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荷宮  著作権に関しては、専門外というか、学生だったころにそういうのがあったかもしれないけど、あんまり記憶になかったということで、コメントのしようがなくて申し訳ないんですけど、ペクさんのお話に関連して……。
    私自身、あまり2ちゃんねるを中心には見てないですね。なぜかというと、2ちゃんはあんまり長いと切られます。省略されて、とにかく3行ぐらいでカッコよくビシッとやるのが頭のいい人というのが、いまの日本の、そして2ちゃんねるの中心になっているわけです。小泉純一郎とか、石原慎太郎とか、物事をズバッと言う人が賢いんで、だらだら自分の意見を述べるのは物事をきちっとまとめることができないバカなんだというのが、日本人のある時期以降からのコンセンサスだと思うんです。
 現実がそうだからこそ2ちゃんもそうなんですね。学生さんに関係あることでは、最近の亜細亜大学や国士舘大学の事件なんか見るたびに、「やられる方も悪いよね」って言う男もぜったいいると思います。こんな場に、遅くまで授業に出るまじめな人たちは「俺たちには関係ない。そんなの、俺たちに言われたってしょうがないよ」というのが本音でしょうけど、そういう人たちとそうじゃない人たちの接点はあるんだし、みんなで雑談してる時、あなたたちの知り合いの中でも「ああいうの、やっちゃってもいいよね」と言う人はぜったいいると思います。
 そういう時、それをするっと逃げるんじゃなくて、「そういうのは人としてどうよ」と言える男の人になってほしいと思います。女の子をやさしく包む、肩を抱いてあげるのも、大事な人のことを大事にするのも男しかできないんでから。人として何をすべきかという正しい答えは、もうこの歳になったら出ると思います。

ペク 私は、会場からの声を聞くために遠慮しておきます。

矢野 それでは、質問とか意見とか、遠慮なく手をあげて。

茂木(法学部4年) 本日はありがとうございます。荷宮さんの話で、「しろ」って言われたら「やります」という若者が多いという話があって、ほんとにその通りだなと感じるんですけど、それは何が原因なんでしょうか。主体性といった意味でいま感じているのは、たとえば何かをしたいと思った時に、先生なんかに「そういうことをやっちゃだめです」とか言われることがいままでにけっこうあって、そういったことが関係しているのかとも思ったんですね。

荷宮  私たちは「おたく」と呼ばれた最初の世代です。自分さえ気持ちよかったら、別に回りがどうだろうといい。いい歳をして「ヤマト(宇宙戦艦ヤマト)」とか見てたら、「おかしいよね」というのが一応常識としてあることは、頭ではわかっているんだけど、「私はおもしろいと思うから見るよ」という感じで、自分さえよければよかったんですね。だから「女の人は腰掛就職して、結婚するのは普通よね」、「うん、それが普通ですよね。で?」という感じで、やりたいことがあったら、それをやって、回りにどう思われたってよかった。
 だんだん回りを見ないと生きていけないというか、回りを見なきゃいけないみたいな価値観が妙に増えてきた。神戸で働いていたとき、神戸で生まれて育ったから、神戸の団塊ジュニア、10代の子がほしがる服やアクセサリーは何かわかっていたけれど、結婚して東京に来て働くことになった時に、東京の人に「東京だったら、何を仕入れていいか自信ないです」と言ったら、「大丈夫、みんな同じ格好しているから」と言われたんですね。「そんなバカな」と思っていたら、ほんとにみんな、こんなイヤリングして、こんなポロシャツ着て、これくらいのスカートはいて、みんなルーズソックスはいて、ほんとにみんな同じ格好していた。
 回りのことを気にするんですね。だから「これ、かわいくな〜い?」とか言い出したんです。いまどきの女子は「うそ〜」「ほんと〜」「かわいい」しか言わない、って言われたのが私の世代だったんです。その下の世代は「ねえ、これ、かわいくない?」です。「かわいい」と言いたいんだけど怖いみたいなんですね。
 私より下の世代は、小さいころから回りと横並びで見てたみたいです。大人になって人と違うことをしたり、「いやだなあ」と思ったことを表に出して、「あの人、みんなと違うことを考えている」とばれたら怖い。だから、「ねえ、これ、いやじゃない?」とか言えないかもしれないし、そうやって育ってきたら、大人になった時点で、それを言うことすら忘れているというか、言い方を知らないですね。理不尽な目にあった時にどうしたらいいのかわからない。知らないまま大人になって、それでいままでやってこれたんだからこれからもやっていきましょう、みたいな感じ。
 何でそうなっちゃうのか、何でそんなに横ばっかり見るのかは、ちょっとわからないんですけど、ただ私たちが回りを見なさすぎたのかもしれません。私が20代だった時の80年代は、自分さえおもしろければいい、好きなことをやって、やりたいようにやってた世代なのかもしれません。下の人は何か違うみたいですねっていうぐらいの、疑問の提示ぐらいしか私はできなくて、なぜそうなったのか理由の分析まではわかりませんけど、私からはそう見えるんで、そう見えますと話させていただきました。



茂木
日本人はなぜ挑戦することを抑えるようなことを言うのか

 僕には夢があって、それを実現したいと思っているんです。メジャーリーグのイチローさんが言っていたことで、彼が野球選手になった時に親戚中のみんなが「芽が出るわけがない」と否定的だったと。僕がいまやっていることに関しても否定的な言い方をする人がいらっしゃって、否定的なことを言う人が日本にはなぜこんなに多いんだろうと感じています。僕がアメリカに行っていた時は、回りの人はみんな「できるよ」と言ってくれたんですね。日本の文化はなぜこんなに否定的なマイナス面が入るのかなっていうのが、僕の中に疑問としてあるので、その点、お話しいただきたいなと。

