですね。逆に言うと、そこにいないと参加できないという制約もあったわけです。ところが、粟飯原さんのよせがきコムは、通夜に行けなくても追悼文が書ける。日本にいなくてもそこに参加できる。インターネットの長所をうまく生かして、小さいアイデアから大きなサイトをつくりあげた。そういうものをつくれば、みんなが利用するようになって、コミュニケーションの輪が広がっていく。そこが素晴らしいと僕は思っています。大塚さんもアイデア段階で貢献なさったそうで、今日はお越しいただいたうえ、発言もしていただいてどうもありがとうございました。
吉 原 じつは、私が矢野さんの卒業寄せ書きの発起人になりました。寄せ書きがどっと押し寄せたときはどうでした?
矢 野 そうそう。僕は対談で粟飯原さんのよせがきコムの話を聞いて、「なるほど、なるほど」と思っていたけど、自分と関係あるとは思っていなかったんですね。僕は去年の7月29日が60歳の誕生日で、朝日新聞を定年退職したわけです。そうしたら、程なくして寄せ書きが来ました。僕自身が連絡していない人も含めて、いろいろな方々が「おめでとう」とメールがドドドドッと来たときはちょっとびっくりしましたね。「おっ」と思って拝見して、非常にうれしい思いをしました。しかも返事を簡単に書けるように、システムがうまくできている。非常に感心もしたし、意表もつかれたという思い出ですね。

<ヒットするホームページの秘訣>

粟飯原  ヒットするホームページの秘訣は、今までにない情報を集めて整理することだとのお話があり、すごく共感してお聞きしましたが、もう一つインターネットのおもしろいところは、自分で情報を出すんじゃなくて、仕組みを用意することで、そこに情報が集まってくる楽しさだと思うんですね。
 よせがきコムって、寄せ書きをする仕組みはあるんですが、メディア的には何の情報もない。そこに結婚寄せ書きとか、お悔やみ寄せ書きとかができあがった瞬間に、メディアになっていくんですね。それがすごくおもしろくて……。私のサイトのつくり方としては、OL美食特捜隊もそうですし、All About JapanもHon-Caf_もそうですが、箱を用意して、その箱にみんなに情報を入れてもらって、みんなで豊かになっていこうよという発想なんです。それがすごくインターネットらしいなと思います。
吉 原 うーん、誰にでもできることじゃないのでは?
粟飯原 そもそもお題の出し方というのは、ツールがどれだけ洗練されているかというのとは別に、どういうお題を出したらみんなが書き込みたくなるかということで、みんなの中にもノウハウがあると思うんですよ。例えば、「仙台のみんなが、仙台のことについて語り合う掲示板をつくろう」と言っても、たぶんみんなあまり書き込む気がしないと思うんですよ。だけど、仙台にいる関西人が集まって、簡単に情報をやりとりしようとか、「仙台のカレーについて話そうよ」というふうに、お題にエッジを立てれば立てていくほど、みんなが「あっ」って思って話したくなる。私は『恋のから騒ぎ』という番組がすごい好きで(笑)、「お題が素晴らしい!」っていつも思うんですけど、ああいうお題の立て方をネット上でどうやっていくかということだと思っているんですけど。
吉 原 永遠のミーハー。素晴らしい。
矢 野 吉原さんが話した中で、僕が「コンセプトが見つかるのが、仕事が終わる前でよかったね」と言ったという話で思いついたんだけど、本を書いたり、記事を書いたりするときも、だいたいは書き終わってはじめて、自分が書きたいものはこれだったんだってわかるわけね。「書き出すときにここまでわかっていれば、ずいぶんいいものができたな」と思ってももう遅い。だから「吉原さんは、終わる前にわかってよかったね」と言ったわけですね。皮肉でも何でもないです。
『アポロンの地獄』という映画だったと思うけれど、「ああ皮肉だ、人生は始まったところで終わるのだ」と言うセリフがあった。よくわかりますよね。あるいは、ビスマルクというドイツの宰相が「人生は歯医者にかかるようなものだ。待っている間は長いが、自分の番が来るとすぐ終わってしまう」と言った。人生は、本当にすぐ終わってしまう。あるいは何か大事なことに気づいたときにはもう遅いということが多いんですね。だから、みなさんも、そういうことにならざるを得ないのだけれど(笑)、なるべくそうならないように、少しでも早く気づくというか対策をとるのが大事だと思いますね。


Copyright (C) CyberLiteracyLab