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若槻  若槻絵美と申します。よろしくお願いします。私、講演会でパネルディスカッションを楽しみにいくと、各パネリストの話でほとんど終わっちゃって、ディスカッションがあまりないのっていうのがよくあって、すごく悲しい思いをしますんで、今日は私の話は手短にさせていただいて、すぐに会場との双方向のお話になるようにしたいと思います。
    「著作権と創作活動」ということでまとめてみました。法学部主催ということで、法学部の学生さんがわりといらっしゃるのですかね。私も大学は法学部なんですけど、あんまり学校で著作権というのは教えてくれなくて、社会に出てから著作権というのがあったって感じになることが多いんですが、実はインターネットを日常的に使っていらっしゃる皆さんにとって、著作権は非常に身近な法律問題なんですね。法学部であれば、ある程度聞いたことがあると思いますし、また文学部の方とかコンピュータ・プログラミングなんかをやっていらっしゃる学生さんなんかにも身近な存在かと思います。
 著作権は何かということを、インターネットを中心に話しますと、他人のホームページとか電子掲示板に載っている文章や写真を無断で自分のウエブサイトに持ってきちゃうとか、テレビとかビデオで見た画像を取り込んで、それを自分のウエブサイトに載っけるとか、あるいはあるキャラクターを真似て書いた絵を載せる、音楽や歌の歌詞、CDから取り込んだデータなんかを載せる、こういうものは全部、著作権違反、著作権法違反なんですね。ポイントは無断で載せるというところです。

著作権があまり強化されると創造活動に支障がでる

 著作権は長く話すと難しいんですけれども、著作権というのは著作物、思想または感情を創作的に表現したもの、小説、絵、画像、何でもいいんですけれども、そういったものを著作物と言っておりまして、これを創作した人を著作者と言います。著作者というのは、著作物に関して権利、著作権を持っているんですね。
 著作権は英語でCOPY RIGHT(コピーライト)と言いますけれども、基本的には、コピーする権利、逆から見ると、勝手にコピーされない権利ということになっていて、その内容が細かく分かれているんですけれども、一応、図では「公衆送信権」という文字だけ色を変えておきました。ウエブサイト上に著作物を載せる権利ですね。言葉は難しいんですけれども、インターネットで発信したい場合には、公衆送信権を持っている著作者に対して許可を得ないといけないというのが基本です。
 そういうことがあまりちゃんと教えられていないので、いろんなウエブサイトで「これはぜったい無断でやっているでしょう」というようなページを見かけることがありますが、日本の場合、人のものを真似するとか、持ってきちゃうということに対して寛容な国民性があるのかなと。これは私的な見解ですが、あまりとがめられたり、著作権法違反で捕まった人が何人もいるとか、あまり聞いたことないと思うんですが、厳密には法律違反なんですね。そういう法律違反がたくさんあるという現実がまずあります。
 次に、それとは別な話として、著作権を強くしようという動きが、いま世の中であります。もともと著作権制度というのは、作った人の努力をたたえて、それを保護してあげましょうというものです。作った人が一生懸命やったものを、勝手に横取りできるようなことがあっては、作った人がかわいそうですねということで、作者のインセンティブを高める、さらにそういった著作者を保護することで、もっといいものを作ろうとみんなががんばるということで、文化の発展にも寄与するというのが趣旨です。
 それはそれとして、いまの日本では実はポケモンですとか、キティちゃんとか、そういう著作権がからむ商品を世界で売り出そうと考えている人たちがいます。それにともなって、コンテンツを大事にしないといけないね、著作権法を著作者の有利になるように変えていきましょうということになっています。
 そういういったことが「知的財産推進計画2004」に書かれているんですけれども、アメリカでも、デジタルミレニアム著作権法と呼ばれる新しい法律ができて、著作権を強くしています。  ここでちょっと考えていただきたいのは、日本の著作権に関する寛容な姿勢はさておき、著作権をあまりにも強くしちゃうと、だれも真似できなくなっちゃうと。著作物というのは、もともと昔からあるものに手を加えて新しいものを作るというのが、普通の著作物の発生の仕方なわけです。科学技術の進歩なんかもそうですよね。昔の人が作ったものに何らかの改良をしていい物ができていくわけで、文化、芸術の世界でも、やはり同じなわけです。そういう音楽とか、絵の世界でも、何らかの前に作った人の物を見てうまくなっていくし、自分自身のスタイルを作っていくというのが基本にあると思います。
 そのなかで、そういう活動も自由にできなくなると非常に困るわけです。若者にとっては、これから伸びようとするクリエーターを想像していただければいいんですけれども、いま、ネット社会ですから、インターネットからそういう素材を持ってきたり、自分の発想を得ようとしていろいろ見たりすると思うんですが、そういった自分の創造性を高めるためのコピーもできなくなるのかな、ということになるんですが、そこで「クリエイティブ・コモンズ」という運動の紹介です。
 クリエイティブ・コモンズというのは、著作権に関して、自分で著作物の使い方を考えようという運動なんですね。資料では「著作者の意思の尊重」と書いてきたんですが、基本的にコピーをする権利とか、人にコピーした物を配る権利が著作者にはあるんですけれども、いったん作った物をみんなに使ってほしいという場合には、そういう許諾条件をあらかじめ決めておく仕組みです。つまり著作権があるという前提ですが、著作者がオーケーすれば無断でやったことになりませんから、使おうという人たちに「いいですよ」、「これをコピーするのは構わないですよ」ということを宣言してしまう仕組みを考えようというのが、クリエイティブ・コモンズの発想です。

