| |
2000年にジャーナリストとしてアメリカ政治を取材して『フォーサイト』や『アエラ』という雑誌に書き、それを一冊の本にまとめたのがきっかけで、こういう世界に入ることになりました。2001年に、インターネットを使って世論調査をするアメリカの会社と日立がいっしょになって日本に合弁会社をつくりましたが、そのアメリカ側代表だったこともあって、社長として日本に来ました。インターネットを使った世論調査とか、実際に政治の現場でどんなふうにインターネットが使われているかとか、電子政府の発足とかを見る機会を得ましたが、はっきり言いまして、今の私の年で大会社の子会社の社長をやっていても将来がありませんので、11月に独立させてもらって、いまは個人的に政策関連のコンサルタントや研究をしています。
日本の電子政府やE-デモクラシーには中身がない
人間的なネットワークというところから話がずれるかもしれませんが、私は、情報をいかにシェアしていくか、情報のネットワークをどのようにつくっていくかということについてお話したいと思います。先ほど小野田さんがおっしゃったように、パブリックコメントとか電子政府そのものが役所の免罪符というか、私たちは箱物行政だ、箱物電子政府だと言ってますが、情報を出しているふりはしていますが、実際に私たちが欲しい情報はいっさい入っていないと言っても過言ではない状況があります。
すでに知っている方も多いと思いますが、アメリカでは政府情報がきちんとしたデータベースで公開されているのに、日本ではそれが遅れています。学生の皆さんは、それをこれから政策的にどう変えていくかといった作業をぜひ担ってほしいと思います。それと同時に、明治大学ではアメリカのすばらしいデータベースを自由に使える環境にありますので、もしお使いでなければ、ぜひ私の話を聞いて、明治大学にあるデータベースを活用しよう、レポート書くときに使ってみようと思ってもらえればと思います。
議員の方とか官僚の方にインターネットと政治のありかたについてよく聞かれますし、そういった委員会とか勉強会にも入れていただいているので思うんですが、世の中は文化にしろ、芸術にしろ激しく動いているのに、政治の世界ではそういう化学反応はまだ起きていません。
どういう政府にしたいのか、どういう社会にしたいのか、といった私たちの問いかけ、思いがあって、政治もようやく変わるわけですが、それらを判断する情報が提供されていないわけです。一方で、アメリカなんかもそうですが、政治の世界が遅れているために、新しい技術の動向に詳しいベンダーの研究員が政治的な話を書いたりしますと、現実を無視して、いきなりこんなことができるといった方向にポーンと飛んじゃうんですね。
日本の議論もそうです。電子政府になれば便利になると言われますが、便利にするものを作らなければ便利になるはずがないわけです。これからは直接民主制になると言われたりもしますが、人びとが直接民主制を選択しなければ、そうなるわけないんです。
電子投票だって、家から投票するようになるとか、技術的には可能ですが、日本で多い白票を電子投票システムの中でどう処理するのかといった問題を解決しないといけないわけです。いま日本でやっているものは、キヨスクの電卓投票と同じようなものです。電子投票は、アメリカでは1986年から、韓国やオランダでも導入されていますが、そういう国では、行ったら必ず投票しますから、白票ってないんです。お願いと涙と連呼のような、政策の話がぜんぜんないような選挙で、投票率だけを上げても意味があるのかどうか、衆愚政治になるだけじゃないのか、そうなっていく可能性が大きいにもかかわらず、そういった議論がほとんどないですね。
論文の分野でも、アメリカではチョコチョコ出てきてますけども、日本ではないです。官僚が私のところに来て、電子政府の情報にはどんなのが入っていて、どんなのがは入っていないのか、その基準はなんでしょうかなんてと聞いてくるんですよ。あんたたちが決める問題でしょう、と思いますね。
