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矢 野  それぞれに興味深い話を伺いました。これからはパネルの皆さん相互の、あるいは会場の皆さんもまじえて、話し合いを進めていきましょう。
 まず山田さんに僕からお聞きしますが、消費者の下からの声を吸い上げていく「アットコスメ」のようなシステムは、化粧品でなくても、他の商品でも可能なわけですよね。例えば車とか。そういうのはあるんですか。


山 田 ございます。例えば本のサイトもありますし、レストランのサイトもありますよね。もっとニッチなもので言えば、ガンダムのファンサイトとか、非常に濃いやり取りがされていますが、おっしゃるとおり事業化するのは難しいというのはあります。それには化粧品の特性も関係していると思っています。化粧品業界は非常に大きなお金をマーケティングコストとして使っておりますし、プロモーションもコストをかけています。商材もこれだけ多くて、女性が使うサイクルも速いですよね。毎年、春と秋に大きく買い替えのシーズンを迎えますし、そういった意味ではマーケティングが必要とされる商材だと思っています。
 それを横展開するのは、ほかの方からよく言われるんですけれども、商材というところで非常に難しい。「アットコスメ」を一から立ち上げるには数億円のコストがかかっておりますし、やはりその業種に対して愛のある、インパクトのある方たちがいないと無理だとも思いますので、自分たちがそのまま横展開することは考えておりません。
 ただ、自分たちがメーカーなり業界に対してビジネスしているノウハウを、ほかのコミュニティサイトと一緒に模索できないかという活動はしています。その中には映画のサイトもあります。家電だと、クチコミといっても5年に1度とか10年に1度とか買い替えのサイクルも少ないですし、言葉として語りやすい商材とそうでない商材があって、その辺を考えていくと難しいとは思うんですが、消費者構造が変わっていますので、そういった意味ではいろいろな業種で似たような、これをアレンジしたようなモデルは増やせるのではないかとも思っています。


矢 野 会場から質問はありませんか。


<サイトが荒れないための工夫は?>

参加者 明治大学の阪井です。それぞれにご経験を踏まえた、元気のいただけそうな話でした。ちょっとお伺いしたいんですが、いわゆる利用者の方からのさまざまな意見をサイトで扱うにあたっては問題もあるんじゃないかと推測するんですが。例えば、大学の立場からしましても、以前インターネットを学生に開放したとたんに、ある女子学生から要望が出ました。大学周辺の食べ物屋の評判をサイトに載せたいということで、大激論になりまして、結局、その年には載せることはまかりならんという話になった。そのときの議論では、それぞれの学生の自由な意見ですから、当然、誹謗中傷ぎりぎりのような話も飛んでくる。そのときに載った意見に対して店からクレームが来たり、訴えられたりしたらどうするんだ、そういう議論でした。みなさんの場合は、そういうことに対してどのように考えて、どのように対処されているでしょうか。


山 田 おっしゃるとおりですね。自由な投稿を原則としておりますので、誹謗中傷だとか、逆に営業的な書き込みというのがもちろんございます。私どもはクチコミの投稿をすべて目で見てチェックをかけています。定期的にログをチェックして、明らかに悪意のある場合には削除なりの対応もとっているんですが、こちらからできることは限られておりますし、こういうものをゼロにはできないとも思っております。コミュニティの中で自浄作用が働くようなサイトいかに設計するかが一番の基本ですね。具体的にはどういうユーザーさんが過去どういうクチコミをしたかをすべてオープンにして、ちょっと怪しい書き込みがあったときには、他のユーザーさんがこの方のバックボーンをすべて見られるようにしています。プロフィルのページもございますので、そういうことでご自分でご判断をいただくしかない部分もあるんですけれども、できる限りのチェックはしています。


矢 野 小久保さんの「ゆびとま」は、同窓会という現実のコミュニティに基づいているので、それぞれが共通のバックボーンを持っていて、それが大きな自浄作用というか、発言についても自ずからブレーキが働くところがあり、その辺がなかなかうまい具合にできていると僕は思っていたんですが……。