自分の考えを決めて、マークで表示

 自分の著作物を、文章でも絵でも何でもいいんですけど、作ってからこれをインターネットで発表してみんなに使ってもらおうという時に、クリエイティブ・コモンズのウエブサイトにいきますと、三つの質問をされて、これに答えていくことによって使い方が選べるようになっています。
 一つ目が「著作者表示を希望しますか」。つまり「自分が作ったんだよ」と。「どこのだれが作ったんだ」ということを、その著作物に表示してもらえれば、だれでも使っていいよという話です。二番目が「営利目的利用を許しますか」。営利か非営利でわけるということです。自分の著作物を使って商売をされたら、「ちょっといやかな」という人もいるかも知れないし、「それも構わないよ、どんどんやって」という人もいるかもしれない。そういう意味の選択肢を用意しています。
 三つ目が「著作物の変更を許しますか」で、ここが一番大きいわけなんですが、もともとある著作物に何らかの手を加えて別の著作物を作る場合、著作者の許諾がいるわけですが、これをあらかじめ許すかどうかを決めます。「変更しますか」という所を「イエス」にした著作物がたくさん出回ることによって、インターネット上の住人のクリエィティビリティが促進されるという考え方なわけです。
 三つの質問に答えると、いくつかのマークが使えることになっていて、一つ目は著作者表示ですね。「著作者表示をしてください」という前に丸で囲んだマーク。「営利目的利用はしないでください」という意味のドルに斜線を引いたマーク。日本だと、円に斜線が入ったマークですが、まあ「お金を取るようなことはしないでね」ということになります。三番目と四番目は先程の「変更を許しますか」という部分で、「まったく許さない」というのであれば、イコールのマーク。これはわかりやすいですね。四番目がちょっと複雑なんですけれども、「自分のつけた条件と同じ条件を、できた著作物につけてくれるんだったらばいいですよ」という条件付のOKマーク、これら四つのマークを組み合わせて使うということになります。
 マークによって意思表示をするということ自体、法律的には新しいんですが、著作物の使い方というのを最初から決めちゃって、みんなに開放しようというのが、この運動の新しい発想になります。
 いまどんなことになっているかをざっとご説明しますと、クリエティブ・コモンズ・ジャパンという団体があります。これに私も入っているんですが、もともとはアメリカで生まれた運動です。ローレンス・レシッグ(Laurence Lessig)というインターネットと著作権問題などに関心が高いネット上の有名人で、スタンフォード大学の法律の先生です。憲法とか裁判法の先生なんですが、この方と仲間何人かの方で始めた活動です。
 あまりにもコピーライトが強いので、それを何とか打開したいというところから思いついたということです。それが2001年のことですが、日本にその考え方を導入しようという動きが始まったのは2003年です。アメリカの著作権法と日本の著作権法は違いますので、そこから合わせなければいけないことがありまして、私と有志のボランティアの弁護士が働いて日本版を作った経緯があります。
 アメリカで始まったクリエイティブ・コモンズ運動を世界中に広めようとしており、それを『アイコモンズ』と呼んでいます。日本が最初の例だったんですけれども、いまやイギリス、フィンランド、ヨーロッパ各国、それからブラジルなんかも含めて23か国ぐらいにクリエイティブ・コモンズ関連の団体があります。
 単純に自分たちの言葉に翻訳をして、翻訳したあと、それが自分たちの国の法律にあっているかという分析と、これに合わせた改正をするという、三つのステップを踏んで活動しています。そのことを「ポーティングporting」とアメリカでは呼んでいるようですが、日本はこのポーティングを一通り終えた段階で、あと日本版をどれだけみなさんが使ってくれるかというところをウォッチすることになっています。

