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小野田 あいうえお順ということで、トップバッターをつとめさせていただきます。小野田と申します、よろしくお願いします。「市民コンピュータコミュニケーション研究会」というNPOの事務局長をやっております。母乳育児支援ネットワークという団体の事務局長もやっております。それから、ビール会社に勤めております。
   
    お配りした「NPOと女性たち」という資料に、私がNPOとかかわるようになった経緯について、「最初はお手伝いのつもりだったが、NPOの活動を通じて様々な社会の課題に気づき、自分の世界がずいぶん狭いことに思い至りました」と述べています。ビジネスの世界に浸っていた私にとってNPOの世界はカルチャーショックでした。そのようなわけで、私自身、実際に活動する方々の話を聞くことでNPOの世界に足を踏み入れたので、いまかかわっている団体の活動をありのままにお話しすることで、今日いらしてくださった方とNPO活動について意識を共有できたら、それが「世界を変えるネットワーキング」の第一歩につながるのではないかと思います。
 今日は、「市民コンピュータコミュニケーション研究会」、略してJCAFE(Japan Computer Access For Empowerment、 ジェイカフェ)が主催したシンポジウムである「市民活動とインターネット――ネットワーキングの20年と未来への躍進」の報告、「国連世界情報社会サミット」におけるNPOのネットワーキング、それと母乳育児支援のネットワークの三つについてお話しします。
 JCAFEでは昨年10月に「市民活動とインターネット」という国際シンポジウムを開催しました。アメリカのリップナック&スタンプス夫妻が82年に書かれた『ネットワーキング』という本が84年に翻訳されたのをきっかけに、日本でもネットワーキングのブームが起こりましたが、この本には「いろいろな目的、いろいろな思いを持つ人々が、組織や運動や職業などの枠を超えて、共通の価値を持って情報を共有し、新しい世界をつくっていくこと。それが、現代社会がかかえる課題を克服していく手がかりになる」と提案されています。普通の市民一人一人の力は弱いけれど、それぞれの思いを共有することで、何か変えることができるのではないか、そういうネットワークをつくっていこうではないか、と。
 それからすでに20年がたち、インターネットも普及し、NPOも社会的にだいぶ認識されてきたので、現代の市民ネットワーキングの方向を探ってみようと、シンポジウムが企画されたわけです。全国4カ所で開催し、2日目の専門家会議では12の事例発表を行い、その後、インターネット時代の市民ネットワーキングの方向性を探って討論しました。
 意見をまとめますと、一つは、IT時代であっても顔の見えるネットワーキングがとても重要だということ。信頼が広がることで、しがらみとは違った色合いが見えてくるということです。二つ目は、いまでも必要な情報が必要な人に届いていない、これを打開するにはどうしたらいいか。三つ目は、主に行政と市民との関係で、お互いに情報共有ができていないのではないかということでした。
 事例としてパブリックコメントのあり方が取り上げられました。例えばコメントの期間が決まっていない。短いものも長いものもあり、制度化されていない。専門家でないと答えられないほど難しく、もともと市民の意見を求めていないのではないかと思われるものが多い。パブリックコメントを求める数と量が多過ぎて、ついていけない。わかりやすい伝え方がされていない。というようなことで、パブリックコメントは役所のただの免罪符ではないか、行政と市民がバックグラウンドを共有しようという意思が見えてこないという話が出ました。このシンポジウムは結論を出す場ではなかったのですが、これからも継続して考えていこうということで、共催していただいた立教大学といっしょに今後の基盤をつくっているところです。皆さんも興味のある方は是非ご参加していただきたいと思います。

