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矢野 明治大学ではLexisNexisが使える。そういうすばらしい学校だということを改めて認識されるといいと思います。
 3人の方にお話しいただきました。「世界を変えるネットワーキング」という大きいテーマのもとに、さまざまな分野でいろんなことが進んでいるのを眺めようというのがねらいです。
 これはいつも僕が使っている図ですが、IT社会というのは、私たちが住んでいる物理的な現実空間、あるいは現実世界の上にサイバースペースという新しいデジタル情報空間が乗っかっており、両者が相互交流する社会であるというふうに僕は見ているわけです。



   
   これに対して「サイバースペースってどこにあるんだ」とよく言われんですね。どこにもないものを麗々しく分析枠組みとして使うことに異論のある方もおられると思いますが、いま現実世界でに起っていることをよく理解するためには、サイバースペースの特性を理解しなきゃいけない。そのサイバースペースが現実世界を変えていっているんだと、僕は思っているんですね。 この図はこういうふうに見る方がいいかもしれないと最近思っています。



 現実世界、この青いのは地球ですね。その上を薄い雲の層のように覆っているのがサイバースペースです。現在のネットワーキングというのは、サイバースペースを通じて地球上のみんながお互いに交流する姿と考えるられ、先ほど来、いろんなお話が出ているように、国境などもほとんど消えてしまうわけです。
 そこで、たとえば市民運動の分野でも、政治の分野でも、経済の分野でもさまざまなことが起っているんだけれども、その全体がなかなか見えにくい。小野田さんの報告にもありましたが、一般的な関心も非常に低い。報道機関も報道しない。これは意図的に報道してないんじゃなく、意味がわかっていないので報道しない。
 中村さんが話してくださった新しいネットワーキングの試み、横江さんの情報をシェアする試み、一見ばらばらな話のように見えるけれども、じつはすべてがネットワーキングに関係している。それらがどう関係しているかは皆さんに考えてもらう(笑)、そう思って企画してみたわけです。
 これからは、会場から質問をしていただいて、それに対してパネリストの方が答えるという感じで議事を進めたいと思います。その前に3人の方々それぞれ、他の2人のお話を聞いて質問などあればお願いします。小野田さん、何かありますか。

小野田 自分以外の発表はとてもおもしろかったなぁと思いました(笑)。私はアートってメッセージ性の高いものだと思っているんですが、それに対してネットワーキングはどういうふうに、何ていうのかな、アートとネットワーキングはどういうふうに繋がっていくのか。そこから何が生まれてくるのか、中村さん自身がどう面白がって取り組んでいるのか、ということをもう少しお聞かせいただければと思います。

中村 ネットワークでもコンピュータでもいいんだけれど、最初に申し上げたように、なにしろ新し物好きなのは間違いなくて、なんで新しいものが好きかって言うと、そこに自分の新しい表現の可能性があると直感的に読み取るわけですね。その一つがネットワークだったわけで、普通、アナログの油絵とか彫刻などで相手の作品に手を入れるのは犯罪ですよね。だけどデジタルの世界っていうのは、コピーとオリジナルの差がない。だから連画では、相手の著作物というか作品に手を入れて、しかもそれを自分の絵に作り変えてしまうわけです。相手の力を借りつつ、自分の個性を最大限に発見できた。その材料になった、その助けになったのがネットワークとコンピュータ・グラフィックスだったと思うんです。答えになってますか。

矢野「カンブリアン・ゲーム」の命名の由来は。

中村 カンブリアン紀って、地質学上の区分で、白亜紀とかみなさんご存知ですよね。カンブリアン紀は、ものすごく多様な生物が一気にブワーッと出た時期なので、それにあやかって我々も、創作物がドバーッと大量に出るようなシステムが欲しい、そういうことをしてみたいと思って、名前をつけたんです。連画っていうのは、どっちかって言うと、たとえば小野田さんに渡して返してもらって、意外と一本線なんです。だけど、カンブリアンていうのは、どの人の絵にリンクしていくかわからない、一気に網の目のように広がって行く。

中村 みんなの心の中に、「俺はひょっとしたらできるかもしれない」というポッとしたともし火はともると思います。だいたい絵って、みんな苦手だと思ってるんですよね。連画っていうのは、長い間F1級のレースしかしてこなかったと思うんです。各国のアーティストとか、とくに優れた人、優れたって、ちょっと語弊があるけど、そういう人たちとのあいだでセッションはうまくいってたんだけど、もうちょっと敷居を低くしたいっていうか、もっとみんなの中に、創意とかオリジナリティとか、「個」とかっていうのが隠れているはずで、もうちょっとリラックスしてやってほしいという願いがあったんです。手のひらサイズにちょっと太目の描線っていうのは、絵を意識しないんですよね。この手のひらにちょっとメモを描くとか、チョコチョコっと図を描くというのは、まあ、だいたいの人は絵と意識しないので、気楽に書いて、やってみないとわかんないので、今度やってみます。
  