著作権強化の動きに歯止めをかけたい

 クリエイティブ・コモンズを実際に使っている例を三つほど紹介しておきます。一つがMIT、マサチューセッツ工科大学ですね。講義プリントをインターネットで公開して、自由に利用できるようにしてありますが、ここでの条件はまず著作者表示です。つまり「MITのところから取ったよ」、「だれだれ先生のプリントだよ」ということを表示しないといけません。それから「営利目的で使ってはいけないよ」、商売のネタにしてはいけないということ。それから同一条件の著作物の許諾、二次的な著作物を作ってもいいけれども、非営利目的利用を守ったまま使ってねということです。MITのプリントを何枚でも印刷できるし、それを本にしてみんなで勉強もできるということですね。
 二つ目の例はBBC、イギリスの国営放送です。ここは思い切ったプロジェクトを考えていて、BBCというのは歴史のある放送局ですから、たくさん映像がファイルとして残っていますが、その映像を貸し出そうではないか、「使っていいよ」と言おうということを始めています。最新情報では、来年から本格始動をするようですが、細かい利用許諾条件はわかりませんが、BBCが持っている自然の風景の映像などを使って、自分のオリジナル作品が作れることになるはずです。ただ残念ながら、この仕組みはイギリスの国民の払っている受信料でまかなわれたものなので、イギリスに住んでいる人以外には使えないようです。BBCというのは日本のNHKとは違って、受信料を払わないと最悪で懲役刑になっちゃうらしいんです。ほとんど税金といっしょのようなものらしく、イギリス国内からのアクセスでないとだめということです。
 三番目ですが日本のNTTサイバーソリューション研究所がクリエイティブ・コモンズの仕組みを使ってクリエイターのデビューをさせようと、クリエイティブ・コモンズのマークをつけた著作物を発表するポータルサイト「デジタルコモンズ」を作ってくれるようです。
 クリエイティブ・コモンズの一つの問題点としては、これはインターネット上でどこでもある問題なんですけど、本当にその人が「使っていいよ」と思ってつけているかどうかがわからない、「他の人が勝手につけちゃったやつかもしんないよね」というのがあるんですが、一応そういうなりすましを防ぐ認証の仕組みも考えたポータルサイトになると聞いています。
 まとめですが、クリエイティブ・コモンズとは何かということをひとことで言うと、著作権強化の動きにちょっと歯止めをかけよう、著作者の許諾をあらかじめ合意して決める形で著作物の利用を促進しようということです。ですから著作権法を否定しているわけではないですね。一応著作権法のしくみは前提としながらも、個人の意志で何とかできないかということで始まったものです。それによって新しい物ができるかもしれないという期待がかけられています。
 日本の状況で言うと、コミケとか田舎の町の商店街だと、これはキティちゃんじゃないの? みたいなポスターが平気で貼ってあったりして、あんまり著作権ということを正面から考えていないかもしれないので、逆にこのクリエイティブ・コモンズ運動が広まることで、「著作権というのがあったんだ」みたいな啓蒙的な意味を持ってしまうかも、と私自身は思っているんです。いずれにしても、著作権はこれからぜったい無視できないですね。
 話は以上です。もっと詳しくお知りになりたい方はクリエイティブ・コモンズ(http://www.creativecommons.jp/)のサイトを見ていただければと思います。
 荷宮さんとペクさんのお話に関して何らかのコメントをせよというお達しが出ているんですけれども、私自身は法律屋であまり文化に関して詳しくはないんですが、荷宮さんのお話の中で、まず団塊ジュニアって何年生まれのことを言うんでしたっけ。

荷宮私より若い人です。

若槻そうすると、私も団塊ジュニア世代?