小久保 当社の場合は学校というキーワードですね。そもそも学校というキーワードが自浄作用、規範性を持っているわけです。母校の先輩とか後輩に悪いやつが出て来るのを嫌うことがありますので、荒れるということがもともとありにくいサイトではあります。
 とは言っても269万人のユーザーがいるわけで、そこまで行くと、いい方ばかりとは限らないんですね。実際269万人ですけれども、ご登録をチャレンジした方は420万人くらいいらっしゃいます。私どもも24時間有人目視管理ということで、スタッフが全コメントをチェックさせていただいています。基本姿勢としては、インターネットは1秒で地球の裏側まで情報が伝達してしまうので、みなさんの中になるべく悲しい思いをする方がいらっしゃらないように、コメントを見させていただいる状況です。
 それは、実は大変なことでもありますね。でも、「この指とまれ!」はこういうサイトではないんだよ、ということをご理解いただいた方に集っていただきたいし、それをスタッフだけではなくて、ユーザーのみなさん同士がこんなこと「ゆびとま」上ではするなよ、と言っていただけるサイトになってほしいと願っています。スタッフだけではなくて、母校の世話役として1200名のボランッティアに集っていただいています。利益追求型の会社でありながら、ボランティアが1200名いらっしゃいます。見ず知らずの方がコミュニティのお世話をするのではなく、母校の先輩後輩が自分の母校をお世話するという形をとらせていただいています。


新 川 荒れるサイトという意味では、うちが一番荒れるサイトかもしれません(笑)。と言うのは、お察しのとおり離婚に直面している人、子育てのことで悩んでいる人、家庭内の暴力で悩んでいる人、こういう人はポジティブな志向で訪れることはあまりいないんですね。悩んで訪れる人たちなので、よく掲示板上で争いが起こっています。ある段階までは見ていて、これ以上はまずいなと思ったときに管理人が登場するなり、私が登場するなりして治めています。
 でも、治めたときに今度は怒りの矛先が私たちに向かってくるんですね。脅迫めいたメールが来たり、ひどいときには、これは妊娠中絶のサイトの投稿なんですが、宗教がらみで中絶は殺人だから許さないよといった類のもので、何度も脅しのメールが来て、最後は私の子どもに危害を加えるぞという内容でした。そういうものは管理側としてはひたすら無視、一言も返さずに無視を続けました。相手も何もできずに終わっています。無視することが何よりも効き目で、ちょっとでも慰めの言葉を返したり、反対意見のメールを返したりすると、それに輪をかけてさらにいろいろなメールが来たりするので、スタッフにもひたすら無視しましょうと(笑)。
 私はよく、「そこまで言われて、よく耐えているね」と言われるんですが、カウンセリングの仕事をしているので、わりと平気なんです。嫌なことは聞いてもすぐ出て行ってしまう、いいことだけ受け入れるという感じでやっています。


矢 野 ほかに誰か。パネルの方からでも。


<起業することの苦労について>

新 川 お二人の話の中にITバブルで辛い思いをしたとありました。私もNPOを設立する前に有限会社を株式会社にした過程があって、そこでITバブルがはじけて辛い思いをして、苦しみを味わったんですが、その辺の経験談をもうちょっと聞きたいなと思います。どのくらい苦しかったのか。私は子どもの千円のパジャマをなかなか決断して買ってあげられないくらい苦しい時期がありました(笑)。


