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会場には初めての方もいらっしゃいますし、ずいぶん昔からの知り合いもいます。やりにくいんですけれども、初めてお会いする方向けにお話したいと思います。タイトルの「世界を変えるネットワーキング」ですけれど、先に結論を言っちゃいますと、肝はね、ひたすら個人力、個人の発信力とか、自分の中でエラボレーションする力、それの質の高さだというふうに思っています。
私が日ごろ大切にしていることが三つあって、まず強い個性を鍛えること、第二に自分らしさとは何だろうということを常に考える、というか、それに心をとらわれると言いますか。第三が異常な新しいもの好き。これは抑えがたいものがありまして、これをいかにうまく自分の制作、表現につなげていこうかということを考えています。
今からお見せするものは、すべてこの三つにかかわっています。ここにいらしてる大人の方たちは、ざっと拝見する限り、十分お強い個性をお持ちですけれども、これから社会へ出ていかれる方、それからまだ考えあぐねていらっしゃる方、私の話の中から、これをアーティスト特有のものだと思わないで、ぜひ盗んでいって、応用していただければと思います。
連画とはインターネットで絵をやりとりする創作作品
先ほど連歌は日本の古い伝統だという枕がありましたので、いきなり私たちがやっている連画の話をしますね。連画というのは、インターネットと電子メールを使って、他人と絵をやりとりする、と言うか、渡しあって組み作品を作っていく創作作品です。1991年暮れに、会場に来ておられる安斎利洋さんというCGアーティストと始めました。
このセッションには名前がついていて、これは春巻きではなくて、春の巻き、スプリングフローといいます。サッサッサと見せますね。これは安斎さんから送ってきた最初のイメージ、容量1メガぐらいでしたかね。当時はパソコン通信でやりとりしていたので、20分ぐらいかかりました。これを私のところでイメージをクルっと反転させて、青いインクをまわりに撒く。これを相手に送る。すると、インク部分を右下にもってきて、左上に新しいイメージをくっつけた。これが送られてきて、私がバックをグリーンにします。すると相手は、自分の独特な形にデフォルメというんでしょうかね、自分の形に噛み砕いて私の元に送ってくる。これが相手から送られてきたオリジナルですね。これを逆さにしたり、色を変えてみたり、あるいは自分の新しい画像を書いてみたり。コンピュータって、こういうことがとってもお得意なので、今から見ると稚拙ですけれども、当時、ものすごくはまってました。
これを送ると、相手はどこをどういうふうにしていくでしょう。前のイメージの手の形、これが気に入ったようです。で、これが送られてきて、私は手の三角形、3ということで3人の人物とグレーという色のイメージ、印象、影響を相手からもらいます。これを相手に渡すと、独特な形になっていきますね。ここでこの3人を左隅にもってきてもう1人現れる。お気付きの方もあると思うんですけど、ここでタイトルを見ると、「隠し玉のスリービューティ」とか、「画しきれない三美神」とか、「フローラ現る」とか、絵の好きな方はもうおわかりだと思いますけれども、ルネッサンスの画家、ボッティチェリの「春」という作品をどうも意識しているらしい。こんなことは当然やっている最中はバラさないんですね。何にも言わないで絵だけ交換していくんです。タイトルはつけていきます。
ですから、絵の交換と、こういうなぞかけを遊んでいたわけです。ここでビーナスが生まれてきます。これを渡された私は、赤ちゃんの視線ですね。お母さんから生まれてきて最初に光を見た赤ちゃんは、きっとこんなような光を感じたんじゃないかと。こんなかたちで、交互に2人の人間でまるで会話をするように連画をしていきました。
2人だけの連画もずいぶんしたんですけれど、時には世界各5カ国ぐらいでしたか、いろんなアーティストに参加していただいて連画「GLOBAL COLLABORATION」をしたこともあります。これもチャチャチャッと見せます。これは香港のフォトグラファー、ポリー・リー、かわいいですね。これを日本にいる安斎さんが、「星の中でミルクを飲みながら暮らせたらどんなにいいだろうな」。あ、ということはちょっと安斎さんを見せましょう。若いですね、7年前です。後で実物も見せます(笑)。安斎さんからもう一回、香港にいるりー・カーシンに渡します。この人は詩人です。「浮き沈みのはざまでは、人はいつもある特定の時期へと思いを馳せる。孤独も時には悪くない。週末の後、憂鬱な月曜日を迎えることになるかもしれないけれど。」今日は月曜日だけど、皆さんは憂鬱ですか。