国連世界情報社会サミット(WSIS)の重要性と問題点

 先ほどのシンポジウムでは顔の見えることの重要性が指摘されましたが、道具としてのITについても考えていかなければいけないと思っています。その事例として、国連世界情報社会サミット、略してWSISの動きについて、とくに「国家あるいは国際機関とNGO」という視点でご紹介したいと思います。
 WSISは、「情報社会についての共通ビジョンの確立と理解の促進を図り、このビジョンの実現に向けて協調的に発展を遂げるための宣言および戦略的な行動計画を策定する」ため、各国政府首脳、国連を中心とする国際機関、産業界、市民社会、NGOなど広範な分野から参加して開かれました。国連がリオの環境サミットと同じくらいの力を入れている国際会議だと言われています。この会議は2つのフェーズに分かれており、第1フェーズが去年12月にジュネーブで開かれ、2005年11月に第2回フェーズがチュニジアのチュニスで開催される予定です。
 JCAFEは、アジアを中心とする他の情報通信関連NGOと連携して、WSISに準備プロセスから関わっています。国連主催の会議ですが、並行してNGOが主催した会議も多く開かれています。2002年11月のアジアNGO対応会議では「アジアのNGO宣言」が出されています。2003年1月には東京でアジア太平洋地域の準備会合がありました。
 ところで、この東京での準備会合をご存知の方はどのくらいいらっしゃいますか。お2人ですね。どうもありがとうございます。この件はほとんど報道されておらず、「アジアNGO宣言」を追加訂正した宣言を出して、東京会議最終日に記者会見して発表したんですが、海外のメディアが20人以上集った中で、日本のマスメディアは1社2人が取材に来ただけでした。アジアNGO宣言の担い手たちのネットワークとWSISの課題について簡単にふれますと、アジア地域は多様で、それぞれの伝統があり、貧しい地域が大半を占めており、ITの問題を考える際に配慮すべき点がたくさんあります。情報通信にかかわるNGOも多く、JCAFEは90年代からこうしたNGOと連絡をとりあって、日本に招待したり、または招待されたりと、交流を深めております。ここでも顔が見えるというのは大変重要な要素になっています。
 ジュネーブ本会議では、サミットの基本宣言及び行動計画に市民側の意見が十分反映されず、NGOとして別に市民社会宣言というものを出しております。WSISではなぜ話がまとまりにくいのか。四つのポイントが考えられます。一つ目は、国家の利害を越えて地球レベルで公平公正、持続可能で望ましい秩序を議論するためにはNGOの参加が不可欠だという認識が国連にも各国政府にも欠けていたと思います。二つ目は、ITの発展そのものが国の経済的な力やビジネスの発展につながっており、調整が大変だということです。さらに、WSISでは国、国際機構、企業以外が市民社会に分類されるため、市民社会内でも意見を同じくするとことが非常にむずかしい。
 三つ目は、例えば環境問題あるいは開発といった問題ですと、途上国の利害とNGOの主張が一致することがあり、両者が協力することでNGOの意見を国連の場に反映させることができるけれども、情報通信の分野ではそういったことがなくて、途上国の政府も、ITの経済的側面を強調してきています。ビジネスの優勢という考え方が非常に強く、世界中で弱いものが切り捨てられる状況になっています。
 四つ目は、対NGOというよりも市民の問題だと思うんですが、とくに日本でWSISへの関心が高まりません。たぶんITは専門家の問題だ、自分は関係ないと思っているわけですね。それから、何故かマスコミが報道しない。あえて世論を喚起しないようにしているのではないかと思うほどで、そうなると、ある意味で政府のやりたいことができてきてしまうことになります。
 一見まともな宣言や行動計画が出たように思われますが、よく読むと、お題目だけで具体性に欠けています。例えば基本宣言でも、「コミュニケーションは情報社会の中核であることを理解する」と言っているんですね。だけれどもコミュニケートする権利を保障するということにはなっていない。表現の自由とかジェンダーの視点も欠けていますし、新しい情報通信技術によって政府が人びとを監視したり、企業が消費者を監視するなどの、人権に与える影響などについての配慮も盛り込まれていません。著作権に関しても、権利を持っている側の利益の方を使う側の自由よりも、より保護するような内容になっています。世界の貧富の格差がますます広がっていくのではないかと危惧しています。