小久保 苦しいのは実は今も続いているんです。「アットコスメ」さんに30万人の女性の会員さんがいらっしゃる。「ゆびとま」には60万人の会員がいらっしゃるんですよ。だけど、こちらは広告費でトントンかそれでも成立しないという状態。これは何なんだろうと考えると、「ゆびとま」には特徴がありそうで特徴がない。
 ユーザーが多いだけでは広告は成立しなくて、ネットバブルのときは「大丈夫、大丈夫。広告で行ける、行ける」と言って追い立てられたんですが、バブルがはじけて一番困ったのは、スピード感が変わったということです。いままで行け行けドンドンだったのが、逆風ですから。同じ人間がやっていますから、一生懸命行こうとするんですけれども、後ろ髪を引く人もいれば、前には壁が何重にもできている。壁を取り払っても、取り払っても壁がある、という状況で、「ゆびとま」の場合はビジネスもがなかなか成立しなかった。30万人の倍の60万人でも広告は成り立たない。何をビジネスモデルにするかということですね。
 少し光が見えてきたかなと思うのは、自分たちの強みであるシステム・ソリューション事業を持っていたことに気づいて、これから投資家のみなさまとご相談しなくてはいけないんですけれども、原点回帰ができそうだというところですかね。
「アットコスメ」で鏡もちというビジネスモデルのお話がありましが、広告の次にリサーチ事業というのが来ています。マーケティング・リサーチというのがもちろん強みだと思うんですけれども、当社の場合は特徴がないところを特徴にしたい。日本全国に散らばっているユーザー、それから8歳から80歳までの会員さんがいらっしゃるんですね。267万人の半分、100万人近い方は東京に住んでいらっしゃいますが、地方に何万人という会員を持っているサイトはなかなかないんですね。それを強みにしていける。幅広いユーザーと幅広い地域層、日本を網羅しているということ。これは世論調査のような領域におけるリサーチを呼び込んでいけるのかなと。リサーチ事業とSI事業に注力していきたいなと思っています。


山 田 先ほど、収支のグラフを見ていただいたんですけれども、計画的に1期目、2期目を真っ赤赤にしております。出資を受けられるだろうという想定のもとに赤にしていたんですが、2000年4月に一気に状況が変わりましたよね。本当にボロボロのマンションの1室で始めて、会社としてはあまり見た目も美しくないというか、大丈夫なんだろうかというような場所でやっていたにもかかわらず、それまではベンチャーキャピタルの方が出資の話でドンドンいらっしゃるんですよね。それをちょっと検討中だからと断ったりしていたわけですが、4月になって手のひらを返したように状況が変わってしまいました。そのときには焦るどころの話ではなくて、経理担当をしていた者の言葉がいまだに忘れられません。「自分の通帳よりも会社の残金のほうが少ない」と(笑)。来月の家賃や光熱費は大丈夫なんだろうとかという状況が3ヶ月くらい続きまして、その間、本当にラッキーなことにご出資をいただけるベンチャーキャピタルさんが見つかって難を逃れてきたんですが、その出会いがなければ今はないと本当に思いますし、苦しかった(笑)。


矢 野 苦しみを楽しんできたということかも。他にありますか。


参加者 お三方にそれぞれ質問なんですが、起業なさるときにフロリダのデータサーバーを使ったとか、インフラ面でご苦労なさったという話があったんですが、金銭的な話の他にこれは辛かったという話があれば。


山 田 なかなかいい人材が定着しないというんでしょうか。途中である程度のフェーズを終了すると、達成感みたいなものがあって抜けてしまったりとか、そういう意味では人が次の事業の一番のキーになると思います。いいメンバーをいかに集めて一緒にやっていけるかがキーであり、ベンチャーの難しさだと思っています。
 私たちの場合は幸いにも非常にわかりすいコンセプトが表に出ていますので、いい人材を集めやすかったかもしれません。立ち上げ当時一緒にやっていたメンバーでも途中で抜けていったものもいますし、周りの話を伺っていると、社長以外はみんな入れ替わっているみたいな話もありますね。いいスタッフに恵まれて一緒にやってこられたということと、幸いにもプライベートな夫婦という関係でスタートしていて、それは苦しみでもあるんですね(笑)。
 公私の境なく、当時は24時間働いているような状態で、いまもそうなんですけれど、家で愚痴を言えなくて、愚痴を言うとディスカッションになってしまうんです。慣れるまでは非常に苦しかったんですけれども、いまはそんなものだと思って、疲れているときには言葉を発しないという感じになっています。個人的にはそこが一番苦しかったことではありますが、逆にそれゆえに安心して事業をしてこられた。一緒に始めても、こういう関係がなければ明日もう抜けるということになってもおかしくはないですね。そういう意味ではよかったかもしれません。


小久保 やはり人が一番大事だと思います。人が集まるときに何が一番大事かというと、どれだけはっきりした理念を掲げられるかということですね。当社の場合、人を集めるのが難しかった一つの理由は、ロケーションが長崎だったことがあります。長崎でITに精通した人を見つけるのは、いまも難しいですね。
 私も東京と長崎の間を移動するだけで、新幹線で7時間、飛行機でも5時間くらいかかります。そのなかで自分のモチベーションを持続していくことにものすごく疲れました。だから、自分のモチベーションを高めていくことにすごく努力したかと思います。