今回の複雑な連立方程式を解く鍵は「顔」ではないか


中村 ひとつ言えることは、連画っていうのは共同制作ではないんですよ。カンブリアンも、共同してネットをつくっているわけではなくて、一枚一枚、自分で責任もってやる。いままでの世の中って、たとえば会社組織にしても、絵の世界にしても、一つの壁画をみんなで、群れになって仕上げるといった意識にぶら下がってた部分があると思うんだけど、連画なんか、全画面渡していくわけですよ。その全画面に対して責任を持つ。カンブリアンの小さなピースも、自分だけのものなんですよね。自分がその一枚を書いて、ネットの中で構成していく、自分がそのネットを支えていくって言うの。だから群れとして強力っていうのかなあ、強靭って言うんですかね。見せかけのものではなくて、もろさを補っていくような気がするんですね。

矢野 そうですよね。ここには何かがあると思うんですね。先ほど来、中村さんが安斎さん、安斎さんと言っていますが、じつは安斎さん、会場に来ておられますので、ちょっとご紹介しますね。中村さんの絵のお相手でもありますけれども、説明にあったように、プログラムもお書きになるんですよね。最初の有名なプログラムって、何でしたっけ?

安斎 スーパータブロウというフルカラーのペイントシステムです。

矢野 そういうペイントシステムをお作りになった方です。ついでにと言っては変だけど、今の件で何かお話になることがあれば、せっかくだから。

安斎 とんでもないところでふられちゃいましたねえ。最初に演者を3人並べた時にですね、非常にむずかしい連立方程式っていう感じで、矢野さんはどういう会をつくろうとしているのかと思ったのが(笑)、少し見えてきたなという気がするんですけども。 面白かったのは、小野田さんが最初に顔の見えるネットワークが大事であると。中村さんの話の中にも顔が出てきた。顔がキーワードかなっていう気がするんです。ぼくらは今年、Orkutというサイバースペースのネットワークにはまりまして、これはみんな自分の顔を出すんですよね。自分の顔でそのままコミュニケーションしてる、それがすごい面白かったのね。  今日来るとき、中吊り広告に2ちゃんねるがどうとか出てましたけども、2ちゃんねるって、完全に顔から遠いっていうか、名前もない、完全に匿名の世界ですよね。ここら辺に先ほどのリアルスペースとサイバースペースの図ですね、僕は、それほど単純じゃないなという印象はあるんですけど、おそらくそこを解く鍵に、顔っていうのがあるんじゃないかという気もするんです。それから、政治と顔というのは非常に密接な関係があるんじゃないかなと、そういうわけで連立方程式を解く一つの変数として、顔について皆さんどう思っているかお聞きしたいと思います。

矢野 とりあえず、いまの安斎さんの問いかけに答える人います? 発言したいという人。どうぞ。ちょっと紹介しますけども、明治大学法学部の夏井高人先生です。最初の頃からシンポではお世話になっております。

夏井 ちょっと黒板借りていいですか。三角形書いていただけますか。リモートで連画をしている(笑)。それぞれの角のところにちっちゃな丸を書いていただきたいんです。一応三つのノードがあって、それぞれ、何かのコミュニケーションで結ばれたネットワークの概念図のように見える、連画のつもりです。WSISの話だとか、連画の話とか、市民ネットワークの話はこれで説明できるんです。いまの顔という話もこれで説明できるだろうと思ったので、正しいかどうかご意見を伺いたいと思います。
 どういうことかと言いますと、WSISをやった時に日本で報道がなかったかというと、そうではなくジャカスカやったんですよ。ただ、いろんなベンダーが広告を出してくれた新聞社がウワーっと何面かぶち抜きでやった。主にWSISでこういうのを売りましょうというのをやった。普通のITと言われている世界では、一番てっぺんにベンダーが来て、下の二つはコンシューマーとかカスタマーです。こういう世界では三角形のように見えるし、コミュニケーションは下のカスタマー同士でできるんだけれども、たとえばピア・ツア・ピアでコンテンツを流すと、警察が現れてだめだよという不思議な世界です。でも、コピーライトが関係ない連画の世界みたいなところではどうぞやってくださいと、いうふうになっている。そこで大事なキーワードは、ベンダーの利害にからんでいれば警察が現れるし、ベンダーの利害に関係なくお互いに同意していればいい。その、同意しているというところが大事なんですね。
 次にWSISにいきますと、みんなそれぞれですね、何らかの国だったり、団体だったりするわけですよ。何らかのネットワークで繋がっているように見えるけれども、全部利害関係が違って、コミュニケーションの手段としてこの糸を使っているだけなので、いやになったら勝手に切っちゃう。でもどうにかつなごうという意欲はあるので、かろうじてネットワークの格好になっている。これを崩しちゃうと、ぐしゃっとつぶれてしまうので、とにかく繋いでいたいんだけども、ほんとはみんな背を向けたがっていたりするという、そういう構造になっていると。
 市民団体のほうに行きますと、それぞれ市民団体があるんですけれども、それこそ個人力って、さっきおっしゃってたけれども、団体が積極的に何かやろうとしないと、この丸が極限まで小さくなって、ただの線だけになってしまう。あまりやりすぎると、団子が三つあるような、ただそれだけの絵に見える状態になってしまってですね、ネットワークにならない。というわけで、連画で説明できるんじゃないかなと瞬間的に仮説を考えたんですけども、これ、どうでしょうね(笑)。

矢野すばらしい解をいただいたような、しかしよくわからなかったというか……(笑)。関連して、こじんまりした会でもあり、自由に発言していただければと思います。どうぞ、ジャストシステムの小林龍生さんです。


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