そういった問題をどこに聞くのか、誰に聞いていいのか、実際にそこがわからない。だから、インターネットで電子政府ができると便利になって、時代が変わっていくという刷り込みだけが行われて、洗脳されちゃってる状態にある。すべてにおいて、全体を見ないで、ただ転がっちゃってるわけですよ。そうやって踊らされちゃうと、10年もしたときに、「何だこれは、何にも変わっていないじゃないか」ということになると思います。
ある種ですね、NPOの方って、それを信じて動いていたり、一生懸命プッシュしたりしているわけですが、意見をぜんぜん聞いてもらえてないとか。E-Japan構想ってものすごいお金をつぎ込み、そこに入れるデータも一生懸命考えたのに、市民の生活はなにも便利になっていないじゃないか、ということになる可能性が非常に高いと思うんですね。
日本の電子政府とかE-デモクラシーと言われるものが、いかに中身がないか。しかもその中身を調べようとしても、日本のものを見てもわかりませんので、アメリカの電子情報の中に入っている情報を使うしかない。いまはそれを借りて、民主主義の武装化をしていくしかない状況なんです。将来的に、次の段階としては、日本もこういう情報が必要なんだということを例えば市民の側から訴えかけていく。一方、学生さんの中には官僚の世界に入っていく方もいるだろうし、議員になる方もいらっしゃると思います。そういう方たちは、実際に政治の主体としてものごとを変えていく前提条件を考えてもらえればいいなと思います。
アメリカのデータベース、LexisNexisで情報武装しよう
大きな話になりますが、インターネットというと、市民派とか、市民派イコール左ではないんですけど、どちらかというとミクロな発想が強いですが、これを突き詰めて行きますと、国益、国益という言い方は変ですけど、グローバルな競争社会になると、国をどう守るかということも重要にもなります。官僚の方が言うには、どこの国といちばん交渉しづらいか、と。私なんかパッと考えると、過去のこととかあるので、中国とか韓国かなと思いますが、実際にはアメリカなんですね。なぜか。
アメリカは第二次世界大戦のときに、有名な雑誌で日本特集をして、その内容は日本以上に詳しかったという話がありますが、それがいい例で、日本という国の現状はどうなのか、何が問題なのか、どういう代替案が考えられるのか、といったことを先方は全部考えているわけです。そういった日本の過去の政策データベースを英語で蓄積しているわけですね。交渉で日本側が、「こういう状況でできないんです」と言いましても、向こうは日本がそう言ったときにどう反論するか、つねに七つぐらいシミュレーションをしていますので、「そうおっしゃいますけど、これができるんです」と、こっち側より知っているわけですよ。交渉にしても、ディベートにしても、勝つためには何が一番いいかというと、相手より知識があることですよね。
もちろん日本にとってアメリカは一番重要な国で、けんかする必要はありませんが、類は友を呼ぶというように、友だちでいるためには、対等に話ができたり、知的レベルや民主主義のレベルが同等でなければ、「話にならない」と言って切り捨てられるわけです。
それと、シンガポールとか韓国がどんどん大きく、中国もそうですけど、大きくなってきますけど、彼らはアメリカの真似をしてポーンと自分たちの情報システムを作ってしまうわけですよ。日本でいうインフラじゃないですよ。情報内容の質の高いものです。そうなってくると、日本はふっと気がついたときには情報武装が弱い、政策に関する知識がたりないということで、非常に国益的にも弱くなってしまう。
だから、そういったものを使って、情報データベースでリサーチをして文章を書く訓練をしないといけません。リサーチできる訓練をしていると、訓練していない国民と差がついてしまう。ですので、私は国益的に考えても日本は危ないのではないかと思って、こういう話をいたるところでしています。何か書こうと思うと、英語のデータベースを使えるようになった方が、今の段階ではいいものが書けます。たとえば会社の中でレポートを書くにしろ、学校でレポートを書くにしろ、やっぱり有効だと思うので、何とかこういったものを使えるようになってもらえればいいなと思います。
学生の方でLexisNexisを使ったことがある人いますか。いますね、アメリカの方ですか。
|