荷宮 親が団塊の世代ということなんですけど、実は同じクラスでも、親は戦前派だったりもするんで、私は、自分より若ければそれでいいと思っているんです。




若槻

団塊ジュニアとして、自分に当てはまらないと思うことも

 今年30歳になるんですけれども、団塊ジュニアということで他人ごとではなく聞いていたんですけれど、いろいろおもしろいご指摘がありまして、そのなかで「がんばらなきゃいい結果を出せないというのがあたり前だったはずなのに、がんばっているのはカッコ悪いという風潮がある」というコメントがあって、それ以外のところはあんまり自分に当てはまらない感じがしたんですが、そこのところはその通りだなと思いました。
 と言っても、微妙にニュアンスが違うのは、がんばらなきゃ結果がでないというのは一応わかっているんですけど、がんばっていることが他に知られるのがカッコ悪いみたいな、テスト前に「勉強してるぞ」というのを人に知られると「あの人何?」と言われるのがカッコ悪いというのは、私の回りの世代とか、私自身にもあるなと非常に共感しました。
 私も仕事柄、2ちゃんねるに名誉毀損をされたので書き込んだ人間を知りたいということで、だれが書いたのか突き止めるために裁判所に行き、ひろゆき(管理人の西村ひろゆき氏)に教えろという命令を出してくださいと頼むんですが、けっこう大変なんですよね。
 そういう作業をやっているなかで、仕事ですから、実際のスレットを見なきゃいけないんですけど、そういうの見ると気分悪くなっちゃうんですね。代理人なのに依頼者と同じような気分になってしまって、かなりへこたれてしまうんですけれども、独特の世界だなというのはいつも感じています。相手がどう感じるかっていうことをまったく考えていないというのが、すごく大きいなと思っています。
 ペクさんのお話で、この言葉は実際にペクさんの口から出たんじゃないですが、キーワードは双方向性ということかなと思いました。結局、日本のメディアは一方的にただ発信しているだけで、韓国の方は情報を受けた方が感じたことを発信する場が設けられているという意味で、双方向であると。
 そのあと教育という話も出て、日本ではきちんと教えてないんじゃないかというふうにおっしゃっていましたが、私も情報モラルに関して学校の先生の研修会みたいのに呼ばれて話をしたことがあるんです。その時にちょうど小学生のクラスの女の子を殺しちゃった事件があったので、「子どもにインターネットを教えるには、何を教えたらいいんでしょう」と聞かれたことがありまして、そのことをペクさんのお話を聞いて思い出しました。私は教育のプロではないんですけど、やっぱりコミュニケーションということなのかと思いました。
 リアルワールドでは相手がどういうふうに受け止めているかを、顔とか言葉の雰囲気とか、抑揚とかを見ながら話をしているんでけれども、インターネットとか、メールのやり取りだと、本当に字だけなので、そこまでは読めないんですよね。本当は想像力で補ってほしいところなんですけど、それが生まれたときからインターネットと関わる世代だと、あんまりないのかなというふうに思って、学校ではぜひ相手がどう思うかということを考えながらネットを使うことを教えたらどうでしょうかと言ったんですね。そんなことからディスカッションの方に流れたらいいなと思います。

矢野  さっきのお二人の話といまの話は、ちょっと違うとお感じになった人もいると思いますけれども、このシンポジウムでは若い人たち、これからネット社会に出ていくというか、社会の現場に出て行く人たちに、ネット社会がどんな問題をはらんでいるかを広く知ってもらうことを目的としているので、そういうふうに受けとっていただきたいと思います。ネットの使い方はさまざまあるという話と、ネットにはさまざまな問題があるという話をしていただいたわけです。
若槻さん、団塊ジュニアとして、先のお二人の話に関するコメントも含めて、ありがとうございました。
 ペクさんの話に出たJanJanは朝日新聞の記者をしていて、のちに鎌倉市長にもなった人が始めたんですね。彼は最初から「韓国のオーマイニュースと同じようなことしたい」と言っていましたが、相談を受けたとき、僕は「うまくいかないんではないか」と答えた記憶があります。
コミュニケーションのスタイルがきわめて日本的ですね。欧米のインターネットの使い方とはずいぶん違っているわけだけれども、同じアジアなのになぜ韓国ではうまく機能しているかというのはたいへん興味深いと思っているわけです。
 現代の若者、ここにおられる皆さんがこれからどういうふうに生きていくかをめぐって、これ以降の議論は……、以降の議論って、正式にはもう5分しかありませんが(笑)、「10時まで空いているので、どうぞごゆっくり」ということなんで、10時までということはありませんが、少し時間がありますので、もう一度、荷宮さんがペクさんのお話を聞いてお感じになったこととか、ペクさんが若槻さんのお話を聞いてお感じになったことなど、手短かに発言していただき、次いで皆さんからの発言をお願いします。僕の感じでは、いまの学生たちの年代は2ちゃんねるにあまり親しんでいないと思います。もう少し歳が上の人たちの世界ですね。そういうことも含めて、感じていることを発言してください。学生でない方のご発言も歓迎します。


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