新 川 私はいまも苦しんでいるんですが、数字に非常に弱いんですね。ですから、経理や資金繰りはメチャメチャ苦手、はっきり言ってできないので、ほとんど税理士さん任せです。勉強しようと頑張った時期もあるんですが、すごくストレスになるんですね。自分のいいところを生かせなくなって、理事の方も、経理をやらなくていいから税理士に丸投げしろと言ってくれるので、NPOはお金がないから税理士を頼んでいるところは少ないと思うんですけれども、税理士さん任せで丸投げしています。
 人の面では、ボランティアを動かすのがすごく難しいです。社員と違っていろんな意義をもって参加してくれている人が多くて、ただ居たい人、仕事に結びつけたい人、やったことを感謝されないと嫌な人、などと分かれるので(笑)、そこを見極めてお付き合いしていくのが本当に難しくて、毎日苦労しています。


矢 野 最初にふれた出会い系サイトのことをちょっと話題にしたいんですね。人生におけるさまざまな出会いは楽しく、意味のあることだと思いますけれど、一般に「出会い系」といわれるサイトは、現実のつき合いとは関係のないところで、自分と同じ考えを持っていたり、趣味を持っていたりという人と出会うことを求めるものですね。それに対して、隣りに住む人、あるいは近所の人たちをもう一回組織化していくためにサイバースペースを利用する、そのことによって新しい出会いをつくっていくというサイトがあり、それが最近アメリカではずいぶん盛んになっているようです。突然、名指しをして恐縮ですが、ここに清水メディア戦略研究所の清水計宏さんがおられます。出会い系サイトに関して、アメリカ最新事情を話してくれませんか。


<未来は後ろ向きでやってくる>

清水 突然の指名なので、何を話していいかわかりませんが(笑)、私は個人が一人になったときに何ができるかということを実験するために、絶対に大きくならない会社をつくって、いま一人です(笑)。会社がとっても嫌いで、でも今は会社のおかげで食べられているので何とも言えないところですけれども、会社に代わる収益モデル、お金が稼げるモデルをどうしても作りたい思っています。それまでは『映像新聞』の編集長を13年間しながら、1300社に上る社員の方を海外にお連れして、毎年4回くらいヨーロッパやアメリカを見て回っていました。
 私は昔から、スパムメールと出会い系サイトの向こう側に未来がある、と4、5年前から言ってきました。未来は必ず後ろ向きでやってくるんですね。前向きでやってきた未来はうそだと僕は思っていまして、ですから後ろ向きでやってきたものは必ず注目するんです。例えばカラオケもそうです。着メロもそうです。こういうことはレコード会社はやらなかった。ゲームもそうです。
 出会い系はすごいぞ、スパムメール、これもすごいなと思いました。これをどうやって、サラ金を消費者金融として浄化させたように、浄化させることができるかが問題なんですね(笑)。この15年間、コムデックスというコンピュータ・ショウを見ていますが、今年のコムデックスで著名なコンサルタントが、2004年の予測の中で、「来年は出会い系サイトがブレイクする」と言いました。何をいまさらとも思いましたが、最終的にはモチベーションとインタレストをナビゲーションするのが機器だと思うし、今まではコンビニエントとかカンファタブルを与えるのがテクニックだったんですが、これからは幸福をみんなに与えるのがテクノロジーの一番の中心になります。幸福というのは評価と自由から成り立つものですから、これをどうやって手にするかは、誰かがナビゲーションしてくれ、リンクとかオペレートしてくれた最良のものと出会うしかないんですよ。
 アメリカでは「フレンドスター」のような”正しい”出会い系が、今年からガンガン出てきています。いま1000件くらい出てきている。2005年にはコンテンツ系のビジネスが立ち上がる、会社に頼らなくても、例えばいろんな、体の不自由な人、主婦とか、定年退職した老人とかも、何らかの自分の才能が経済化できたり、生きがいにできたりする社会が来ると思っていましたが、やっとそういうことが可能になってきたんじゃないでしょうか。


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