今度はカーシンからフランスに住むビデオアーティストのパスカル・シュミットに渡します。パスカルは「牛のおなかの中で女が猫を生む。その猫が、牛の脳にたまった毒をなめる」というような象徴的なコメントを寄せているんだけど、1996年から7年というのは狂牛病が流行った頃なんですね。社会的なことに敏感なアーティストの一面です。今ちらっと見せたのはアメリカのバーバラ・ネッシム。バーバラからドイツへ行って、今度はアンドレア・ザップですね。この人はアーティストで、サイバースペースの研究者でもあります。ちょっと顔を見せようかな。かわいいですよね。7年前。まだかわいいと思います(笑)。最後は、日本で私が待ち受けていて、ここで急にトラになりますけども、前の絵のイメージを使っていますが、ここでちょうど丑年から寅年にまたいだので、サービスのつもりでトラを書いて、このセッションを締めくくりました。
紙とペンによるカンブリアン・ゲーム
こんな形で10年間ぐらいですかね。インターネットと電子メールを使い、個性豊かな才能を持った各国のアーティストや国内の若いクリエーターたちで、いろんな機会をつかんで連画セッションをしました。10年たって、もうちょっと進化させられないものかな、と。普通ならすぐハイテクノロジーとか新しい技術に飛びつくんですけど、私たちはここで一旦、紙とペン、デジタルから離れて、紙とペンで創作実験をしてみました。これがカンブリアン・ゲームです。
実は安斎さんがあるとき、ひとりでぽつぽつ遊んでたんですけども、なんかつまんなそうだったので、私が手を出しました。見えますか。この真ん中のR 、これが最初のきっかけです。ここから2本腕を出して、2枚のイメージをつけていいというルールで始めました。Rから5個になって、さらに5個になって、でこぼこになって白黒かな。5個からカタツムリの目みたいになって、仲良しの2人になって、おててつないで、手のアップ、狼の歯、ペンチ。とりとめなくイメージが飛躍してきます。その現場を今みなさんに見ていただいているんですけれども。
これに使ったのは、手のひらにおさまるぐらいの大きさのポストイットと、行線0.7ミリ程度の書き方ペンです。これは、いろんなところで試みられて、絶対に失敗しないシステムなんですね。みんながワッと飛びついて、あっという間に今のようなマップができ上がります。
2002年、いまから2年前ですね。3月に歴史的な、封鎖されていた安田講堂が修繕を終えて有形文化財として公開されることになって、「この場を使って何かやらない?」とそそのかす人がいたんです。東京大学の水越(伸)さんですけれども、「じゃあ、このカンブリアンやってみようか。」と言ってやったのがこれです。
200人くらいの人を集めて、7カ所に場を分けて一斉にやってもらったんですね。その時の風景です。安田講堂に入ったことないですかね。卒業された方なら、ここで卒業証書とか渡されてるのかな。最初、大人たちはあんまりこういうことに熱くならないかなと思ったんですけれども、なんと20分くらいで2メートル四方の台紙、模造紙がいっぱいになってしまいました。
この紙のカンブリアンから半年たって、これをネット上で、デジタル上でやろうじゃないかと、「カンブリアンの庭」という情報ツールの開発がはじまりました。安斎さんはお絵描きも得意なんだけど、ソフトウェアもどんどん作れる人です。これは「カンブリアンの庭」のページです。「カンブリアンガーデンは、散在するイメージを構造としてとらえるためのパーソナルな情報ツールです。同時に、その構造をコラボレーション空間にひらく機能をもっています」と説明しています。これを使ってその年の暮れに、暮れといってもほんとに押し迫って大晦日、12月26日から1月8日の間、親しい人にメールを出して、「世界で初めてのシステムを使ってコラボレーションをやるから来て」とメールを送りました。このときはやっぱり北朝鮮問題で世間が沸き立ってたときで、それを意識したのかな。晦日の忙しいさなかであるにもかかわらず、年賀状を書くこともせず、大掃除もせず、紅白歌合戦も見ないで(笑)、大人たちが必死になってこのセッションに加わってきました。