情報社会への関心が日本では稀薄

 WSISも含めて国際会議の報道状況が気になっていたので調べてみました。メディアで報道されるというのは、市民の意見を盛り上げていくという点で、NGO活動にとって非常に重要です。(以下、図を見ながら説明)同じ国連世界会議の地球サミット、第5回女性会議、WSISの報道状況を比べると、世界女性会議は地球サミットの約20分の1、WSISはその世界女性会議の4分の1程度です。掲載紙で見ると、WSISは日経に取り上げられた割合が一番高い。いかにビジネス寄りな見られ方をしているかということが現れているのではないかと思います。
 新聞記事データベースの日経テレコンで、開催前、開催期間、開催後の記事掲載傾向を見ますと、WSISの場合は、全報道の半分が開催期間中に集中している。いわゆる一過性のイベントとしての報道のされ方をしているのではないかと思います。他の会議の場合は、開催前から報道され、会議後のフォローアップのなされてきたことがわかります。
 そのようなことから、情報社会への関心が日本では希薄だというふうに思います。マスメディアはぜひきちんとフォローして、何が問題かということを伝える責任があるのではないでしょうか。専門的なことをわかりやすく伝えることもマスメディアの役割だと思います。「市民社会をつくっていくためのIT」という視点をなんとか政策に組み込んでいきたいなと思っております。
 母乳育児支援については、ざっとお話しします。これはWHOやユニセフとNGOの連携がとてもうまくいっている活動ではないかと思います。子育てや生命は人類共通の課題だからかなと思います。世界に母乳育児支援のネットワークが、主なものでIBFAN(イブファン)、WABA(ワバ)など四つあります。
 私が属している母乳育児支援ネットワークはWABAの支援団体で、IBFANのメンバーグループになっています。IBFANというのは、母乳育児を保護推進支援する草の根の活動グループを世界規模でつなぐネットワークで、本部はマレーシアにあります。5人程度のスタッフが常駐しており、ほかに六つの地域事務所があります。主な活動の一つに、「母乳代用品の販売流通に関する国際基準」という1981年WHOで採択された基準を国内法に落とし込んでいくことがあります。百以上の国が批准していますが、国内法として法制化しているのは26カ国です。日本は法制化されていません。日本の行政は、粉ミルクについては、とくに販売促進活動や広告について何の規制も検討していない状態です。
 WABAも本部がマレーシアにあり、主な活動としては世界母乳育児週間の推進があります。WABAは、自分たちが発行した印刷物や出版物は著作権フリーなので、なるべく各国で翻訳して広めてほしいと言っています。それを受け、母乳育児支援ネットワークでは、WABAのパンフレットなどを翻訳してWebに掲載しています。
 最後にまとめさせていただきます。NPOで活動しておりますと、いろんな問題に気づいたり、それが見えてきたりします。途上国における劣悪な労働条件や環境破壊などの不平等格差が、グローバル化によってかえって世界に広がっていると感じます。情報テクノロジーは格差を広めることに加担するものであってはならないと思います。私自身この活動を通じて感じることは、国家利害の対立が激しい今だからこそ、国際機関はぜひとも市民の側を向いてほしいということです。日本の市民、私たちも、自分の生活圏のもう少し外側に目を向けていきたいと思います。そして、政府や企業に対しても、自分たちの具体的な意見を言えるようにしていくことが、ますます大切になっていると感じております。市民の声を市民自身が育てていく、それを責任ある行動として積み重ねていけば、世界を変えることができるのではないかと思っています。

矢野 どうもありがとうございました。WSISの注目度の低さというのは、なんとなく身につまされるところがありますね。世界はまさに激動しており、我々はその渦中にいるんだけども、だからこそ本質をとらえにくいということでもありますね。
 そこにJCAFEのご苦労もあると。ビジネス寄りの政策が進んでいたりして、我々の生活を豊かにする意味では今こそがんばらなくてはいけないんだけれど、社会の関心がなかなか盛り上がらない。この辺が僕が提唱する「サイバーリテラシー」のテーマでもあるわけで、そういったことについて後で話し合えれば、と思います。
 次は中村さんのお話をお聞きしましょう。


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