矢野 それに関連してどなたか。

夏井  いろんな考えがあると思うんだけど、日本はやっぱり数が多すぎるんだよね。だから、だれか一人に成功してもらっちゃ困るんだよ。そういう所なんだと思う。だからだれか成功しそうになると、成功しないように一生懸命足を引っぱって、本人が勇気を出さないようにマインドコントロールするんだと思いますね。
 いま聞いていて、おもしろいなと思ったのは、いろんな考えがあると思うんですが、私の生き方をちょっと披露すると、私は精密なデータベースを頭の中に持っています。それを作るためにものすごくアンテナを張っている。どこに穴があるかを知るためなんですね。人が研究していない分野をいち早く見つけてそこを研究すれば、前例がないから、一番簡単に論文書けるんだよね。その分野で第一人者になれるわけ。だれも自分のやっている分野に興味がないんだから、批判もされないわけね(笑)。
 つまり、すごいやつかどうかも評価できないから、目立たずに第一人者になれる。というわけで逆データベースをつくりましょう。これが日本で生きていく唯一の道です。結局、人と同じことをやっているようなふりをしながら、ぜんぜん違うことをやって、しかも目立たないようにやるというのがいい。批判されようと何されようと「へっ、へっ」と笑って暮らす凄さ、無神経さ。そういう無神経さと、ものすごいアンテナの張り方を同居させるだけの、ある種の心のコントロール、そういう強靭さを持たなきゃいけない。そのためにはまず、何をおいても体力ですね。飯を食って、運動して、走り込んで、山登りをして、1週間や2週間寝なくても死なないくらいの体力を持つことですね。体力を持てば大丈夫という、すごく体育界系の話ですけど(笑)。

荷宮  会社勤めをしていたころを思い出しましたけど、一人抜てきされたら十人がクサルから、だれも抜てきしないようにしようっていうのが人事部の考え方ですね。だれかが異動の希望を出しても、全員の希望を聞くなんて無理じゃないですか。聞いてもらえる人と、聞いてもらえない人ができたら、聞いてもらえない人がクサルじゃないですか。だから全員の希望を聞かないようにするっていうのが、日本の人事部のやり方だったです。
 じゃあ、自分の希望を悟られないようにしながら、こう言えばあそこに回されるなとか、とくに女ですから、ポストが少なく、前例のあるポストにしか受け入れられないし、女のくせに抜てきされたら、回りの男はさらにクサル。そういうのをいろいろ裏読みしながら、お互いにやってきました。
 人事部っていうのはいやらしいもんだということを、みんなわかりつつ、お互い探りあって生きてきたわけですけれど、いまの子はのん気というか、そこまでの人間のいやらしさを知らないまま大人になれちゃっていますよね。不況だから、みんないい会社に入れないで当たり前、これは自分のせいだけじゃないみたいな、世の中のせいにしすぎているような気がします。
 もちろん世の中のせいでもあるんです。いくらいい成績とってもいいとこに入れない、それは事実だけど、あのころは女だったり、部落だったり、朝鮮人だったら、ぜったいに入れなかったんですね。そういうのは少しマシになったけど、その分、上から抑えられている。人間のいやらしさを知らないまま大人になったから、人事部のいやらしさを読むこともできず、「僕は異動を希望したのにだめだった。許せない。やめちゃいます」みたいな。
 あなたの夢を実現するために、回りにいやなことを言う人はいくらでもいます。私もいやなことは言われたけど、あまり覚えてないですね。いやなことを言われたからといって、その人が人事の決定権を持っているわけじゃないでしょ。あなたの夢をつぶす能力があるわけじゃないですよね。だから2ちゃんねるにゴチャゴチャ書くんです。

矢野  夏井先生が夏井流の処し方を話してくださったわけだけれど、たしかにイチローもそんなふうに言われたんですね。最初はそんなに突出したおらず、いかにも言われそうな感じだったんだろうと思うけど、彼は自分の説を曲げないで、メジャーに行って、メジャーでも一流になった。その時に日本人はどうするかというと、完璧に崇拝するというか、あがめるわけだよね。日本社会の中で突出することはいやがるけれども、外国で突出しちゃえば、あとはほんとに楽だということでもあるんですね。
 それで、かなりの人が海外に出た。学者もそうですけど、海外で活躍をする、英語で勝負する、フランス語で勝負する、そうすると、あとは万歳という状況になっていく。そういうことはもうそろそろ直さないと、優秀な人材はみんな海外に行ってしまう。プロ野球も、優秀なのはみんなメジャーに行ってしまうということではだめなんだね。
 そういった状況を変えるツールとして、僕はインターネットに期待もしているわけだけど、そのインターネットが日本ではそういうふうに使われていない。そこが問題なんですね。僕はあなたみたいな人は、これから大いに活躍をして、みんなから「すごい」と言われるようになってもらいたいと思います。

菊地 (経営学部4年) ペクさんに質問したいんですけれど、欧米は自ら表現しないと認められないと言うか、そういうのは、すごくよくわかります。ただ韓国と日本は同じアジア圏で、類似した文化を持っているのに、ネット上の表現で、積極性に対する温度差がなぜ生じるのか。それは何に起因するのかということを教えていただきたいです。


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