このセッシヨンで何よりびっくりしたのは、絵ばっかりじゃなくて、買ったばかりのデジカメであるとか携帯を使って、自分の日常を非常に上手く切り取ってここに投稿してきたことなんですね。今までこういうお絵描きなんて、子どものほうが純粋で、うまくいくんじゃないかなんていうことを言う人が多かったんだけど、意外に大人というのはロマンチストですね。新しい機材をうまく使ったなというふうに思っています。
今このデジタル上のカンブリアン・ゲームは、教育現場で盛んに使われ始めていて、去年と今年、びっちり600人くらいの子どもたちが、非公開ですけれども、このシステムを使って連画をしています。愛知万博に出展の予定がありますので、これからちょっとがんばっていきたいと思っています。
これは多人数のコラボレーションを支援するツールでもあるんだけれども、設計者である安斎さんは、個人ツールだと言っています。私、さっそく使ってみました。これ、私のホームページで、2月からオープンしています。日々変えることができるんだけども、今、自分にとって一番興味があることは大きく、終わってしまった展覧会情報なんていうのはこのへんで小さく。という形で、自分の中で、情報の遠近感が作れる。
その前に、この中で一番好きな今のお気に入りを。私、もともと油と彫刻専攻の学生だったんですけども、連画をやりはじめてからCGが自分の生活の中に入ってきて、自分の部屋の中って絵の具とLANケーブルがごちゃごちゃで、MAX状態ですね。最初は手帳にスケジュールを書いていたんだけど、実は、近所のリッチな年寄りが死にまして、その遺産で100号のキャンバスをたくさんいただけたんですね。だけど、今さら100号のキャンバス、縦130センチ、横162センチぐらいのですね、戸板2枚ぐらいかな。いまさらこれに裸婦、ヌードを描いたり、風景じゃないだろうと。とりあえず、今自分にとって切実な何かっていうと、自分の毎日の日常、日々ですね。何から何まで記録しておきたいんです。もちろん予定、30分きざみで人に会う予定とかですね、思いつき、それから言葉にならない事柄、それを絵にするのは私とっても得意ですから、ですからこれ混在しているんですよね。
これをはじめたのは去年の1月ですけれども、近くに大國魂神社というところがあって、これはやたがらすですけれども、このやたがらすを書いたうちわを買ってこなきゃいけないんですけども、自分で描いちゃう。そのほうがご利益があると思って。ここにあるのが「カンブリアンの庭」ですね。「カンブリアンの庭」の一番優れているところは、自分の日常を表そうとするホームページを考えているときと、それをインターネットに公開しようとするとき、それを一貫して一つのシステム上で行えることです。
時間だいじょぶかな。あ、マズイ! でも、これだけは見せないとね。これが先月、5日前まで。これがデジタルカメラでとって、ディテールをとって、いま編集過程にあります。一番ベースに、全体を取ったキャンバス状のものがあって、さらにディテールを掘り下げてみました。
最近は、絵の素材として、これバーコードですけど。バーコードの中に仕込まれたビールのお店の情報を携帯で読ませてみたり。いまICタグなんていうのがすごく話題ですけれども、ICタグ自体を絵の中の要素、絵の具の一つにできないかな、というわけで、だんだんキャンバスが、単なる家に置かれたタブロウではなくて、デジタルとアナログのはざまにまで及んできているという状況です。サーバーの役目みたいな形になってきているのかなあ。
何で始めちゃったのかと聞かないでください(笑)。わからない。もうちょっとやってみないとわからない。だけど、最初はURLであるとか、すべてをペンや筆で書いていたんだけど、最近はこういうものを張り込んで、こういう情報ツールで何とか読ませられないかとか、外から監視できないか、というようなことを考えています。さらに、個人力をアップするために、そろそろソロの仕事もしっかりやろう、ということで、顔をテーマに「顔ポイエーシス」というのを今年の春公開しました。
これには相棒の安斎さんの野心が隠れていまして、遺伝的絵画法という新しいアートの流れ、システムと作品と両方組み込んでつくってしまいたいという野望です。私の方は新しいアートの流れの中で、顔をテーマに、自分にとってまだ見ぬ絵画、というかまだ見ぬ自分というのをつくってみたいと思っています。もちろんそれにはデジタルとネットワークを思い切り練りこんで。ということで、あとは後半に聞いてください。 |